第6話 『気が進みませんが、今度は私がやります』
「今、手下共がマレリスに攻撃をしているからアディアの周りは完全に手薄じゃな……」
フィゲロアの時もそうだったが、なぜ我が軍はこうも大将が手薄になるのだ? ……あれでは奇襲してくれといっているようなものではないか。
我輩が元の体に戻れたら徹底しなければならんな……元の体に戻れたら……か、我輩は元の体に戻れる日はいつになるのだろうか? そもそも戻れたとしても悪魔四天王が欠けてしまっているから戦力はガタ落ちしてしまっておるが……。
「じゃあ、今のうちにやっつけちゃおうよ!」
そしてまた戦力が消えると……。
しかしフィゲロアの言っていた事は全ての悪魔達に伝わっているのは間違いない、魔界統一の時のように敵になってしまったからには我輩も後には引けぬ。
「そうだな……アディアも油断しておるみたいだし」
「ふむ、じゃったら奇襲をしかけるかの」
まぁこの状況じゃそうなるな、夜で辺りも暗い、手薄、まさに今がチャンスだ。
「……また、ですか……」
うわ……ベルトラは露骨にいやな顔をしているな。
「……わかりました……気が進みませんが、今度は私がやります」
「え? ベルトラが?」
何故だ? あんなに嫌そうだったのに。
「フィゲロアの時のよう、どこかの誰かさんみたいにチャンスを逃してしまっては元も子もありませんから」
ぐふっ! その時の事をいうのは止めてくれ! 心に突き刺さる!!
「そんな事言っちゃダメだよベル! デールが傷ついちゃうよ!」
そうだそうだ! エリンの奴ちゃんと我輩のフォローしてくれるではないか。
「そりゃ~たかがあの高さから飛び降りたくらいで怖くなって目をつぶって外しちゃったけど……」
「ん?」
「それでも、すぐ体勢を立て直して魔法を使って攻撃もしたし! ――使えなかったけど……」
前言撤回、貴様が止めを刺しに来てどうするのだ……。
「もういい……エリン、貴様は黙れ」
我輩はその時に目をつぶってはおらんし! 魔法の事は貴様が話し忘れていたからではないか!?
「なんだよ~! せっかくアタシがフォローしてあげてるのに!」
「どこがだ!! そんなものフォローとは言わん!」
「なっ!? デールってばひどい! ちゃんと――」
「……二人とも話は終わりにしてもらってもいいですか?」
「「は、はい!」」
怒るな! 睨むな! アディアが気がついたらどうするんだよ!
「まったく、ですので……今度は私が一撃で決め――っます!」
「うおっ!? ――ゲホゲホ!!」
踏み込みの勢いがすごすぎて砂が舞い上がったぞ、少しは手加減をしろよ。
で、ベルトラは~アディアに向かって一直線、まさに猪突猛進だな……ん? ベルトラの持っている剣は……斬硬刀……? だとしたまずい、ベルトラの奴アディアの特性をわかっておらん!
「待つのだ! ベルトラ!!」
「先手必勝! 貰いました!!」
くそ! 遅かったか! ――アディアを縦に一刀両断……はしたが。
「なっ!?」
「あらぁ?」
いくら斬硬刀でも斬れないのだ、斬れるとしたらアディアではなく身に付けていたあのネックレスくらいしか。
「あらあらぁ? 何かが落ちて――ああああああああ!! わたくしのお気に入りのネックレスがぁ!! 真っ二つにぃ!?」
いや、斬硬刀に限らず物理の剣ではどれだけ切れ味が良かろうがアディア自身には関係ない。
「そんな、私の太刀は完璧だった……いや……これはまるで水を……」
アディアは人の形をしておるが体は常に液体……水を斬れるわけがないのだからな。
「……これを切ったのはあなたぁなのかしらぁ?」
「っ!!」
ベルトラの奴、距離をとろうとしているのか!? それだと駄目だ!
「あなたぁなのってぇ聞いて――」
「エリン、魔力を魔法力の方に!! 爺さんは魔法を撃ったの同時に走ってベルトラを回収そてくれ!」
『了解!!』
「おうさ!」
間に合ええええええええええええ!
「いるのぉ――」
「エアープレス!!」
「ぷぎゅっ!?」
「バシャッ!?」
空気弾を叩きつけて動きを止めようとしたが間に合ったか!?
急いでいたから魔法の加減は出来なかったが――水を叩きつけたような音はアディアか、カエルが潰れたような声は……。
「爺さん! ベルトラとアディアはどうなっておる?」
「ベルトラは潰れたカエルのようになって、アディアは水溜になっておるぞ!」
カエルの鳴声はやはりベルトラだったか……どうやら最大で押しつぶしてしまったらしい。
「ならばすぐにベルトラを担いでこっちに来るのだ!」
「はいよ! よっこらしょっと」
爺さんせめて背負うなりしてやれよ……肩に担いだら荷物見たいだぞ。
まぁそれはいいか、ベルトラが潰れるほどだ今のでアディアにもダメージ受ければいいのだがな。
「ふぅ、ほれベルトラ降ろすぞ」
降ろし方ももはや荷物状態。
「……無事か?」
「……無事か? じゃないですよ!! なんで急に押しつぶすんですか! 思いっきり鼻を打ちましたよ! いえ、それよりせっかく距離をとろうと――」
『2人とも危ない!!』
「どせい! ――ちっナイフが水みたいに変化して弾けなんだ! なんじゃいあれは!?」
『でもナイフは止めれたじゃん、ダリ爺ナイス!』
「……距離をとろうと後ろにジャンプしておったら、貴様はあのナイフで今頃一突きにされていただろうな。さすがの貴様でも空中ではこれは避けられまい」
「そんな……アディアの腕が……伸びてきた……?」
「あらぁ邪魔が入ったみたいねぇ実に不愉快だわぁ」
エアープレスのダメージはあまり受けてはいないみたいだな。
「奴の質量の分だけ伸ばせる、アディアの体は常に液体だからな。それとあいつの触れている物体系は意識をしていれば自由に液体化する事は可能だ」
それがかなり厄介なのだ、魔界の時同様にアディアの届かない位置で魔法を中心戦うのがベストなんだが……今の我輩の魔力では焼け石に水みたいだしな……。
「んん~?どうやらぁ、わたくしの事を知っている方がいるみたいですわねぇ~」
しかし、接近戦でもアディアを倒せる方法はある。我輩が出来ないのは不服だが仕方あるまいあいつを倒すためだしな……。
「ベルトラ動けるな?」
「まだ体が軋んでいますが大丈夫です、いけます」
「ではエヴンラルで砂か空気を刃にして戦うのだ、物理ではなく属性ならば奴にダメージを与えられる!」
「なるほど、では砂を……」
「で、我輩は魔法で援護する」
ほとんど意味がないだろうがないよりはマシだろう。
「わしはどうすればいい?」
「爺さんは……今は役にたたんから休んでおれ」
「なんじゃと? わしに戦うなと言うのか!? そんな事――」
「爺さんは水を殴り飛ばした事はあるのか?」
「……殴り飛ばせない奴なんぞ嫌いじゃ……」
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