第10話 贈り物。
紅い月の空から落ちる夢を見て、目覚める。
真っ先に目にするのは、ヨールの寝顔だった。
ポケーッと見つめてしまう。素敵な寝顔。
ずっと見つめていたいけれど、そっと顔を手で覆い静かに悶える。
起きよう。私は音を立てないように、ディールのベッドから降りた。
朝の支度をして、今日はハイネックの黒いニットとフレアスカートを合わせる。
クロさんの朝食もすませたら、先ずは洗濯の時間。クロさんと私で、コインランドリーに向かう。愛の街クオレジーナの赤い屋根がよく見えた。真っ赤で派手だ。空から見たハート形の街を、見たいものだ。
それにカップルが目立つ。目立つ。多いな、カップル。
コインランドリーを見付けて、溜まっていた衣服を投入。
「買い物しましょうか」
「うん」
洗濯が終わるまで、買い物をすることになった。
愛の街をクロさんと歩いていけば、ショーウィンドウの中にある一つの品が目に留まる。メタルレッドに光るカメラだ。
足を止めて、じっと見てしまった。
「カメラが欲しいのですか? そう言えば、アリスは携帯電話を持っていませんでしたね」
「うんー。欲しいような気もする」
写真撮りたい。皆は携帯電話のカメラ機能があるけれど、私は携帯電話自体持っていない。あんな景色やこんな景色を、生で写真に収める。想像しただけで、ウキウキした。
それにあんなヨール達やこんなヨール達も撮り放題。ぬふふふ。
「買ってほしいな! クロさん。狩りを頑張るので、お願い」
「いいですよ」
両手を合わせて頼んでみれば、あっさりと許可が出た。
私は両腕を上げて喜んだ。
カメラのお店に入って、物色した。値段も機能も、考慮する。結局、ショーウィンドウに飾られたメタルレッドのカメラを買ってもらった。
アリスはカメラを手に入れた!
艶めく真っ赤なカメラを手にした私は、早速試し撮りをしたくてクロさんを撮ろうとした。
そこで「アリス」と呼ばれる。ヨールの声だ。
「見付けた」
見付かっちゃった。なんて。
「どうしたの、ヨル」
「これ、アリスにプレゼント」
「へっ?」
差し出されたのは、片手で持てるくらいの小さな紙袋。小さな赤いリボンまでつけられていた。
戸惑いながらも、受け取る。
「アリスの昨日の格好見て、首元がさみしいなって思ったからよ。そしたらたまたまそれが目に留まったんだ」
「あ、ありがとう……見てもいい?」
「おう」
どうやらアクセサリーみたいだ。私は袋を開けて、中を取り出して見た。
プレゼントは、帯型のチョーカーだった。しかもベルベット素材で、深紅色。
「わあ……ありがとう! ヨル」
シックで綺麗なチョーカーだ。
何よりヨールからのプレゼントだから、嬉しい。
トクン、と胸の奥が疼く。
「つけてやるよ」
「あ、うん」
しかも、ヨールがチョーカーをつけてくれる。
ドクドクと心臓が、鳴り止まない。
顔に出ませんように。
私は短いけれど、髪が邪魔にならないように右手で後ろを上げた。
ハイネックは、左手で下げる。
背に回ったヨールの手が、首に触れた。
そこから、じんわり熱が広がっていく。
どうか、顔が赤くなりませんように。
カシャリ。
シャッター音がしたかと思えば、いつの間にかカメラを持ったクロさんが撮っていた。
クロさんんん!! ナイス!! なのか!?
「ん? なんだ、そのカメラ」
「アリスのですよ。写真が撮りたいそうで、買いました」
「ふーん、そか。ほら、つけられたぞ」
ヨールはそうクロさんと言葉を交わすと、ポンッと私の肩に手を弾ませた。首に触れれば、ベルベットの滑らかな肌触り。
「ありがとう、ヨール」
「似合ってて、綺麗だ」
そう言ってヨールが笑って見せた。ニッと無邪気そうな笑み。
トクン、と胸の奥が熱くなる。
そこで、またカシャンッと写真が撮られた。
「実はノウスとディールも、アリスにプレゼントしようと選んでるんだ。ポーチをさ。オレ、そっち戻るわ。じゃあまたあとでな」
「はい」
「うん、じゃあね」
ヨールは手を上げると、爽やかな笑顔で歩き去っていく。
それを見送ったあと、私はクロさんと顔を合わせる。
耐え切れず、クロさんのジャケットを握り締めた。
「〜っ!!」
「はい」
「〜っ!! ん〜っ!!」
「はいはい」
声にならない叫びを上げて、悶える。
クロさんは肩を撫でて、あやしてくれた。
チョーカーをつけてくれた上に、笑みで「綺麗だ」と言われるなんて。
ずるい。ずるい。ずるいよ。
顔が熱い。今、耳まで真っ赤に違いない。
ああ、好きだ。好き。とても好き。
「……ふぅ。クロさん、ありがとう。写真……家宝にする」
落ち着けて一息ついたけれど、カメラで写真を確認したら、また身悶えた。
「大袈裟ですね。ヨールばかり撮っちゃだめですよ? 流石に気持ちがバレてしまいます」
「うん。気を付ける。皆を撮りたいな。はい、クロさん」
私はカメラを構えた。クロさんは、にこりと微笑んで立つ。
カシャリ、と納める。
買い物も洗濯も終えたあと、キャンピングカーに戻るとノウスさんとディールが待ち構えていた。
「じゃーん! アリスにプレゼント!」
「ポーチだ。魔法石を入れて使ってくれ」
「ありがとう、二人とも!」
渡されたのは、シンプルな黒のポーチ。つけてつけて、と言わんばかりの目をしているディールの期待に応えて、私はベルトで腰につけた。動く時に、邪魔にならないみたいだ。
「うん、しっくりくるよ。気に入った」
「よかったー。オレはもう少し可愛い感じがいいと思ったんだけど」
「いいやここは収納重視で、どんな服にも合わせられるシンプルなものがいいんだよ」
どうやら決定したのは、ノウスさんみたい。
さっすが、モテる男は違うね。
「さて、アリスの準備も出来たところだし、狩りに行くか」
ヨールは促した。
昨日たくさん作った弾丸をポーチに詰め込み、私達はクオレジーナの街のギルドに向かう。そこで複数の依頼を受けてから、街を出た。
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