紅い月の国のアリス
三月べに
第1話 スタート。
紅い月の国。
空も地上も紅い色に染めるそんな夜がある世界が、舞台のゲームがある。
ファンタジーな世界が広がるRPG。
魅力的な主人公・ヨール。夜空色の髪と瞳を持つ青年。過酷な使命を背負い、仲間と共に戦うゲーム。
私はそのゲームに命を救われたと言っても過言ではない。
鬱病になってしまい、正直死ぬ寸前だった。原因は昔の家庭の問題だ。両親の離婚。よくある話だ。トラウマが呼び起こされて、仕事中も滅入ってしまい、人生が嫌になってしまっていた。
死のうと考えばかりで、それを終わらせてもらおうと精神病院に入院。その際に仕事を辞めさせてもらった。
入院中は読書をして過ごしていた。仕事中に気が滅入る時間もなくなったからなのか、入院のおかげなのか、私は随分楽になったものだ。
薬を処方してもらいながら、自宅で療養した。
当然、時間が空く。すぐに働く気にはなれず、もう少し楽な時間を過ごしたかった私は、暇潰しを探した。そして見付けたのは、【紅い月の国】だ。
丁度発売日。私はやり込んで楽しんだ。
オープンワールドで自由に歩き回れる。グラフィックはそれはそれは美しくて、何度も息を飲んだ。
そして、何よりも私が惚れ込んだのは、主人公のヨールだった。
高校生みたいに無邪気な笑みを持ち、整った顔立ちをしている。正義感が強く、仲間想い。でもちょっと朝が苦手で、面倒くさがりやな面もある。なんというか、ド好みだ。婚約者がいるのは、ちょっと残念。でも好き。
そんな【紅い月の国】のVRバージョンが配信された。
私はそのためにお高いVRを購入。現在ニートには痛い出費だが、【紅い月の国】のためなら、悔いはない。というかヨールのためなら、悔いはない。
現実と錯覚するVRで【紅い月の国】の世界観を楽しめるだけあって、私の期待と興奮はMAXに上がっていた。配線が複雑なVRをなんとかゲーム本体に繋げられた私は、ウキウキとしてVRのゴーグルを装着。
紅い月が浮かぶ夜空のオープニング画面が、表示されている。
左右後ろを見ても、紅に染まる藍色の夜空。星が瞬いている。
早くプレイしたい気持ちがあるけれども、その紅い夜空も堪能したくって眺めた。下は純黒だったものだから、ちょっとゾッとする。高いところは苦手ではないけれども、VRでリアルで見ると恐ろしく感じるものだ。
「あーワクワクする!」
私は声を出して、ついにスタートさせようとした。
◯ボタンを押した瞬間、ガツンッと頭を叩かれたような衝撃を食らう。
視界は、紅い夜空から純黒の下に落ちた。
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