兄弟喧嘩


 とうとう、やってしまった

 俺は、倒れたままピクリとも動かない弟を目の前にして、顔を青ざめさせる。

 こうなったきっかけは、本当に些細なことだった。


 今では思い出せないぐらいに、くだらないもの。

 それなのにたどり着いた結果は、最悪だった。

 弟が悪口を言ってきて、カッとなった俺が勢いよく胸を押した。

 そのせいで後ろに倒れた弟は、頭を強くテーブルの角に打ち付けて、そのまま動かなくなった。

 そうなってから、もう十分以上経過している。


 こうなるまでに救急車を呼ぶべきだと、何度も思った。

 しかし、警察に捕まるかもしれないと想像してしまったら、怖くて呼べずにいた。

 早く呼んでいれば、助かった可能性は高い。

 それでも、こんなに時間が経ってしまったら、もう手遅れだろう。


 俺はずっと何をすることも出来ずに、ただただその場に立って固まっていた。

 しかし早くどうにかしなければ、そろそろ親が帰ってきてしまう。

 それまでには、片付けなくては。


 俺はようやく、動き始めた。

 絶対に弟を殺してしまったのを、バレるわけにはいかない。

 だから、どこかに隠さなければ。

 そう考えて、車の免許なんか持っていない俺は、家の庭にある納戸の奥の奥に置いておくことにした。


 そしてなんとか引きずって隠し終わった時に、ちょうど親が帰ってきた。

 納戸が開かれることは早々ないから、これでしばらくの間は何とかなるはず。

 俺はそう考えて、ほっと息を吐いた。





 おかしい。

 絶対におかしい。

 それから一週間が経ち、俺は疑問で溢れかえっていた。

 納戸に隠したときは考えられなかったが、弟が急にいなくなって騒ぎにならないはずがないのに。


 全く両親に騒ぐ気配がないのだ。

 最初は安堵したけど、徐々に不審に思う。


 どうして騒ぎにならないのか。

 そう考えている俺だったのだが、納戸を確かめることも、親に聞くことも出来なかった。

 もしも、その結果がありえないものだったら。


 俺はそれが怖くて、どうすることも出来ないでいる。

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