図書室の逢瀬
彼女はいつも、同じ席に座って本を読んでいる。
長い髪の先が机につきそうなのを、かきあげる仕草はドキッとしてしまうぐらい、色気というものがある。
そして、たまにトントンと机を指で叩くのだ。
僕はそれが始まると、じっと耳をすませる。
タンタン……タタン……タン……タタタン
バラバラのように思えるが、僕には分かっている。
これは彼女からの、密やかな会話だ。
それに気がついた僕は、すぐにスマホでモールス信号を調べた。
そして分かった時に、胸が高鳴った。
『スキ』
憧れていただけの彼女が、僕のことを好きだったなんて。
知ってすぐは、話しかけたいと思ったけど、今はこのドキドキする感じを楽しんでいる。
『スキ』
彼女はいつも、僕に好意を伝えてくる。
その音を聞くたびに、とても嬉しくて顔がにやけてしまう。
本を読まないで、ただにやけている僕を周りは変な人だと思っているらしい。
それでも良かった。
彼女との時間を、邪魔されないのなら。
そして、僕は彼女との時間を重ねているうちに、どんどん欲深くなっていく。
彼女と直接話したい。
笑った顔を近くで見たい。
図書室以外でも会いたい。
やりたい事が増えてきて、止まらなくなってきた。
その欲望を抑えられなくなった僕は、その日とうとう彼女の隣に座り話しかけた。
「僕も、好きだよ」
彼女は、どんな返事をしてくれるのだろうか。
本を見ていた彼女は、僕のことを見てきて首を傾げた。
サラリとした髪が流れていくのを、僕はじっと見ていた。
まるでスローモーションのように、彼女の口がゆっくりと開く。
そして、そこから出た言葉は……
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