Hell o Heven
伊藤 諒
第1話 Hello Hell
ゴツン!
僕は激しく頭を打ったようだった。くらくらする頭を手でいたわりながら体を起こす。ここはどこだろう。僕の体は濡れていて、地面に寝ていたみたいだ。周りを見渡すと、川に隣接しているガソリンスタンドらしき建物があった。見たことがない景色に頭をかしげる。えーと、僕は確か・・・。そうやって僕は自分のことを思い出そうとしたが、頭の中に霧が立ち込めたように何も思い出せない。どうしよう。焦って顔の横に手を当てた。すると、遠くから声が聞こえた。
「お〜い!起きたんだ!少年!」
声の方に振り向くと、女の子二人と男の子が荷物をかかえて歩いてきた。
「いや〜よかったよかった。あんまり目を覚まさないもんだから死んじゃったのかと思ったよ〜」
一番背の高い女の子が薪を持ちながら話しかけてきた。
「あ、そうそう、私の名前は
小さい男の子はZ郎というらしい。そして、さっきから僕を睨んでいるのが、お7。みんなそれぞれ名前に入っているアルファベットや数字がほっぺに刻まれていた。
「君の名前は?」
名前、僕の名前は・・・何だったんだろう。思い出せない。言いよどんでいると、A子さんが気の毒そうな顔をした。
「ごめん。嫌だったら言わなくていいよ」
「あ、いやあの、言いたくないわけじゃなくて、言えないんです。覚えてないんで
す」
「覚えてないの?そっか・・・じゃあ私がつけてあげようか!」
「え?僕の名前を、ですか?」
「ここにいる三人は自分のもとあった名前をすてて、今私が考えた名前で生活してい
るの」
「あの、名前の前に、ここはどこか聞いてもいいですか」
「ここはゴクの国、犯罪を犯した子どもたちが暮らす国よ」
ゴクの国、聞いたことない国だった。それから話を聞き続けると、ここには犯罪を犯した子どもたちが各々で生活していて、このゴクの国から出ようとすると「キョウイクキカン」と呼ばれる大人たちに取り押さえられるらしい。また、ほっぺに記されたアルファベットは犯した罪の重さによって決まるらしい。ゼロがもっとも重い罪で、数字は10まで。そこからアルファベットが始まってZが一番軽い罪だそうだ。
「ちなみにあんたのほっぺに書いてあるのは・・・Oね。アルファベットでいうと・・・何番目?後ろのほうかな?」
「姉さん、Oは15番目の文字よ」
つりめの女の子、お7がA子さんに教えてあげていた。A子さんはあまり頭が良くないようだった。
「あ〜なるほどね!ありがとう!じゃあ罪は軽いのね、ん〜どうしようかな〜」
なにがなんだかわからないうちに僕の名前が決まっていく。不思議な感覚だった。
「君の名前はね〜
「おーた・・・」
「そう、O太。いい名前でしょ?」
僕は、今日からO太になる。胸がじんわり温かくなって、鼻の奥がジーンとした。
「改めて、私はA子、よろしくね」
「ぼ、ぼくは、Z郎。多分同い年くらいだよね、そのまま呼び捨てでいいよ!よろし
く!」
「私はお7。あんまり変なことしたら許さないから」
「え、ええと。僕はO太。まだなんにもわからないけれど、よろしくお願いします!」
「さ、今日はO太入隊のパーティだよ!」
「に、入隊?」
「そう、私達はゴクの国、畜区いいこと推進隊!です!」
「みんなからはUS800って呼ばれてるよ」
O太は困惑した。
「え、でもゴクの国は犯罪者ばっかりじゃないの?」
僕の言葉に、三人は少しうつむいた。
「そう、犯罪者ばっかり。でも、犯したくて犯した犯罪じゃないっていうのもあるの。少し難しいかもしれないけれど、とにかく根が善人の人たちを集めた組織ってこと」
「今は三人しかいないんだけどね」
すこし寂しそうに笑いながらA子さんとZ郎が言った。確かに。僕を助けてくれた彼女らはどう見ても悪人には見えなかった。A子さんの言ったことをすべて理解できたとは思えないが、そういう人たちもいることはわかった。それに僕も、多分、悪いことをしようとしてしたわけじゃないと信じたい、切実に。
パーティーは焚き火を囲んで行われ、この国のことを色々と教えてもらった。この国には三つの地区がある、畜区、餓区、そして地区だ。僕の今いる畜区は、比較的優良な人が多い場所だった。衣食住は完全に支給制で、食料だけ一年に数回だけリクエストが行えるらしい。ふと、疑問に想ったことがある。
「その支給元はどこなんですか?」
「それはね、こわ〜い大人たちからよ」
「ええっ大人の犯罪者もいるんですか?!」
驚く僕にたいしてすかさずお7が訂正した。
「怖いかどうかはさておいて、キョウイクキカンと呼ばれる大人たちが毎週支給してくれるの」
「キョウイクキカン」は、この島、この国全体を統括している組織だ。脱走者や再犯者の取締りから物資支給、建造物の整備まで幅広くやっている。
「キョウイクキカンに善良な国民だと認定されたら、支給される物資の質がよくなるのよ」
「なるほど、それで良いこと推進隊」
「そういうこと!今日はパーティーなのでマシュマロを使ってスモアを作りま〜
す!」
聞いたことのない料理でワクワクしていると、お7が目を輝かせてじっと「スモア」ができるのを見ていた。
「好きなの?スモア」
僕が声をかけると、一瞬びっくりした顔をしたあと怒ったような顔をした。
「悪い?」
「い、いや別に」
「お7は甘いものに目がないんだよね」
Z郎がのんびりした口調で言った。
「余計なこと言わないで!」
「わわ、ぶたないでよ!」
「こらこらケンカしないの」
三人の賑やかなやり取りをなんとなく羨ましく思った。なんで羨ましいんだろう。記憶を失うまでの僕はどんな人だったんだろう、そんなことを思いながら夜は更けていった。
Hell o Heven 伊藤 諒 @escritor
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