十六夜-いざよい-

雄大な自然

十六夜

「――今夜は月が綺麗だ。」

半分に欠けた月を見上げて、全身黒尽くめの男が呟いた。そこはいくつものビルが立ち並ぶ繁華街の一つ。そのビルの屋上で、黒衣の男は月を見上げて両手を広げる。

「死ぬにはいい日だと思わないかい?」

その呟きに、足元に転がっていた男がくぐもった悲鳴をあげた。

猿轡をかまされ、全身を縄でぐるぐる巻きにされた滑稽な姿のままで、それでも涙と鼻水でぐしょぐしょになった顔に必死の表情を浮かべていた。

その呻きに首をかしげて黒尽くめの男が足元の男を覗き込む。異様な風体の男だった。全身を黒いライダースーツのようなものに包み、その上から身体や手足に西洋の甲冑のような金属を身に付けていた。そしてその顔は鉄仮面に覆い隠されて、その奥にあるはずの目は闇に隠されて見ることは出来なかった。

「恐ろしいかい?自分の死が?」

口調は優しいものの、低く、くぐもった声がどうしようもない恐怖を男に抱かせた。黒衣の男は、足元の男の猿轡を外し、その身体を引きずるように歩き出す。

「だが、君は人を殺したじゃないか」

「どうかしていたんだ、あの時の僕はどうかしていたんだよ。それに、僕はもう許されたじゃないかぁ」

男の泣き声を意に介さず、黒衣の男は歩いていく。屋上の床をずるずると男を引きずり、その淵に向かって、その端に向かって。

「そう、君は無罪だった。確か、精神的疾患を抱えていたんだったかな?」

「そう、そうだ。僕は病気だった。病気だったんだよ。でもちゃんと治療した、治療したんだ。だから、だからね」

「ああ、それは大変だ。また病気が再発しては困るな」

黒衣の男が足を止める。助かったのかと思った男は安堵の溜め息をつきかけ、そして下から吹き上げる風に悲鳴を上げた。

「さあ、審判の時だ」

「助けて、助けて……僕が悪かった、僕が悪かったから……」

「目には目を、歯には歯を……殺人には死罰を持って」

黒衣の男が足元の男の首に手をかけると片腕で男を宙へと持ち上げる。人間とは思えない膂力だった。そしてそのままその身体を屋上の端から虚空へと突き出した。

足をバタつかせて掴まれた男が暴れる。首を強く掴まれて助けの声を上げることも出来ず、必死になって暴れ続ける男を片手で掴んだまま黒衣の男は微動だにしない。

そして、黒い仮面の下で、その視線が横に流れた 。


「そこまでだ!」

派手な音がして屋上の扉が開かれ、何人もの男たちが飛び出す。

黒衣の男が首をそちらに向けてかしぎ、首を掴まれた男も目線だけでその先を追った。

「やあ、これは警察の皆さん。丁度今――」

 そういいながら黒衣の男が首を掴んでいた腕に力を込めた。鈍い音がして喉がつぶれる。

「この男の処刑が」

そしてそのまま男の首から手を離した。そのまままっさかさまに男の身体が八階分の高さを落ちて、地面に叩きつけられ、そのままピクリとも動かなくなった。

「終わったところです」

そう言って芝居がかった動作で黒衣の男が両手を広げる。

「貴様っ!」

若い刑事が激昂するのを片手で抑えながら、年配の刑事が拳銃をゆっくりと黒衣の男に向けた。そのまま冷静な口調で続ける。

「動くな。連続殺人事件の現行犯として貴様を逮捕する」

「撃てばいい。この格好は伊達や酔狂ではないよ?それとも私を捕らえられるつもりかい?」

おどけた口調だった。

その言葉に年配の刑事は答えず、身振りで背後に控えていた数人の警官に指示を出した。それを受けて警官たちが警棒を片手に黒衣の男目掛けて駆け出していく。

しかし、振り下ろされた警棒を、黒衣の男は肩や二の腕の鎧を使って受け止めると、その拳で瞬く間に警官たちを地面に沈めた。金属で固められた手甲に加えて、鎧を着た男の重量を乗せた鉄拳は恐るべき凶器そのものだ。それを叩き込まれてはたいした装備のない警官ではひとたまりもなかった。

最後の一人が鉄拳を腹に打ち込まれ、吐瀉物の中に沈むと、流石に年配の刑事もあせりの表情を見せた。

「だから言ったのだよ。撃てばよいと」

「お前に逃げ場はないぞ!おとなしく観念しろ!!」

拳銃を構えて若手の刑事が叫ぶ。だが、黒衣の男はそれに首をかしげて答えた。

「やれやれ、僕は君たちの手伝いをしてあげただけなのだけどね」

「手伝いだと?」

年配の刑事がいぶかしげに呟き、黒衣の男は頷いた。

「そうだとも、不満には思わない?

自らの手で挙げた犯人が人権とやらを盾に、のうのうと嘘を吐き、罪を負わずに過ごすというのは?貴方ほどの人ならそう感じた経験はあるのではありませんか?」

「それが何の関係がある?」

「罪には相応の罰をもって然るべきです。社会がそれを与えないのなら、それを私が代行するまでのこと」

「罪科は裁判によって定められるもの。それがこの国の決まりだ。お前はそうやって自分自身の殺人を正当化させているだけだ!」

「イグザクトリィ、その通りです」

わざとらしい仕草で手を叩き、黒衣の男は深々と一礼する。

その態度に思わず飛び出そうとする若手の刑事を再び制して、年配の刑事は上空に向けて引き金を引いた。

銃声が鳴り響き、隣にいた若い刑事は思わず首をすくめた。

「次は本気で撃つ。おとなしく投降しろ!」

「先ほどから言っている通りですよ。私を止めたければ撃つしかない」

じりじりと刑事たちは男との距離を詰め、男は屋上の縁をゆっくりと横に歩き出す。まるで銃に狙われていることを意に介していないような態度だった。

「例え私を捕らえたとしても、そこは私にとってはまさしく職場だ。

うむ、その時は囚人に片っ端から贖罪させるというのはいいな」

どこまでも芝居がかった男に、年配の刑事が皮肉めいた言葉を投げかける。

「正義の味方にでもなったつもりかね?」

「まさか、僕はそこまで傲慢ではありませんよ。だが、罪を犯したものは罰を受けるべきだ。かのハムラビ王の如く……」

「ふざけるな。お前はただの殺人者だ!」

「きわめて狂信的な、と付け加えるべきだね。いや、凶悪犯の方が妥当かな?」

男の言葉に激昂した若手の刑事に軽く言葉をまぜかえして、男はさらに歩く。

その仕草に完全に逆上したのか、ついに刑事は発砲した。

黒衣の男は微動だにしなかった。銃弾は男をそれ、虚空へと消えていく。

「惜しい。さあ、次はしっかりと狙うんだぞ。頭か、心臓か、それとも足か?今の私なら足を撃たれただけでも墜落死するぞ」

若い刑事は震えが止まらなかった。あえて狙いはそらし、男の鼻先を掠めるようにして撃ったつもりだった。だが、男は意にも介していない。それどころかおどけた仕草で自分に撃つように要求している。

どこまでも享楽的に、挑発的に。

「何なんだお前は、死ぬんだぞ!怖くないのか?恐ろしくないのか!?」

「人殺しの罪は死罰をもって為される。僕はそう考える。

ならば殺人を犯した私は殺されなければならない。それが当然のことだろう。

違うのかい?」

まるで理解できない、というように黒衣の男は首をかしげて若い刑事を見やる。

その仮面からは何の表情も読み取ることは出来なかったが、まるで死を誘うかのような男の態度がその言葉が本心であることをはっきりと表していた。

「ならばおとなしく投降しろ!君が罪を償いたいというのであれば」

「それは出来ない。まだまだ私には討つべき罪人がたくさんいるのだ。この命がある限り、私は彼らを裁くことをやめないだろう」

「馬鹿な!何故そんなことをする必要がある?」

「だから言ったでしょう。私は極めて狂信的な殺人者だと。

罪人を討つと言うのは私の行為を正当化する手段に過ぎないと、貴方も言っていたではありませんか」

 そう言って、出来の悪い生徒に言い聞かせる教師のように、黒衣の男は年配の刑事と対峙する。

身構える刑事たちの後ろの扉から、さらに何人もの人間が駆け上がってくる音が聞こえた。

 だが、明らかに追い詰められているはずなのに、黒衣の男の態度に変化はなかった。

「私を止めたければ、私を殺すしかない。そう、覚えておいていただきたい」

「貴様がどうあろうと、我々がお前を逮捕することに変わりはないぞ!」

刑事の言葉に、黒衣の男は深く頷いた。

「貴方たちはそれでいい。私は法では裁けぬ者を裁き、法を越えた私を、法を守る貴方がたが捉える。それが秩序というものだ」

「ふざけて!」

若い刑事が叫び終わらないうちに黒衣の男の姿が消える。

屋上から飛び降りたのだ、と気づいた刑事たちが慌てて屋上から身を乗り出した時には、黒衣の男は三階ほど背の低い隣のビルへと降り立っていた。

よく見れば彼らの手元から男の場所まで一本のロープが垂れ下がっており、それに男が火をつけたところだった。油でも染み込ませていたのか、炎はあっという間にロープを焼き尽くし、刑事たちは男を追う手段を失う。

 その光景を目にした年配の刑事が駆け上がってきた警官たちに指示を出す。

「隣だ!奴は隣の……」

その言葉がいい終わらないうちに黒衣の男はさらに隣のビルの屋上に飛び移り、さらにその隣へと素早い動きで次々と飛び移り、黒尽くめのその姿はあっという間に夜の闇の中へと消えていく。

「馬鹿な。あんな鎧を着ていてああも動ける?」

「クソッ!この一帯をすぐに閉鎖しろ!屋根を飛び移っていてはこの区画から簡単には出られんはずだ」

若い刑事が呻き声を上げる横で年配の刑事が警官たちに怒鳴る。

だが、彼らの心の内には男を取り逃がしたという苦い敗北感が広がりつつあった。


「ただいまー」

ひどく疲れた声が玄関に響き、台所に立っていた青年は野菜を切る手を止めて、声の主を迎えに行く。

玄関先ではスーツ姿の中年の女性が靴を脱いでいるところだった。

「お帰り、母さん」

「うん。ただいま」

焦燥した表情で母、青葉瑞樹が頷くのを見ながら母のカバンを受け取る。その横を緩慢な動作で母が通り抜けて部屋の中へと入っていった。

「士道、ごめんなさい。今日も夕食はいいわ。着替えを取りに来ただけだから」

「また?こないだも徹夜仕事だったんでしょ?」

「仕方ないじゃない。仕事なんだし……それにこういうとこでちゃんとやってないと、女だから何だって馬鹿にされるのよ?」

部屋の向こうから漏れ聞こえる母の言葉に青葉士道は溜め息をついた。十年近く女手一つで息子を育ててきた母を士道は感謝もすれば尊敬もしているが、その勤勉さには時々ついていけないと感じることがある。

とは言え、18にもなればそんなことで文句を言い出さない程度の分別はある。頭を振りながらくたびれた母の靴を取り上げ、替わりに靴箱から予備の靴を取り出した。

それを磨いている間に瑞樹は荷物をまとめて部屋から出てきた。

「ごめんね士道。今度の事が終わったら、ちゃんと時間取るから」

「いいって、俺だってもうそんな子供でもないし」

「全く、世の中にはとんでもない馬鹿がいるものだわ。そのせいでこっちは徹夜仕事よ!」

士道は憤りを露わにする母に乾いた笑いで答えて、 「……ごめんね。母さん」と聞き取れないほどの声で小さく呟いた。


士道の用意した靴を履き、その手からカバンを受け取った瑞樹は不意にその不安に顔を息子に向けた。

「……士道、本当の本当に大丈夫?」

「俺は大丈夫だよ。母さん」

そういって士道は笑ってみせる。母の危惧はよく分かっていた。

もうじきその日が来る。母と、自分にとっては忘れようもない日だ。そして、母が必死に忘れようとしている日だった。

だが、士道は忘れてはいない。忘れようとも思わなかった。

最後まで笑顔を浮かべて母を見送り、母は何度も家の前で見送り士道に振り返った。

(気づかれないようにしても、結構顔に出るみたいだな)

母の姿が見えなくなってから士道は大きく溜め息をついた。

自室の扉を開け、そのままクローゼットを開く。その奥から着替えの詰まったケースを取り出し、その中から衣服の下に閉まってあったものの存在を確認する。

綺麗に折りたたまれた漆黒のスーツと西洋甲冑を改造して創り上げた黒い鎧。そして、真っ黒な鉄仮面。そこに改めて自作したいくつかの道具を収めると、また元のように衣類を載せ、クローゼットの奥にしまった。

家事の一切を士道が行うようになって四年が経つ。母にこのクローゼットを開けられる心配はなかった。家人は母と自分との二人きり、そう簡単に気づかれないように二重三重にカモフラージュし、鍵までかける念の入れようだ。それに、普段は家に置いていない。

しかし、用心に越したことはない。あるいは母は気づいているのか、疑いを持っているのかもしれない。一連の事件を引き起こしているのが自分だと。だからあれ程までに心配しているのかもしれない。

動機は、充分すぎるほどに、ある。

だが、それももう長くはない。もうじき全てが終わるのだから。目的を果たせば、カモフラージュに2、3の事件を起こして、そして消える。それで終わりだ。

大丈夫。このために何年も考えて計画してきたのだから。

「もうすぐだ、もうすぐだよ……父さん」

カレンダーを指でなぞる。

暗い感情が沸き上がり、喉の奥から喜悦の声が漏れる。

忘れはしない。十年前のあの日のことを、自分の目の前で、父が撃たれたあの日のことを…… 。


青葉士道の両親は刑事だった。幼い頃の士道にとって忙しくて滅多に家にいたことのない父と母だったが、それでもその両親の存在は士道にとって自慢だった。

自分も大きくなったら父のような刑事になるのだと思っていた。

その日も、いつも通りの日常だった。父は普段どおりに馬鹿をやった男を捕らえ、母は積み上げられた書類の山に愚痴を洩らしていた。

士道はその日は寄り道もせずに家に帰り、祖母が夕食を作る手伝いをして二人の帰りを待った。

ただ、一つだけ違っていたことは、父の捕らえた男が地方の有力者の親戚で、あっさりと釈放されたことだった。

そして、両親が家に帰り着いた時に見たものは、血を流して倒れていた祖母と、捕まえたはずの男の腕に抱きかかえられていた一人息子の姿だった。

母を庇うようにして立っていた父と、男の間にどんな会話が交わされていたのかはよく覚えていない。

父は確かに自分を放すようにと言ったと思う。その返答は銃声で返された。

前のめりに倒れる父が最期まで自分に向けて手を伸ばしていたことだけは、今でもはっきりと覚えている。そしてそれっきり記憶は飛んでいる。

悲鳴が上がり、それが自分自身のものだと理解した時には、既に事件は終わり、自分は母に抱きかかえられていた。

男は捕らえられ、誰彼構わず口汚く罵っていた。そして士道は冷たくなった祖母と父が運ばれていく姿を呆然として眺めていた。

それが、記憶の全てだ。

それでも男は処罰されなかった。男に付いた弁護団は声高に男の精神異常を訴え、警察の管理責任の不備を説いた。

男の親戚だという有力者と警察幹部の癒着なども取り沙汰され、それを隠蔽しようとする動きの中で、父の死は薄れていった。

まだ子供だった士道にはその頃、実際にどうなっていたのかはよく分からない。だが、結果として男は処罰されず、数年後につまらない窃盗事件を起こして投獄された。それも十年に満たない懲役刑のみで、先の殺人事件にはほとんど触れられなかった。

父と、祖母の命の代償が、わずか十年ほどの懲役という結果に終わったことが、士道には許せなかった。男の投獄も、その存在を疎ましがった親族の意向によるものであり、結局のところ、二人の死には何の意味も見いだされることなく十年の時が過ぎたのだ。

そして、恩赦という言葉の下にもうじき男は釈放される。

だから……


「――俺が裁く。俺が、必ず俺が奴を……」

カレンダーを指でなぞる。今日という日付から、一つまた一つ。男が釈放され、自由を得る日に向けて指を走らせていく。

後、二週間と少し。

「早く来い。早く、早く」

口の端がゆがむのが自分でも分かる。

のどの奥から搾り出すような声が上がるのを止められない。

トン、トンと指が日付を叩く。

「俺が、殺してやる」

何人もの命をこの手にかけた。

どうすれば人を殺せるのかが良く分かった。

人をどれだけ苦しめられるのかを知った。

どれほどに相手に恐怖を覚えさせるのかが実感できた。

今まで学んだことを、全てあの男に教えてやらなければならない。

奴が犯した罪の重さを、その心に刻み付けて殺してやらなければならない。

――正義の味方にでもなったつもりか。

その言葉が頭をよぎる。

「いいや……ただの、復讐だよ」

正義を気取るつもりはない。ただ、許せないだけだ。

父と祖母を殺したあの男が、その死をなかったかの様に扱う世間が、そして、何よりも何も出来なかった自分自身が……

だから……

ゆっくりと夕日が沈んでいく。静かに夜の帳が落ち、欠けた月が空に昇るのだ。


「……士道」

勤務している警察署へ向かう車の中で、青葉瑞樹は我が子の名を呟いた。

十年経った今でも忘れることは出来ない。母が殺された日。夫が死んだ日のことを。

父を目の前で殺されて半狂乱になった士道は犯人の腕の中で暴れ、そしてその弾みに犯人は銃を取り落とした。

その瞬間に、咄嗟の判断で瑞樹は犯人を取り押さえた。

そして、士道はその時、床に落とした銃を拾い上げて犯人を撃ったのだ。泣きながら、悲鳴を上げて、それでも引き金にかけた指に信じられないほどの力を込めて。

子供の力だ。一発もまともに当たることなく、残弾を撃ちつくして、それっきり幼かった士道は微動だにしなくなった。瑞樹が硬直したその手から銃を取り外し、抱きかかえるまで、凍ったように動きを止めていた。

その時のことを、士道は覚えてはいない。だが、瑞樹は忘れてはいない。忘れることなどできはしない。

――化け物だ。あの子供こそ捕まえるべきじゃないか!

瑞樹の通報で駆けつけた警官たちが犯人を連れて行くときに、犯人が投げかけた言葉が忘れられない。その姿を、感情のない瞳で捉え続けていた息子の姿を忘れられない。

(あの子の心には、怪物が潜んでいるのかも知れない)

そう考えて身震いした。

そんなことはないと否定したかった。そんな子供ではないと信じたかった。

だが、現実に黒衣の男という殺人犯が存在する。殺人犯のみを狙って殺人を行う殺人犯。罪を犯しながら、罰を受けなかった人間のみを狙った殺人犯。

その正体が、我が子ではないという保証はない。

(そんなはずがない)

礼儀正しく、品行方正で、温厚な息子の姿を思い出す。誰にでも優しく、皆から信頼されている自慢の我が子。だけど、もう何年もちゃんと向き合っていないような気がした。

(絶対に捕まえないと……)

証明しなくてはならない。そしてこの不安を晴らさなくてはならない。

黒衣の男の正体を暴き、また元のように二人で静かに暮らしていくのだ。

不意に見上げた空に半分に欠けた月が昇っていた。


満月の夜。その時に、全てが決着する。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

十六夜-いざよい- 雄大な自然 @1103600834yuta

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ