四肢の章

第85話【流浪の銃士は友を見舞う】

ヴァーグナーはシュタウフェン郊外にある閑静な病院にやって来た。

病院の入口に見張りの兵士に止められた。


「失礼、ここは特別な患者のみが入院する病院です

許可証はお持ちですか?」

「陛下から預かっている」


許可証を見せると兵士は恭しく通してくれた。


この病院は主に貴族が使う為の病院である

静かな環境は病床に伏す貴族達にとって

ありがたい物だし、何かしら世間から隠れる隠れ蓑としても機能し

姥捨て山としても機能する。

今回、ヴァーグナーが来た理由は友人の見舞いである。

病室に案内され、通される。

紙袋を抱えたヴァーグナーは病室にノックをして中に入る。


「ヴァーグナーさん、お久しぶりですね」


病室のベッドにやつれた右腕が無い男が起き上がる。


「こちらこそ久しぶりアッリーゴ、具合は如何だい?」

「今は大分良くなりましたよ・・・腕一本無くしましたが」

「酷いな・・・」

「腕一本で済んで良かったですよ・・・他の皆は死んじまいましたから・・・」

「・・・・・」


アッリーゴは義勇軍の生き残りである。

魔王との戦いで腹部に重傷を負い一時的にシュタウフェンで治療をした後に

都市ヴィッテンベルクに戻った、その為ジェラールに感知されるのが遅れて

ジェラールの凶行から逃れる事が出来た、アッリーゴは王都に逃げて

ジェラールの凶行を伝え、その事がジェラール逮捕の切欠になった。

ヴィッテンベルクからシュタウフェンへの移動で極度の疲労

魔王との戦いの傷の悪化

更に野犬等の野生動物との戦いで右腕を失い入院している。


「運が良かったですよ、俺は・・・」

「こっちも君達を助けられずにすまなかった」

「良いんですよヴァーグナーさん・・・

今はこんな立派な病院で休めるんですから、御の字ですよ」

「そうか、それは良かった・・・酒を持って来たんだが呑れるか?」

「・・・・・すいません、実は魔王との戦いでハラワタをやっちまいまして・・・

もう酒は呑めないって医者に言われました」

「そうか・・・いいウォッカが手に入ったんだがな・・・」

「酒の好み覚えてくれたんですか?」

「勿論だよ、何時か義勇軍の皆でまた酒盛りをしたかったが・・・

あの世迄持ち越しだな、全くあのクソガキめ」

「ジェラールの事ですか?彼は結局処刑になるんでしょう?」

「その前に私が殺すかもしれないな」

「おっそろしいなぁ・・・」

「あのクソガキに何か聞きたい事とか言いたい事は有るか?」

「そうですねぇ・・・」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る