自主企画に参加いただいた方々、批評はこちらです。
hugo
2/4募集分
「すみれ一人のレボリューション(ショートショート版)」の批評文
作品リンク https://kakuyomu.jp/works/1177354054888262355
~一度レビューに投稿したものをこちらに掲載させて頂きました~
この度は自主企画にご参加いただきありがとうございます。
ショートショートということで取り組みやすかろうと思い、真っ先に読みました。
まず、好きか嫌いかで言えばかなり好きです。
キレのいい文体が事物への着眼点の鋭さや洞察の深さと相まって、シンプルなのに味わい深い、という優れたテクスチャーを生んでいます。
まさに短編向きだと感じました。
取り扱う題材も私好みです。
専業主婦や中年女性のじめついた鬱屈や憂いには、そそられるものがあります。
それから優れているのは、会話ですね。
地の文同様テンポのいい言葉の応酬は現実にありそう、というよりかは嘘臭い。
ただそれがかえって空虚さや記号感を生み出していて、コミカルかつ風刺的なアイロニーの流れの中に作品を落とし込んでいると言えるでしょう。
ここまで、いい点を挙げさせていただきました。
ここからは少しだけ、不満に思った点を挙げていきます。
ただ読む前にこれだけは知っておいていただきたい。
あなたは素晴らしい作家です。
この作品も傑作です。
以下の指摘は、全て個人の見解です。
計算されたものかはわかりかねますが、この作品は常にある予感に包まれています。
何か菫が道を踏み外したり、最後の最後で梯子を外されるのではないか、という予感が。
それを生み出しているのは、福山の存在ですね。
初めに提示された家庭内にある停滞感。読者はそれを解決したいと思い、ページをめくっていく。
そこへ現れる福山。
福山は、とても怪しい存在です。
熟女好きで、マメで気配りのできる、いつも誰かを口説いているような男。
誰かに構われたい、注目されたい熟女の菫にとって、まさに理想的な相手。
だから読者は、福山に対しネガティブな予感を感じ取ります。
菫は彼になびいてしまうのではないか、一見好青年の彼には裏があるはずだ、
というような予感を。
先程私は、読者は解決を求めると言いましたね。
しかしその解決への期待とは、常にいい方へ、とは限りません。
菫が失敗することで、ああやっぱり、と思い腑に落ちるのもまた、解決。
正の解決と負の解決、その絶え間ない綱引きがいい緊張感を生むものなのです。
それから菫は誕生日を迎え、福山の助言通りドレスアップして注目を浴びます。
念願かなってほめそやされ、福山からのプレゼントまでもらう菫。
自信を付けた彼女は、とうとう前を向き、夫との関係改善に着手する。
この時私は、二つの予感を得ていました。
ここまでのネガティブな予感を踏襲して、前向きになった菫は無残に裏切られ、失意の中でエンディングを迎えるという予感。
その最後に福山が出てきて菫を奪ったりなど、悪い一面を見せるのかな、とも思っていました。
もう一つの予感は、ここまで散々ネガティブな予感を出してきたから、実は最後はハッピーエンドなんじゃないか?というものです。
一旦落としてから、福山の予想外のファインプレーで起死回生するかもしれない、とも思っていました。
結果として菫は夫の心を入れ替えさせるのに成功し、幕は閉じました。
ただそれが先に挙げた予感のうちの後者に思えたかというと、否でした。
私にとって、この幕切れは中途半端に感じられました。
理由を話します。
結末の前に、山が無さすぎるのです。
それまでせっかく緊張感を溜めてきたのに、期待して最終話に入ってみれば、
あまりにも順風満帆に滑り出す。
それが読者に確信を与えてしまうのです。
ああ、これはバッドエンドだな、という確信を。
そう彼らに勘違いさせてしまうのは、それまで描いてきたことです。
あなたは伏線めいたものや予感を適度に撒くのがうまい。
それはいいことです。
しかしそれは、奇しくも最後のどんでん返しを最も強く予感させてしまう。
もっとたくさん、疑いたくなるほど多くの伏線がバラ撒かれていたら読者は、
――おかしいぞ、さすがに怪しすぎる。
と感じ、伏線が回収されるか否かにも注目を始めます。
それだったら最後に伏線を放棄して、すんなりと解決しても問題ないのです。
しかし、それほどではない。
だから読者の注目は、いかにして点と点が繋がるかの方に向いてしまう。
その最たるものが、福山です。
彼の胡散臭さは、この話を読み進めさせる緊張感を生むものの代表格でした。
ちなみに次点は菫の妄想癖染みた一人相撲です。
閉塞感を抱える彼女の夢見がちで迂闊な発想は、裏切られそうだという予感を引き立てていました。
ですが、そのどちらも解決はされていません。
特に福山に関しては、その正体すら暗示されない。
彼が何を求めて行動していたのか、その後どうなったのかは宙に浮いたまま。
ヒントすらない。
さらに、菫が福山をどう思っていたのかもわからない。
もし福山と菫の関係が、ただの美しい友情めいたものであるならば、福山の胡散臭さは最後に拭っておくべきだったと思います。
実はただのいい奴だった、という情報を残しておかなければ、福山はその後も菫を狙い続けると考えるのが自然です。
彼は菫と夫の逢引きを見ていないのですから。
または、福山のアプローチをばっさりと切る菫を最後に描いておくか、
二人の逢引きを実は影で見ていた福山が菫に憤るシーンなどが入っていれば、
読者は腑に落ちたものと思われます。
それから、文体と展開のシナジーについても思うところがありました。
いかに優れた文体だったとしても、それが物語るものの展開にそぐわなければ、その効果は半減してしまいます。
簡潔に言えば、物語の展開があっさりしているのに文体もあっさりしていては、引っ掛かるものが少なすぎるということです。
今回の話のように、閉塞感を打破して終わるという単純な構造の物語ならば、
もっとクセのある、それ自体で楽しめるような文体の方が向いていたのかも知れません。
しかし文体はその人の個性ですし、あなたのそれは曲げてしまうにはあまりに惜しい。
だから私は、もうひと捻り展開を増やすことをお勧めします。
それか、悲劇的な結末にするか。
クリティカルな、切れ味の鋭い文体は、無常観や冷酷さを描く時にこそ輝きますからね。
それでもやはり結末を変えたくないのでしたら、固有の表現や言葉を駆使するのも手だと思います。
作品の中で例を挙げるなら、リビングわらしです。
そういうユーモアやアイロニーのこもった言葉を用いてカラフルに、丁寧に色付けしていけば、より読者を引き込むことができるでしょう。
最後に指摘したいのは、テーマ性の追求です。
ショートショートとは常に、何の風刺であるかを探られるものです。
また哲学性や、背後に何かあるのではないかと考えさせられるような深みも同時に求められます。
今回は、近現代日本のドメスティックな環境における女性の閉塞感がそれにあたるものでしょう。
あなたはそれに対し、女性が社会に出ることを通じて前向きになることをもって解決できる可能性を提示しましたね。
それは美しいものだと思います。
私も前向きな思考が大好きです。
しかしこの作品で得た解決は、専業主婦の抱える虚しさや孤独を描き切った上にあるものでしょうか?
私はそうは思いません。
まずこの作品においては、家庭内における閉塞感の源泉がどこにあるかがはっきりしません。
ですので、解決策から逆算してみることしかできない。
つまりなんでもいいから女性側が歩み寄ることで解決してくれよ、というテーマが込められていると、穿ってみることが可能なのです。
それを男尊女卑が未だに横行していることの風刺だと取ることもできますが、
その場合は結末の後に、
『結局夫の心変わりは長く続かず、すぐに元に戻った』
というような文句を挿入せねばならないと思います。
これも結末が弱いと感じる一因なのかなと、私は思います。
以上で、批判と改善点の提示は終わります。
長々と書いてしまいすみません。
ただ正直、読んだ時にはかなり驚きました。
この作品は、ものすごくいい作品です。
PV数や星の数に惑わされる必要は全くありません。
カクヨム全体においても相当上位の文章力をお持ちだと思います。
あと一つ二つステップアップすれば、商業作品としても通用するのではとすら
感じられます。
私の指摘したことを参考にするもよし、しないもよし。
そのどちらにしろ、書き続けてください。
あなたは、書くべき作家だと思います。
自信を持ってください。
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