怪獣モラトリアム

亜未田 久志

第1話 見つからなくて良かったのに


 怪獣研究会なる部活が承認されたのは、この仏花井町ぶっかいちょうに怪獣の伝説が残っているからであった。

 仏花井物の怪伝説と名付けられたソレは巨大な四つ足の獣が村で暴れまわったが高名な僧侶(ただし名前不明)が封印したのだという。

 ツッコミどころがある設定だが実際に語り継がれているのだからしょうがない。

 怪獣が封じてあるという寺だってある。

 だから幼馴染二人にクラスメイトの双子を幽霊部員でいいからと誘って新たな部活動を始める申請をしたら通ったという訳だ。

 しかし、実態はだらだらするための場所と部費という名の娯楽費の確保だ。

 こうして豊かな放課後を過ごせるようになった我ら怪獣研究会だったが。

 部活となったからには「成果」がいるらしい。

 文化祭が近づいてきたある日の事だった。

 捕まえるのに一番苦労した顧問の先生から「文化祭で出し物しろ」とぶっきらぼうに告げられ、追加で「出来なかったら廃部な」の一言でてんやわんやである。

 こうして部活発足から初めての『怪獣探し』が始まる事になる。


「ねぇ、この洞窟立ち入り禁止って書いてあるんだけどー?」

 洞窟の入り口で立ち尽くす少女の声が響く。

だろー? いいから入ってこいよー」

「でもー、結局、立ち入り禁止のとこに入ったってバレたら、『成果』にならないんじゃないのー?」

 少し悩み少年は返す。

「そんときゃそん時だろ、なんとかするよ」

「はぁ……なにそれ、慶一朗って、たまに変に自信満々な時あるよね」

 そう言って少女は洞窟へ足を踏み入れる。

 湿り気がありとても暗い、懐中電灯無しではとてもじゃないが奥には進めないだろう。

 慶一朗と呼ばれた少年とは別の少年が洞窟の奥から声をかけてくる。

「こっち! こっちに道がある!」

「マジか! 辰雄よくやった!」

 慶一朗はどんどんと先に進んでいく。

「ちょっと待ってよー」

「夢も早く来いよー」

 少年少女は懐中電灯片手に洞窟をひたすら進む。


 しばらく歩いたと思う。

 暗い洞窟の中は時間の感覚をなくさせる。

 三人は少し疲れ始めていた。

 さらに元の入り口に戻れるだろうかという不安もあった。

「ねぇ、今日はこれぐらいで引き返さない? なんか目印置いてさぁ」

「目印ったってなぁ 懐中電灯以外、なんも持ってきてないんだよなぁ」

「僕は食料は持ってきたよ」

「アタシは……このサイリウムとか」

 ケミカルライトとも言うそれはマーキング用に一応、二、三個持ってきたものだが数が全然足りず、結局使わなかった代物だ。

「明日にゃ消えてるだろそれ」

「なにか置いとくだけで一応目印になるんじゃ?」

「こんな暗い中で、あんなの見つかんねーって、つうかほとんど一本道だったろ? 夢は何をそんな心配してんだよ」

「道じゃなくて時間よ、じ・か・ん、もう夕方なのよ?」

「夕方たって、まだ六時くらいじゃん」

「帰りの時間も考えてんの?」

「門限とかあったっけ?」

「一応……明確には決まってないけど……そもそも、この洞窟に来るのだって三十分くらいかかってるし、洞窟の中でもう一時間以上かかってるし……」

「んー、じゃあ夢だけ先帰ってろよ」

「嫌よ! こんな気味悪い洞窟一人でなんて!」

「もう我が儘だなぁ」

「逆に聞くけどさぁ……慶一朗も辰雄も、なんでまだ帰ろうとしないわけ? なんもないじゃん、あるとしても岩かコウモリだけ!」

 慶一朗は顎に手を当てて思案している風を装いながら即答する。

「もう少し先になんかありそうな気がするんだよ。なあ辰雄!」

 すると、しばしの沈黙の後、さらに奥に進んでいた辰雄から返事が返ってくる。

「いや、なんもないみたい……」

「へ? それってどういう――」

「もしかして……」

 二人は辰雄を追って先へと進む、懐中電灯の明かりが、辰雄を照らし出し、その奥を明らかにする。

「「あ」」

 二人の声が重なる。


 そこは行き止まりだった。


「ほら、なにもなかったじゃない」

「んー、絶対なにかあると思ったんだけどなぁ」

「僕もだよ、はぁ残念だなぁ、怪獣、見たかったなぁ」

 三者三様の反応を見せながら、行き止まりの壁を適当に懐中電灯で照らしている。

 その時、慶一朗が何かに気づく、手で二人の動きを制する。

「なあ、俺が上の方を照らすから二人は下の方照らしてくれないか。夢は右、辰雄は左、三角形になる感じでさ……」

「なによもう、それしたら帰るからね」

「えーと、左、左」

 そこに照らし出されたのは。

「これって――」

 夢の表情が驚きに染まり。

「これって!」

 辰雄の顔に喜色が浮かび。

「ああ、これは」

 慶一朗が真剣な表情を浮かべた。


「「「顔だ」」」


 今度は三人の声が重なった。

 巨大な目鼻口、それはまさしく、怪獣の顔と言ってもさしつかえないものだった。

 驚きと喜びに挟まれ一人。

 慶一朗は複雑な表情を浮かべていた。

 まだ、ただの岩が、そう見える可能性だってある、その方が圧倒的に高い。

 だけど、彼の心はこう囁いていた。

(見つからなくてよかったのに……)

 放課後の、だらだらとした時間。

 その終わりを告げる怪獣の鳴き声が聞こえた気がした。

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