第8話 伝説の英雄

『転送完了』


 長ったらしいバトルがやっと終わった。

今更だが毎回『転送完了』って言うべきか?


「いい加減分かるぞ、着いたの。」

まぁもう聞く事も無いか、何せ次のお相手は..


「キャプテン・レジェンド」

だからな。

俺の他に集められたのは

変態に、目立ちたがり屋のピカピカ野郎、チャラついたガキに、暗いガキ。


「こんな連中でいいのかよ」


「何を心配している主。」


「お前がいるからだよ、ペテン師」


「ペテン師とは‥レジェンドが聞いたら何と云うか、品が無いのは良く無いぞ主」


「ドブみてぇな男に言われたくねぇよ!」


「……仲が良いな、お前ら‥。」


「どこがだよ!」 「心外だなぁ」

奴のいっていた変態、この男の事か。


「まったく、着いていけねぇよ」


「……」

したくもねぇ雑談をしていたら、例のモニターが喋り出したぜ、勝手にな。


『諸君、集っているようだな!』


「よく言うぜ、白状なジイさんがよ」


「言葉が過ぎるぞ主。‥同感だが」


『まぁそう言うな、それにしても…ひぃふぅみぃ‥五人か、少ないな。もう少し残ると思っていたがなぁ』

‥コイツ、わざと言って煽ってやがんのか?


「……レジェンド、御言葉だが貴方はこうなる事を解っていたのでは‥?」


『わかっていた、何故そう思う?』


「貴方の目的は最初からトランスケーション、彼等を消す事。戦闘権は只の参加賞だ。」


「マジかよ…!」


「気付かなかったのか?」

成る程、やる事がふてぇじゃねぇか。


「老獪だな、ジジイ!」


『老獪か‥年の功といって頂きたいが、どちらでもいいか‥。』

レジェンドは悪怯れる素振りも無く、軽々と口を開いた。


『奴等は厄介者でなぁ、野放しにしておけばいずれ牙を剥くと思ったのだよ。‥だから諸君に預けた。』


開き直りか 「……潔いな‥。」


『皮肉か?

だが安心しろ、参加権は行使可能だ』

何も無いつまらん部屋だと思っていたが、何でか漸く意味が分かった。話が終わればモニター閉じながら勝手に動いたぜ、都合の良い部屋だ〝ロビー〟って場所はよ。


『パワー・スター様』


「お、ロードか。なんだ突然?」


『レジェンド様が参ります。ロビーとされていたこの部屋は只今フィールドと化しました』


「ここでたたかうのかよぉ!」


「罠を張れる場所、あるだろうか?」


「……」


『フィールドの情報を表示します』


フィールド・トレーニングルーム

対戦相手 キャプテン・レジェンド

プレイヤー 5対1

天気、気候共に無し


「小細工無しでタイマンだってか?」


「僕の大嫌いなタイプだ」


「……ならぬとは言っていない‥。」


「そうか、中々理解があるなぁ」


「…なぁガキんちょ

なんで俺たちここにいんの?」


「……」

キャプテンに挑戦か、何の為にだ?

ヒーローバトルはアイツの主催の筈だが、キャプテンを倒したら、終わるのか‥。


「なら一体何の為に開いたもんなんだ、これってよ。」

俺の参加理由だって、解決できてねぇ


「賑やかだねぇ、人がこれだけ集まると。」


「貴方がキャプテン

間近では初めてのお見受けだ」


「モニターのまんまんだなぁ〜。」


「……英雄の風格‥。」 「……」


「今更だが、さっきの言葉を訂正する思ったより〝多いな〟残った数が。」

コイツを倒せば解るのか?

招待状の意味が‥。


「レジェンド、お前に聞きたい事がある。勝ったら聞かせて貰うぜ?」


「‥好きにしろ、だが条件を難しくし過ぎたな。おそらくだが、答えは聞けないぞ?」


『スター様、お気をつけ下さい。

レジェンド様はかなりの強さです。』


「‥わかってるよ。

珍しいな、お前心配してんのか?」


『‥いえ、念の為注意喚起をしただけです。』


「…そうかよ。」

嫌に気持ち悪かった。

ロードの感情的な誤作動が、良い方向で表れた事が。


「全員纏めて掛かって来い、一気に相手をしてやろう」

銀色の甲冑で顔は見えない筈だが、表情はすぐに解る。口元が卑しく歪んでやがるんだ。


「お前ら、行くぞ」


「いつから筆頭になったのだろうか」


「……指図するな、言われずとも‥」


「一応任されてっからなぁ俺もさぁ」


「………」

見極めてやるよ、性悪ジジイ。


「覚悟しやがれ!」


「威勢が良いのは褒めてやろう。」

言われた通り一斉に攻めた。五体一なんざ普通は一人に勝ち目は無ぇ。だが相手はレジェンドのジジイ、そうもいかねぇ。だが数の利が不利だって事は確実に無い、そろそろ世代交代だってのを見せてやる。踏ん反りかえれるのも今だけだとな‥。


「早速だが仕掛けさせて貰う。

足元に気をつけ給え」


「うおっ、てめぇ!」

御構い無しに何でも床に転がしやがる。今度は何だ、丸い…カプセルか?


「投げた球は三つ」

一つ目は目眩し+拘束


「くっ、これは、身体が痺れる‥。」


「毒か何かか?」「ヤバそーな奴‥」


二つ目は緊縛、そして電流だ。

「ドSかよぉ!?」「……変態だな」


「そして三つ目は」

単純な仕組みだったりする訳だ。


「少し離れた方がいいぞ」

忠告より早くカプセルは破裂し爆風を引き起こす。

「あっぶねぇ!

なにやってんだお前」


「だから云ったのだが、しっかり聞き給えよ」


「聞いた上で文句言ってんだよお前ぇによ!」


「……スターとやら、気をつけろ‥」


「あん?」 「来るぞ、正面からな」

モロの爆弾に勝る老獪兵士、武器は無く、己の身体一つのみ。


「無傷かよ、ジジイが!」


「当たり前だ、あの程度容易い!」


「あの程度ってどの程度?」

ここで四つ目の投入でーす♪


「悪いが、主に拳は届かない。」

四つ目は拘束兼ダメージ!


「電磁ワイヤーだ」 「くっ‥」


「ワイヤー好きだなお前!」

ていうか危ねぇんだよいつも、後一歩踏み込んでたら俺も持ってかれてたじゃねぇか!


「間一髪反応したかぁ」 「俺もな」


「だがこれでいいバリケードになった。」

五人と一人の間には張り巡らされたワイヤーの数々。一つに触れれば電流が作動し火花を炸裂する。


「バリケード?

こんなもので閉じ込めたつもりか。」


「何やっても折れないんだな、レジェンドのジイちゃんってさ。」


「……」


「甘く見るな、全て躱しきってやる。そして諸君らの首を折ってやろう」


「なんかめちゃ怖い事言ってんだけど?」


「……ふん‥。」


〈ライト・オン〉


「これでも躱せるか?」


「やるではないか、光の使者」


「ガディウスもずる賢くなったなぁ」


「……何か言ったかウォンタ‥?」


「え?いや、別に何も?」

何で聞いてんだよ!


「四面楚歌ってやつか、こりゃあ。」


「余計な事を…!」

数の利は正しく有ったようだ。

団結こそてんで無いものの


「もう少し余計な事をしてもいいだろうか?

‥何せ好きなものでね」


今度は何するつもりだあいつ。

「よっ‥」 「んっ?」

ありゃあん時の紙飛行機じゃねぇか。


「そんなもん投げていいのかよ?」


「通す穴は作ってある。

それにあれは紙飛行機ではないよ」


「…む、飛行機か?」


「あれは、硬いロープだ」

紙飛行機は鎧に当たり落ちると、崩れ紐状になり、レジェンドの身体を巻き上げた。


「そして僕が作った穴は

その紐を通す為のものだ」

延びる紐の端を引っ張り上げると、芋づる式に捕らえられた身体がワイヤーの方へ飛び上がる。

「身動きがとれん…!」


「悪いね英雄、貴方に選択肢は無いのだよ」

ワイヤーに電流が駆け巡り、弾け響き始める。


「しかしこれでは威力が足りないな」


「だったら任せな。

漏電も付け加えてやるからさ!」


〈アクアラグナロク〉


ワイヤーは水を帯び範囲を増やす。

「ちょっと待て、俺らはどうなる?」


『御安心下さい。』 「ん?」


『否定』 「……」


「成る程、これで一安心だ。」

部屋一面を爆撃が覆う。

しかし五人に怪我は無い。その衝撃の全てを否定し拒否したからだ。


「あれだけの爆発で傷一つ付かねぇ。

大したフィールドだぜ、ったく」


「立派なのはフィールドだけか?」

咳き込む声がこだまする。


「おや、まだ健在か。長生きな事だ」


「……しぶといな‥」


「うっそ!

バケモンかよアイツ!」

一応伝説ってだけあんだな。


「仕掛けとやらを今ので最後か?」


「…残念ながら、そうなるね」


「そうか

ならば‥心置き無く腕を振るえるな。」


「遂に始まったか、タイマンがよ。」


「……構えろ、来るぞ‥。」


〈デス・サイス〉〈マリンペイン〉


「いっちょやるか」 「……ふん‥」


『此方はアシストへまわります。』


「ガキんちょ、何かあったら使え!」


〈マリンスピア〉


「……」 『奪取』

緊急用の水の槍をすかさずに拝借。


「来い、英雄共…!」


「言われなくてもって奴だジジイ!」

裸一貫、ヒーロー同士の殴り合いが始まった。水の爪が首元を狙うも躱され肘打ち、背中からダウン。隙を突こうと鎌が横斬り腹を裂こうと試みるが僅かに届かず、振りきり手元に返す前に蹴りを入れられ飛ばされる。


「…隙アリだ‥」


〈ブリキング・ライト〉


光速の爪先蹴り、咄嗟の煌めき。

「何処を隙だと見誤った?」


「…なっ‥!」

避けただと!? それも全て‥。


「光程度では遅すぎる。」


〈レジェンド・ブロー〉


「くはっ…!」

渾身の腹打ち、堪える輝き。


「後ろがガラ空きだが?」


「油断すんなよ!」


「君達こそみくびるな。」

跳び上がり鎌の上へ片手で乗り上げ、身体を捻り左足を振り上げる。


〈レジェンド・オブ・ラウンド〉


同時に二人を蹴り飛ばす回し蹴り。

「これで三人か‥脆いな」


〈マリンスピア〉


「そして甘い‥。」

素手で水の槍を! 「砕きやがった」


「そして強い!」


〈シューティング・スター・ボム〉


力任せに合わせた両拳をフォールアウト、鈍く照る光明。受け身を取られて立ち消えた。


「何の真似だ?」


「知るか、意味なんざ無ぇよ。

‥だが、これで避けられねぇだろ?」


「ぐおっ‥」

この後に及んで羽交い締めか!


「やれ、蛍光灯。」


「……ふん、抑えておけ‥。」

再度足の先を前へ


〈ブリキング・ライト〉


光の速さで刺さる足、避けるという概念さえ突破してしまえば、成す術の無い無双の蹴り技。いくらレジェンドといえど、抗い様が見当たらない。


「あがぁっ……。」


「なんだよ、こんなもんか。」


「……他愛も無い‥」


「待ち給えよ、酷い話ではないか。

‥止めも刺していないというのに…」

血も涙も無い。というよりは、血が通い、感受性が有るからこその確認である。良い悪いは定かで無いが、思いの乗った、鎌なのだ。


「それ!」 「容赦ないなぁ‥。」


「どれどれ…ん〜?」

もぬけの殻、鎌の先には銀の鎧が突き刺さり、引っかかっていた。


「容赦無し結構、入念な心構えに脱帽するよ。…死神シャドウ君?」


「ア、アンタ‥後ろ…!」


「なんだと言うのだ水の‥使、者?」


〈英雄の右剣うけん


「あ……あ‥!」

重い、厚い拳。

先程受けた蹴りなど比べ物にならぬ威力の打撃。一撃受けたのみで理解した、これがキャプテン・レジェンドの本気の力だと。


「おい、なんだよソレ、ジイさん!」


「鎧を脱いだ。これが本来の実力だ、光程度で追いつくと思うな小僧供。」


「……知った事か‥」


〈ブリキング・ライト〉


「言った側からか、甘いぞ!」

最早光を超えた伝説に爪先の連打。相手はそれを避けるでも無く蹴りで返す


「……速さに追いつくだと‥?」

同等、もしくはそれ以上だ。


「足が止まっているぞ?」

しまっ‥気を抜いて…。


「前もそんなに遅かったか?」


〈英公の槍突そうとつ


「……ぐぬっ‥!」

‥‥してやられた…。

爪先を弾き穿つ右脚、見事懐を蹴り突かれた


「あ、あ…なんなんだよお前よ!」


〈アクア・ラグナロク〉


「嘘だろバカッ‥!」

距離とらねぇと巻き込まれちまう。


「は、ははっ‥!

モロにくらいやがった。終わりだ」


「水浴びか、悪くない」


「おい、生きてんのかよ!?」

波の中で人型の影が蠢き近付く。


「しかし言った筈だ、全力で掛かれと。

…拳を振るわず水を使うなど‥言語道断だ!」

影の拳が水から現れ、腹を一撃。


「がうあっ!」

嘘だろ、重たすぎ…。

〈英雄の左轟拳さごうけん


「おごぉっ。」 更に腹に一撃

息出来ねぇっ…!


〈栄冠の弩弓弾〉

追い討ちをかけ膝蹴りの強襲。


「あ…がっ‥うえっ…。」

やっべぇ、フラフラだ..もうダメかもしんねぇ


「ガキ!」

ボコボコじゃねぇか。アイツ!


「いまそっち行ってやる、待ってろ」


「遅いぞ、せめて光より速く動け」


〈英雄の右槌うつち

突き上げた拳を天に掲げ、水の使者を叩き、上げる。噴水の如く身を浮き上げ空を仰ぐ。


「一人、二人、三…後は、君だけだよ。」


「……ちっ‥。」

認めたく無ぇが、結構な強者だった筈だ。

その連中がよ‥


「こんな楽にダウンかよ。」


「棄権するか?」


「何度も言うが招いたのはてめぇだ」


「ならば、言葉はいらないな!」


あの距離から跳んできやがった!


〈英雄の右剣〉


「くそったれが」


〈スターライト・パンチ〉


ぶつかる拳、震える血と骨。


「重てぇっ!」 「こんなものでか?」


「いちいちうるせぇなぁお前は。

強情が過ぎるんだよっ…!」


〈星砕きヘッドバット〉


「くらぁ!」

拳を突き合わせた状態での頭突き、力の分配は僅かに頭に多く。


「くっ…」「頭は鍛えられねぇだろ」

持ち前のもんだからな、コレはよ!


このまま〈スターライト・ブロー〉


「おっ…」腹貰ったぜ。


「とったつもりか、小僧…」


「やっばり簡単じゃねぇか。」


「顔を寄越せ」


〈栄冠の弩弓弾〉


貰い受けた、御前の急所。


「おっ…前よ‥」

顔に膝か、品の無ぇ事しやがる。

だが…

「いよっ‥と。」 「ぬお?」


左肩を「離せ、その腕をどけろ」


「うるせぇよ」


〈パワー・ライト・エルボー〉


「ぐうぅ…あぁっ‥!」


〈英雄の左轟拳〉


「吠えるんじゃねぇよ」


〈スターライト・マグナム〉


両者譲らぬ攻防、しかしレジェンドの方が僅かに威力は上。表面上は互角だが、反射的には劣っているのが事実。


「はぁ‥はぁ…」「限界か?」


「いちいち聞くな、耳障りだからよ」


「親切心が解らないとは、随分と傷みきっているな!」


「……ったく。」

元気なジイさんだな、呆れるぜ。


「介護なんざ向かねぇな、俺にはよ」

このまま勢いでブン殴られてサヨナラだ。


「時代遅れが、嫌な奴だぜ。」


「古い時代の糧となれ‥いくぞ!」


〈デス・サイス〉


鉄拳届かず、黒き刃が軋み啼く。


「勝手に辞めないでくれるか、主?

劇はまだ終わってないのだから」


「お前‥息吹き替えしやがったのか?

死神のくせに。」


「初めから生きていたさ。いや、死んでいたのだろうか?」


「一人増えたから何だというのだ。」


「知った事か‥」


〈イルミネ・ディ・ボルタム〉


「ぐぬっ!」


「お前も生きてたか。」


「真上の空から足蹴とは、派手な事をするものだ」


「……ふん、足蹴はお互い様だ‥。」


「二人も取り零していたか

不覚極まり無いな、失敬だ。」


「まぁお陰で三竦み揃った訳だが‥」


「なんだ三竦みって?」


「……勝手に決めるな‥。」

陰・陽・闘、三種の要素が集い伝説へ歯向かわんとする逆襲の刻が来た。


「さて、と。

主はまぁ‥いいとして、光の使者君。君は手ブラでいいのかな?」


「……気にするな‥。」


〈ライト・オブ・セイバー〉


「ほう、問題ないな。

ではでは主、先に行くぞ?」

陽と陰、刃片手に伝説へ。


「刀か‥そんな都合の良いもん…」


「……」 『パワー・スター様』


「お前‥!」

無言の付与。

受け継いだ水の槍を、今新たに託す。


「後ろは任せた。」「……」『了解』

チームプレーなんざ苦手だが

形だけなら厭わねぇ。


「ふん‥!」「どこから持ってきた」


「…光の刃だ、斬られて消えろ。」


「そしてこっちが、闇の鎌だ。

‥って、さっきも見ただろうが」


「見ようが見まいが関係は無い!」

腕力のみで剣と戦り合うか、英雄というより暴君だ、まるでな。


「…押し返される‥!」


「俺を忘れんなよ、ジジイ。」

二振りに重なり畳み掛ける闘剣。


「御前のそれは、何だ?」


「只の授かりモンだ。」


「三ツ矛の槍か。面白い、貫いてみよ!」


「はて、三つ矛とは?」


「…よく見ろ。」


「槍は一つしかねぇぞ」

三つ同じ柱では無い。

三者三様、バラバラの個人主義だ。


「だから僕らは」


「…己の好きなように‥」


「やらせて貰うぜ!」


鎌で撫で裂き 〈デス・サイス〉


光が穿ち〈ライト・オブ・セイバー〉


力の水が貫く〈マリン・スピア〉


三つの英雄器は其々違った傷を伝説の軀に残した。


「やっと血を流したか、ジイさん。」


「冗談を抜いても酷く辛いなぁ」


「……静まれ、英雄よ‥。」


動きを漸く止めたレジェンドに、願望に近い言葉をかける三竦みだが、警戒する事を辞めず、軀に突き刺さるままの武器からは決して手を離さないでいる。そして案の定レジェンドは口を開き、言葉を発した。


「久方振りだ、相手に傷を付けられたのは。」


「僕だって始めてだが?

歴史に暴力を振るったのはな」


「見事だ。‥が、しかし足りない」


「まだなんか欲しいのかよ?」


「……厄介だ、どうもな‥。」


「力が未だ足らん、不足している。」

単純な力に飢えている。それは、強く成り過ぎた故の代償だろうか。


「‥ったく、仕方ねぇな、来いよ。

最後まで戦りあおうじゃねぇか」


「主、正気か?」


「……何を言っている‥。」

「どうせコイツ倒さねぇと終わらねぇんだろ?

…何が終わるかは知らねぇがな。」


「主は底抜けだな」


「どういう意味だよ。」

称賛か卑下か、敢えて問わなかった。


「うははは!有り難い!

此方も加減は決してしないぞ?」


「こちらも底抜けだ」


「だからどういう意味だっての。」


「…戦は終わらんという事だ‥」


〈ライトオン〉


「まぁ、そういう事だろうな」


「あ、おい‥」

片方は光に、もう片方は闇に紛れ自らの領域へと入る。


「光と闇、陰と陽が半分ずつか。

幻想的な戦術だ」


「ったく、勝手に演出しやがって。

俺はどうすりゃいいってんだ」


『力をお貸ししましょう。』


「ガキ、そういや居たな」

拒否の英雄ムーロンは闘の背中へとドッキング。

『言われた通り、背中は預かります』


「……」 「頼むぜ?」


「力を存分に使わせて貰う。

 隙が有ると思うな!」


〈英雄の堕倒〉


怪しい輝きにひととき包まれ、レジェンドは姿を変えた。背には人間離れした黒翼が生え、頭には輪が浮かんでいる。その様は、英雄というより悪魔に近かった。


「ガキ、空は飛べるか?」


「……」 『可能です』


「狭い部屋だな、場所を変えるか‥」

悪魔と化した英雄が天に手をかざすと、殺風景な部屋は壁や天井といった隔たりを失い、宇宙の様な空間に変化した。


「行くぞ、小僧供!」

開幕の宣言と共に黒いエネルギー物質を闘へと無数に飛ばす。すかさずムーロンが「拒絶」を唱え阻止、飛び道具を出し終えたタイミングで陰と陽が近接襲撃、しかし素手で防がれる。

「陰も陽も把握済み、護り方など熟知しているわ!」


「そうか、それを先にいい給えよ」


「…まったくだ‥。」

両者は腕に押し付ける事をやめ、武器を上へと放り投げる。


「交代だ」「…ふん‥。」

弧を描き、着地した武器は陰に剣、陽に鎌と、逆の手元へ渡った。


「これはまだ知らないだろう?」


「武器を交代させただけ。

何が変わるというのだ馬鹿者め!」


「どうかな‥。」

先程同様腕を構え防がんとする、だが二振りの武器はいとも簡単に躰を射抜いた。


「ぐっ、なぜだ?

なぜ防ぐ事が出来ない!」

「初見の動きだからだ、先程言った筈だが?」


「…話を聞いておけ‥。」

死神が鎌を、光の使者が剣を持つ。それを受ける者も知り得ながら対処を施す。しかしそれは太刀筋のテンプレに沿った回避。他の者が武器を扱えば、動きも極端に変わるのは必然。

 剣を持てば、斬り掛かる。それは光の使者の遣り方。死神は横に構え、縦に突き刺した。反対に鎌をもつ者は、横に降る死神とは違い、縦に振り被り刃先を使った。


「臨機応変くらいは出来ると思ったが、案外苦手なものなのだな」


「そしてお前に逃げ場は無い‥。」


決めろ、パワー・スター

「光も闇も、君次第だ」


「うおぉおぉぉ!!」


〈スターライト・パンチ〉


悪魔だろうが神だろうが関係は無い。

彼がする事は一つ、渾身の拳を入れること。固定された悪魔の軀に衝撃を放つ、只それだけの簡素な生業だ。


「ふぐっ…力が、巡る‥。」


「満足か?

ジイさんよ。」


「巡る…力に‥奪われる…伝説を‥」

〝伝説が奪われる〟

そう呟いた後、英雄は、身に纏う黒い翼に包まれ同化していく。


「離れろ、お前ら!」


「主、人の事が言えるのか?」


「……止むを得ん‥。」


〈奪ワレタ‥英雄モ、伝説モ…!〉


「何だ、こりゃあ…。」

かつてキャプテン・レジェンドであった其れは、禍々しい体躯の邪鬼となり、凶暴極まる眼光を刺し照らす様になった。


『パワー・スター様』


「ロードか、お前随分大人しかったな。」


『申し訳御座いません。

立ち入る隙が無かったもので』


「ありゃあ何だ?」


『あれは、そうですね。

ヒーローの方々に適切に表現するならば〝悪〟でしょうか?』


「悪っておい、どういう事だよ。」


「伝説の英雄とはまるで逆だな」


『正にそうです』


「テンダネス、君もか‥」


『彼、キャプテン・レジェンドは伝説の英雄。故に誰も勝る者が現れなかった。その結果自らを倒せるヒーローはこの世にいないと強大な悪を求めるようになりました。』


「……その結果己の中にもう一つの自分、つまり強大な悪を持つ様になってしまったということか‥。」

ヒーローに失望し、悪を求めた。しかしその悪は強大過ぎて、伝説すらも呑み込んでしまった。


「アンタにも、参加理由があったんだな‥。」


「それはいいとして、だ。

どうやれば鎮まるのだろうか?」


「……」


『ムーロン様でも

拒否の仕方が解りません。』


「……光も上手く通らん‥。」


「どうすりゃいい…」

万事休すかと思われた。そこで口を開いたのは随一信用出来ない不気味な思想の男だった。


「主、君の参加理由は何だったか?」


「参加理由だ?

…強大な悪と、戦う事。」


「ほう、ぴったりではないか!」

咄嗟の目論見、良い考え…な訳が無いか。


「ムーロン君、君は主の上に乗っていてくれ」


「何するつもりだよ?」


「主、実は僕の闇が彼があの姿になってから安定しないのだよ。」


「だからなんだっての。」


「それは光も同じ筈だ、そうだろ?」


「……まぁな‥。」

こんなときにも遠回しかよ、面倒くせぇなぁ。


「何するか教えろってんだよ!」


「わからんか、君に軸になって貰うのだよ。光と闇のね」


「……直ぐに済む‥。」


「おいちょっと待て。

何するつもりだお前ら、おい!」

闘の言葉も都合も無視し、陰と陽は各々の景色に溶け込む。


「僕達が光と闇そのものになり主を覆えば、君は二つの軸になる」


「なんでもいいからさっさとやってくれや。」


「…いくぞ‥?」

左に光、右に闇が入り馴染む。


〈デス・ライト・パワースター〉


「だっせぇ‥」

まんまじゃねぇかよ…。


『fue.ムーロン』 「……」


〈歴史ニ消エロ、英雄ドモ…!〉


「うおっ、ナイスだガキ!」

マトモなのコイツだけじゃねぇか。


『予測通りです。エネルギーの質量が膨大過ぎて、拒否は出来ません。』


「随分と偉くなったもんだな、元々偉いのか、俺は嫌いだけどな。」


『気に止めず特攻して下さい、全て回避して見せます』

最初ハナっからそのつもりだ」

質量の異常に高いエネルギー弾を回避しつつ邪鬼を討つ。暴走する悪意は止まることを知らず猛威を奮う。


〈足掻クナ‥砕ケ壊レロ…英雄…!〉


「なんだ、アリャ!」


『黒鎧兵、エネルギー体の兵士です』

黒い鎧の四足兵士、動きが読みにくく回避は難しい。


「仕方無ぇ、力借りるぞお前ら。」


「右手に死の神器」「左手に聖の光」


《デス・サイス〉

〈ライト・オブ・セイバー〉


「避けられなきゃ、潰しゃいい。」

最初からこのつもり、揺るがない精神


〈足リヌカ‥勢力ガ…足リヌカ…!〉

黒鎧兵は数を増し、兵力をもって再度此方へ。


『兵が増しました、捌ききれません』


「わかってら、増やしゃいいんだろ」


〈キラー・デスカイル〉

〈ホープ・ディ・イルミライト〉

形態変化による複数の擬人化、本来は死神のみ有効な手段だが、馴染み合い、軸となる事で光にも有効となる。


〈いくぜえぇぇ!?〉


「勝手にやってくれ。」


〈光の導くままに…ふん‥!〉


さて、と。

問題は奴をどうやったら倒せるかだ。


「弱点は何処に有る?」


『彼は、悪意の塊です。酷く英雄を敵視しているので恐らくは、一人の英雄として彼を倒す必要性があります』


「一人の英雄としてって‥まるで答えになってねぇぞ、ソレ。」

聞いた事がそのまま返って来ちまった


「武器は形態変化させちまったしな。

あるとすりゃあ結局これか‥」

握られた拳を、更に強く握る。


兵士を武器集が斬り、放出されるエネルギーはアシストに従い回避する。何よりも、どの一振りの代物よりも身近に置き使用してきた。己の拳は唯一にして最大の英雄の証明、ヒーローの証。


〈呑マレロ…黒蛇二‥啜ラレロ…!〉


黒く濁った大蛇が牙を剥く。あんぐりと口を広大に開け、醜い舌先を晒す。


「俺を喰おうってか?

悪いがお前は肩慣らしになって貰う」


〈デスライト・パニッシュ〉


両拳の連殴打。蛇は頭から砕けて崩れ、形を失くしていく。


「左も健在、我ながらな‥」

武器なんざいらねぇ。


「一気にいくぞ、待ってろジジイ!」

主人公みてぇな事言っちまったな。


「久しいな、こんな事言うの…」

昔話に浸るのは好きじゃねぇが、俺は毎日ヒーローだった。


ゲイトシティでは唯一無二、いつでも皆の栄光だ。だがそんなもんには興味が無かった、ただ街に来る悪モンを倒すのが好きだった。


「強さだの名誉だの知るかよ。

悪党以外目じゃ無ぇんだよ俺は!」


〈アクトウ…俺ハ‥悪党ダ…!〉


「お前、悪党なのか。

ゲイトシティのゲイティだ、宜しくな」

邪鬼って言うらしいぜこの悪もん、成る程。名前だけ有るすげぇ力だ。腕力だけじゃねぇ、威圧、気迫申し分無ぇ。


「これだよ、俺が好きなのはよ!」

通常ならば恐れおののく事態だ。

伝説の英雄であるキャプテン・レジェンドを素体として悪意化した邪鬼と拳を合わせて喧嘩しているのだから。しかしこの男にとってそれはこの上ない幸福、私服の時なのだ。


〈英雄…壊レロ‥!〉


以前死神ファントム・シャドウから、強さを求めてバトルを望んだと言われた。そのとき彼は否定をしたが、元を辿ればその勘繰りは、当たりといっても間違いでは無いのかもしれない。しかしいくら聞いても彼は否定し続けるだろう。死神の言葉なら尚更だ。


「どうしたよ、そんなもんか!?」


〈黙レ…笑ウナ‥鳴イテイロ…!〉


「泣かしてみろ、気に入らねぇならなぁ!」


「……」『意気揚々ですね』

絶望を知らず寧ろ向上している。ボルテージが急激に昇がる、それは力の向上にも比例する。


〈パワー・ブロー〉


「はっははぁ!愉しいな!」


〈愉シムナ…哀シメ‥〉


邪鬼の剛拳、混沌の一撃。


「…どうした、軽いな。

‥ジジイの頃の方が硬かったぜ?」


「てめぇのパンチはよ!」


〈スターライト・キャノン〉


街を護る砲撃、邪鬼へと向けて発射。


〈グブ‥カバァァ…〉


「これぞ正義だ、悪党よ。」

悪で取り繕った身体は極端に脆いのか、一撃程度で繊維が吹き飛び崩れ飛んだ。


「ん、なんだおい?」


〈グオ…ガブ‥ズブッ…〉


「なんだか気持ちが悪りぃな」

吹き飛んだ繊維を補おうと、残りの部位が結集し、形を創り治す。


〈素材ガ…足リナイ‥〉

邪鬼は不快な音を立てつつ触手を無数に延ばし、黒鎧兵を捕え取り込む。


「少し、やり過ぎじゃねぇか?」


『形態変化です。これからは恐らく、理性が薄くなるでしょう』


「これ以上のバケモンになんのかよ」


《…ヨシ‥出来タ…。〉


兵士を取り込んだ邪鬼は四足歩行の鋭い尾を持つ獣の様な出で立ちとなり、黒翼は昆虫の羽に似た形状に変化していた。


「どこのモンスターだこりゃあ。」

鎧兵だけでなく擬人化した鎌共まで取り込みやがった。


『尾の先は鋭い刃状の性質、丁度兵士や擬人化達が持っていた武器の形状に似ています』


「吸い取ったもんの特徴を少しばかり拝借するのか、益々気持ち悪りぃな」


〈今度コソ‥悲シイ…?〉


後脚のふくらはぎ部分を肥大化させ大きく跳躍する。上空で尾の形状を光の剣へと変え、英雄目掛け垂直に地へと振り降ろす。


「俺はお前の方が悲しく見えるぜ?」


〈ソンナ訳ナイ…嘘ツクナ‥〉


明らかに口調が変わった。憎しみを全面に出した威圧的な声から突然、無垢な少年の様な言葉遣いになった。声色こそ同じなのだが、以前とは少し異なる恐怖を帯びている。


「人ってのは変わるもんだなおい。

前まで厳格なジイさんだったのに今じゃ地を這い回る黒い鬼か?」


《ネェ、遊ボウヨ

…先ニ泣イタ方ガ負ケ……ドーカナ?〉


「悪いけどよ、そんな時間は無ぇんだ。

一人で泣いててくれ」

じゃあな、英雄の悪モン。


〈スターライト・パンチ〉


専売特許、入れるのはいつも腹。

獣も、虚構も、伝説も英雄も、みんなこの技で倒して来た。


「誰の感情も乗ってねぇ、有るとすりゃ俺のエゴだ!」

ゲイトシティを守っていた。しかし求められていたのは、ヒーローという概念そのもの。パワー・スターでは無い。愛称こそ付いていたが、他に一人もいなかったから。偶々そこに居たパワー・スターがゲイティと名付けられただけの事。


「意味なんかねぇんだよ…アンタも俺も、人の役になんざ立ってねぇよ。」

悪意の衣は徐々に晴れ、元の老人の姿に素体を戻していく。


「求めてる奴も、本当に居るかわかんねぇな、幻だろうと感じるぜ。」

正義に指標を作ると貫けなくなる。


変わったものは、普通の中にポツンと一つだから変わり者だ。

それを一同に介して集めたら普通

正義も一緒だ、自分ってものと変わらず脆く賞味期限の少ない代物だ。


「アンタも別に、倒されなくてもいいんだ。伝説のままでいいんだぜ?」

敵視される対象じゃ無ぇんだからよ。












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