第7話 参加券は黒歴史

 ちょいとばかしの命をかけた死闘の後は、何事も無かったかのように例の部屋(未だにロビーと呼んでいる)に還された。


さっきまで命を取り合ってた連中が平気で顔を合わせてるなんて

正気の沙汰じゃねぇだろ?

何故だか傷は癒えてるし、不気味ったらありゃしねぇな。だが、それよりも俺は今酷く気になることがある。


それは…

「なんで他に誰もいねぇんだ?」

俺達の即席ケダモノとシノビのチームと、エレメンターズとかいう変態組織以外の連中が、誰一人としてこの部屋にいやがらねぇ。一体どうなってる?

頭の中で考えたが、思いつく前に直ぐに答えを教えてくれた。‥奴がな。


『やぁ諸君お疲れ様

しかし休んでいる暇は無い。』

画面越しのアイツだ、名前は確か…ガジェット‥いや、レジェンドか。


「他の連中はどこ行った?」


「気になるか

ならば教えてやらんでもない。」

スッと教えてくれよ、面倒くせぇ!


「はやくいってくれないかなぁ〜おじさんさぁ‥めんどくさいんだけど?」


「ウォンタ、口を慎め

これでも伝説の御方だ。」


「これでも‥って

アンタも不満あるんじゃんか」


「なんだ貴様らその顔はぁ!!

戦終わりで疲労しているのか!?

熱さが足りんぞぉ!」


「貴方が熱すぎるのです

 他は皆普通ですよ?」


「………。」


「なんだコイツら」賑やかな連中だな


「仲良くはしたくねぇ。」


「他の者共は何処に消えたのでござるか?」


お前が聞くのか!

…別にいいけどな。


『引き延ばしても仕方ない、教えよう。他の者達には、とある挑戦をして貰っている。』


「挑戦?」


「にんじんカ?」「黙ってろ。」


『うむ。そのとある挑戦とは、この私と戦う為の参加券を手にする為の試練。』


「レジェンドと?」「……戦うか。」

『そうだ。私と戦う為に、彼等はとある団体と火花を散らしている。』


「団体‥」またか、好きだなどうも。


「その団体と戦って勝った者が、貴方との戦闘の権利を得られるという事ですか。」


『そういう事になる。』


「それで?

倒す相手ってのは何者なのさ?」


『彼等は存在していてしない者、消された過去に潜む虚構の存在だ。』


「虚構の存在だぁ?」

一々分かりにくいんだよなレジェンドはよ。


『名をトランスケーション、訳あって消されたヒーロー達の集いだ。お前達は質問が多い、だから先に言っておくが、彼等は凄まじく強い。何せ表に出る事の無い力を有する者達だからな』


この戦闘権を得る為の挑戦ってやつは違和感があった。一番大きなのは、拒否する権利が無い事だ。皆がこぞって参加したといってたが恐らく強制参加、ジジイの都合が良くなるようになってやがる。気持ちが悪りぃが俺達は、否が応でも機械のこの言葉を聞いて向かわなければならかった。


「闘いたくも無い奴の待つ、戦場へ」


『転送』


フィールド・遺跡 状態 夜

ルール団体vs個人戦

相手団体 トランスケーション

団体の内いづれかの者を倒せば勝利


『転送完了』


「ふぅっ‥他の連中はどこだ?」


『疎らに送られたのでしょう、皆別の箇所に点在している模様です』


「そうか、どうりで。…で、ここはどこだ?

誰一人影すら見えねぇが。」


『計りきれませんね。争いが終息した後なのか、元々通りの少ない箇所なのか…』


「どっちでもいいさ、別にな」

どうせなんかと戦わせられんだしよ。


「戦えるだけいいと思わないか?」


「ほらなんか来たろ?」 『はい』


「何もんだお前!」

コイツ今、俺の心を…偶然か?


「ミーはトランスケーションの一人、ビオラテル・スーパーだ。」


「ビ、ビオラ‥なにぃっ?」


「ビオラテル・スーパーだ!

それに心を読んだのは偶然では無い」


「やっぱし読んでやがったか!」


「あぁ、これは〝マインドマン〟の力だ。」


「何言ってんだ、お前?」

他の箇所もこんな調子なのか?


「他の箇所はこんな具合では無い!」


「勝手に心読むんじゃねぇ!」


「マインドマンの力だ!」


「だから誰なんだそいつはよ!」


もういい 「仕方ねぇ、ロード頼む。」


『はい、こちらです』


ビオラテル・スーパー 性別男

通称 鏡 アキラ最大の汚点

武器 全ヒーローの力を使用可能

出身週刊少年バチム連載

「ネイティブ・ヒーロー!!」


「鏡 アキラ最大の汚点…?」

週刊少年バチム、聞いたことあるな。


「そうだ!」


「うおっ、なんだいきなり。」


「ミーは鏡 アキラが手掛けた漫画

〝ネイティブ・ヒーロー!!〟の主人公、ビオラテル・スーパーだ。」


漫画の主人公!?

「そんな奴がなんでこんなトコに!」


「ミーは無理なキャラ設定や覚えにくい名前などで人気が振るわず二ヶ月で打ち切りになった。主人公なのに、他のヒーローの力を使って闘うなんて前代未聞だ。」

虚構の存在…そういう事か


「なりきれなかったのさ、ヒーローに。」


「そうかよ、道理で知らねぇ名前が出てくると思ったぜ。」


「何?」 「とぼけんなよ」


「マインドマンってのも、お前と同じ過去の珍品だろ?」


「貴様‥言葉を選んだほうがいいぞ」


「そうか、悪りぃな。」

心持ち強気でいった方がよさそうだな、設定がブッ飛んでるのは恐らくコイツだけじゃねぇ。


「虚勢はるのは好きじゃあねぇが、大袈裟にいかせて貰うぜ!」


「好きにしろ

ミーはもう既に先手を取っている!」


〈Mr.《ミスター》ステルス〉


「うおっ」姿が消えた。

いきなり攻めじゃあねぇかよ!


「開始で姑息ってアリかよ!」


「消えるだけじゃないぞ?」「何?」


〈ステルス・ボム!!〉


人数が増えた?

いや、自分と同じ形の模型の上にステルスを掛けてる。しかもそれの全てが時限式の爆弾か、無駄に懲り過ぎてやがる。


「だからなんだってんだ?」

こんなもん床でも殴りゃあ‥


〈マインドマン!!〉 「しまった!」


「抵抗など、させるか!」


〈THE・コールド!!〉 名前がダサい


「フリーズブレス!」安直な技名…!


「そして案の定拳が氷漬けに…。」


「ほら、爆弾がはじけるぞ!」


「くっ‥!防ぎようが無い!」


耐えきれるか!?

《スター・ライトダイヤモンド〉


氷漬けの拳よ、強靭な盾となれ!!

「消し飛べ、パワー・スター。」


「ぐうおぉっ‥!!」

見えない爆弾は威力に任せて身を焦がし、英雄に破壊を与えた。


「かはっ…!」流石にキツイぜ‥。


「これがヒーローの遣り口かよ。」


「文句を言うな、俺の力では無い!」

本意じゃねぇってか。

それより武器に爆弾使ってくる奴多く無ぇか?


「まぁいいや、お陰さんで腕の氷が砕けた。礼を言う気にはなれねぇがな」


「そうか、それは良かった。

では次はどうかな?」


〈インセクト・キング!!〉

名前が軒並み酷いな。


「いや、今回はそこそこか?」


「この力は、自在に姿を変える‥。」


〈スタイルチェンジ・タイプ鈴虫!〉


「やっぱ酷いな」

ある種裏切りはしないけどな。


「さぁ耳を塞げ、鳴き声の嵐だ!」


「ぐぉっ!」こんなにでかい音が!?


「怯んでいるな?

その隙に更に形態変化だ!」


〈スタイルチェンジタイプカマキリ〉


「カマキリってお前。」


「ジャキジャキィ!」鳴き声かそれ?

もう俺はこの漫画読みたくなってるぞ


「さぁ鎌の餌食になれ!」

奴は鼓膜への衝撃が残っていて身動きが取れない、貰ったぁ!


〈パワー・ブロー〉


「がはっ‥!」


「な、何故‥!?」「鎌は嫌いでよ」


「見てるとイライラすんだよな!」


〈スターライト・マグナム!!〉


「ふっとべぇ!!」


「くあっ、お前ぇ…あぁっ!」


『衝撃により吹き飛び、遺跡の一部に激突、破損しました。』


「変な報告すんな!」『すみません』

思ったより硬い腹だったな、皮膚まで変化できるのか…どうでもいいな。


「ぐはっ‥まだ生きているぞ

これで終わりだと思ったか?」


「何も言ってねぇよ」


「‥そうか。」「素直なのかお前?」


「既存の力では勝てそうにないな」

誰も知らねぇ連中だけどな。


「だったらどうするってんだ?」


「…そうだな。ならば、新しく知った力を借りるとしよう。」


「新しく知った力?」

訳の分からん虚言だと聞き流したが、そいつはその後、一番身近な姿に形を変えた。

新しく知った力、俺はそれを誰よりも古く知っていた。


「中々の体つき、力がみなぎるぞ!」


「あぁ、そうかよ。そりゃあそうだろうな

俺の身体なんだからよ!」


「いくぞ。」 「どこにだよ!」


「お前を超えて向こうにな!」


〈パワー・ナックル!!〉


「やってみやがれってんだ!」


《スターライト・ナックル〉


硬ってぇ、本当に俺の拳の威力だ。

「その程度か!?」


《アッパー・ザ・ムーン・ニー!!〉


「どの程度まで知ってるつもりなんだよ!」

突き上げの膝蹴りか、長らく使ってねぇ技だな、久し振りに見た。


「突き上げなら、突き出しだ。」


〈マーズ・エルボー〉


「ぐふっ‥」「腹がガラ空きだぜ?」


「もう、容赦はしない!」


〈パワー・オブ・ラッシュ!!〉


「今まで加減してたのかよ…!


〈スターライト・ラッシュ〉


拳は音を立て幾度も重なる。力の加減は同じ、形も大きさも、違わず同じ。

比べる物差しの存在しない力比べは、何に勝れば満足なのだろうか。そんなものは殴る者にも分からない。ただがむしゃらに腕を振るい、手甲てのこうを赤く腫らすのみ。


「どうした?もうへばったのか?」

馬鹿にしてんのか、コイツ。

確かに打撃を受け続けてりゃしんどくなるが、同じパワーを奴も受けてる。


「悪りぃが、まだピンピンしてるぜ」


「そうか、残念だっ…!」


〈パワー・ヘビィ・クラッシュ!!〉


急に力加減を変えて来たのか…?

「ぐっ!」しまった、体勢がっ…!


「まだだ、追加の一撃だ」


〈アッパー・ザ・ムーン・ニー!!〉


「がっはぁ‥!」モロに入れやがって

「止めだ、もう一度腹を貸せ!」


「離せこのヤロ!」

肩を掴む腕が何やっても離れねぇ。こんなに強かったのか、俺の力ってよ。


「くらえ、お前の一番代名詞だ」


〈スターライト・パンチィ!!〉


「ぐばぁっ!!」

自分の必殺技でくたばる気持ちはどうだ。


「苦しいか?」屈辱だろ英雄よ!


「己の力に敗けて死ぬんだお前は!」


「……りぃよ。」 「何?」


「ぬりぃって言ってんだよ!」


「ぬるい?

お前の力だぞ、これは。」


「俺の力なんかじゃねぇ!

…本物くらわせてやる、腹貸せ。」

こんなもん、ハリボテだ!


「なんだ、離せ!何をする気だ!!」

肩を掴む腕が硬すぎる、何をしても離れん。


「人の力も上手く使えねぇ奴が、限界の話をすんじゃねぇ。」


「あ、あわわわわぁっ…!!」


「くらえ、これが俺の代名詞だ!」


〈スターライト・パンチ〉


勢いは音を殺し、静寂を呼び、密かな世界を保ちつつ戦いを終わらせた。


『戦闘不能、貴方の勝利です』


「本当に、勝ったのか?

まぁだとすりゃあ、参加賞ゲットか」

レジェンドと戦う気なんざ無かったんだが、でも今回は少し、悪役っぽい奴が倒せたな。


「漸く参加理由に近付いた

 今更じゃ遅すぎるけどな。」


遺跡・B地区


「な、なんなんだアイツはぁー!」


「ウフフフ‥私の僕になりなさい?」


「ウワァァ!」


「おい、どうした!」急に、倒れた。


「生気がない…死んでる?」


「ウフフフ!

まぁた一人ふえた。私のお友達が♡

ウフ、ウフフフ、ウフフフフフフ!」


「なんだアレは!ゆ、幽霊!?」

女の周りに、白いモヤの様なものが!


「おやぁ…?

もう一人残ってたようだね。」


「ひっ!」


「怖いかい?

でも見てみなよ、アンタの周りの子達、みんな私の友達になったのよ?」

みんな友達に‥もしかして、周りに転がってるヒーロー達が、全部あの白いモヤに!?


「嫌だっ、なってたまるか!

お前の友達なんて、ゴメンだっ‥!」


「…そう、残念ねぇ。すっごく楽しいのに、友達にならないなんて…!」


「う、ひぃっ!」

モヤが、こっちに来る!!


「死んでくれるかしら?ウフフ、ウフフフッ!」


「うわぁぁっー!!」


〈ライト・オン〉


「うひっ、眩しいぃ!」


「うっ‥なんだ、急に光が。」


「……一躍不気味な女だ。」

翼の生えた、ヒーロー?


「うあぁぁ〜!

光のせいで私のお友達がぁっ!!」


「おぉ前かぁっ〜?」


「…………トランスケーションか?」

煌々と輝くその男は、絶望の風景に一筋、希望を見せた。


「……お前。」 「俺か、何だ?」


「あの女の素性を知っているか…?」


「あの女の素性‥待ってろ、今調べる…これだ、出たぞ!」


うらめしマリア ミルコ街 出身

通称 魂姫(ソウル・ヴァルキリー)

武器 呪い、ゴーストパワー

参加理由 お友達をふやしたいの♡


「……ゴーストパワー。」


「気を付けろ、アイツの周りのモヤの事だ。触れたら終わりだぞ?」


「終わり?

何を言っているのかしら、触れたときから始まるのにねえぇ!」


〈ライト・オン〉


「お前はどこかに消えていろ…。」


「えっ‥?

うわぁっ〜…!!」


〈ライト・オフ〉


「くあぁっ!眩しいぃっ!!

電気を消したりつけたりなんなのよ!

…あれぇ?

一人減ってるねぇ‥あの子はどこにいったのかしらぁ?」


「……ワープさせた。」


「ワープ、私のお友達を勝手に!?

なんて事してくれたのよアンタァ!」

話の通じる相手では無さそうだ。


「だったら…アンタがお友達になりなさい!私の新しいお友達にぃ!!」


〈ゴースト・インビテーション〉


「……」

光を放てば消えるだろうが、少し様子を見てみるか。


「久々に空を飛ぶか…。」 バサ‥。

見栄えが悪いが、仕方ないか。


「羽を広げて天使のつもりかしらぁ?

思い上がってんじゃないわよぉ!」

速さが増した。追尾は元の性質だとして前述の変化は、あの女の感情に呼応したものか?


「物理的な操作は出来ない訳か‥。」

ならば女を直接叩けば止むか。


「……おい、女。」 「なぁにぃ?」


《ライト・ピアサー〉


「なんの真似よぉアンタァ!!」


〈ゴースト・インビテーション〉


直接攻撃は霊に当てて避ける、そうだろうな

「こっちだ…。」 「えぇっ〜?」

背後ギリギリからなら避けきれまい。


〈ランプ・ショック〉


「グエぇ〜!!」


「只の軽い掌底だ、喚くな‥。」

空から落としたが…ゴーストは消えたか。


「羽を閉じるとするか‥。」


「ウフフフゥ‥許さないわよぉ?

絶対苦しめてやるんだからねぇっ!」


〈カースド・デッド〉


「集まれぇお友達たちいぃっ〜!!」

ゴースト共が女を囲んでいる。

何を始める気だ?


「ウフフフッ!

見てみてぇ〜。お友達が作ってくれたドレスなのよぉ。キレイでしょ〜?」


「……不気味だな。」


「なんですってぇ?

また文句付けるのかぁ!!

許さない、アンタを絶対許さない!」


「……一体此方がお前に何をした?」

こちらも光を纏わせて貰う、一応な。


「苦しめぇー!!」 「‥ふん。」

釘か?

物理的攻撃はしないものと思っていたが…単純なものでは無いだろうがな。


「全て避けるに越した事は無いが……念の為だ、力を貸せ。」

どうせ間抜けな空、死人と同義だ。


「私のお友達の身体を盾にする気ぃ?

この悪魔ァ!鬼ィ!!」


「なんとでも言え

それよりも知りたい事がある。」


「苦しぃめぇっー!!」来たか。


「……着弾。」 さぁ、どうなる?

『ドロリッ…』溶けた。毒の類か?


『グチャ‥ドチャ…ケケケ!』


「違うな、これは。」


「ハッピーバースデイィッ!!

お祝いに命をあげるからねぇ…?」

操り人形へのツールだったか。


「……尚更当たる訳にはいかなくなったな。」


「えぇ〜…当たらないのぉ〜?

じゃあいい事考えたわぁ…!

他の子にも命をあげましょうねぇ。」


「……よせ、やめたほうが良い。」


「私に指図するなぁっ!!」


《カース・デッド・リボーン〉


厄介な事をしてくれる。

「ウフフフアハッ!ハハハハウハッ!

みんな、おめでとぉう!!」


『ドロ…グチャ‥ケケケケケケ!』


「……敗した者が立ち上がる、無様なものだ」

これらを相手取るか、正気じゃないな。

元々の目的はなんだ?


「……雑魚を潰す事では無い。」


〈シャイニング・レイ〉


広範囲に及ぶ光の刃だ、まとめて刻まれろ。

「……全滅か。」


「ウゥゥゥゥアァァッ!!

私のお友達をまた傷つけた、しかもこんなにたくさんをぉ!!」


「見かけ倒しだな、規格外の強さだと聞いていたが…まぁその先は言わないでおく。」

光の使者は女に近付き静かに腹に握った手を添える。


「終わりだ、女……。」


「ウルアァァッ…!!

嫌だ、何するの!やめてぇっー!!」


《L・ライト・パニッシュ〉


「光が私を支配する‥ウフ、ウフフフ、ウフフハハハハハハァッ…!!」

拳から弾けた光が女を裁き導いた。


「先でどうなるかはお前次第だ…」

やるべき事は終えた、先へ進む。


「……高みへと、上る。」

ガディウス、戦闘権獲得


遺跡・D地区


 ここでは異臭や菌などに侵され、多くのヒーローが戦闘不能に陥っていた。


「身体中が痛い、何故だろう。

それは具合が悪いからさ」


「熱も無いのに吐き気がする。それは何故か、イケないものが蔓延しているからさ。」


口弁を垂れるこの男、トランスケーションの一人シック。能力が下手を打てば世界規模で巻き込み事故を起こすと豪語される程危険故にヒーロー活動を禁じられた。


「結局何が言いたいかっていうと、身体は大事にした方が絶対良いってことさ。」


「それは植物にも効くのですか?」


「君はなんなのさ。」


「私はフォレスト、君と同じで菌やウイルスに興味がありましね、色々話しがしたい御相手ですね。」


「悪いけど、僕は一人よがりだからね、情報を教える義理は無いんだ。」


「義理なんていりませんよ?

所詮聞くか聞かれる構わず教える事になるのですから」


「あっそう。

…それじゃあ君も、感染してみる?」


〈メディスン・ハザード〉


「子供の頃遊んだろ、水風船でさ」

液体の入ったボール。あれが病原体を引き起こす原因ですね。


「迂闊な攻撃は禁物…」 「テイ!」


「ああぁぁぁっ!!」


「濡れタ、なんだコノ球?」


「またお前か、何してくれてるんだ!?

菌が蔓延してしまいますよ!」


「アー、そうなノカ?

そレハ大変な事になっタナ。」

他人事ですか!この猿め!


「余所見してるとこ悪いけど、かますよ?」


〈メディスン・ハザード〉


「冗談ですよねぇ?」二度は御免です。


〈菌取り草ーウイルスイーター〉


「毒物や病原体を好んで餌にする魔草です。貴方の菌は最早晩御飯に過ぎませんよ。」


「どうかな。」 「何がです?」


「言ったろ、一人よがりだってさ。

それは毒も同じだよ?」


メキメキッ‥ビシッ…

「もしや。」

植物が、悲鳴を上げている!


「消化しきれないというのですか?」


「できる方がおかしいさ、端から崩れていくのがオチかな。」


させませんよ、そんなこと


〈火粉草ーマンドラゴラー〉


「ウイルスを食べた植物に覆い被さった。何をしてんだろ、一体。」

こいつで毒を抽出して、火粉かふんに変える。火粉は触れれば引火してその成分は、元になったものが含まれる。


「生み出された粉の一粒一粒が、菌を帯びた兵器なのですよ。」

あとは〝風〟を送りあちらへ誘導させるだけ、マンドラゴラによる生成が終わり次第取り掛かりましょう。


「‥へぇ、それに触れたら燃えるだけじゃなくて病原体にも触れるのかぁ」

「その通りです。」


「じゃあ君の友達終わりだね

真下にいるからさ。」


「…!?‥貴方、何故そこに!」


「でかイ花ダナ。

二つくッついテルゾ?」


何をしているんです…!

「直ぐにそこから離れなさい!」


「もう遅いんじゃないかな?」


メキ‥メキメキ…パラララ‥パラ


案の定遅かった、マンドラゴラの蕾は大きく開き、火粉を散らせた。当然下で構え、それを浴びた暴我の英雄は‥


「……」


「大変だね、あれは。燃えながら、侵されてるんだからさ…。」


「どうしてこんなことに」

貴方に浴びせるモノではないんですよ


「まず、一人…」「あっツイゾ!」


「何?」 「生きてるのか!?」


「花が火を吹いタ!

おかしナ花ダ!なんナんダ!」

ピンピンしている、忘れていた。

こいつは化け物だ、火傷で死ぬ訳が無い。ましてや引火程度ではな。


「へぇ、馬鹿は死なないってホントだったんだ。‥風邪は引いてるだろうけどさ?」


「おい、お前」 「アれ、オ前…」


「無事ですか?」


「アァ、だけド何だカ頭がボーッとするンダ」

頭がぼうっと、ウイルスの影響か?


「ぼうっとって何だよ、ホントに風邪みたいじゃんか。ヤバイねあの人やっぱりさ、普通なら起き上がれない筈なのに。」

今は影響が薄くても、確実に体内には蓄積されている筈。後々悪化は逃れられない。


「しかし貴方なら、できるかも知れない。」


「オォ‥?」


「少し身体を借りますよ?」


右、左肩に一つ、背中に一つか。


《魔草ーマンドラゴラJr.ー〉


左肩、更に右肩。

〈音取草ースピーカスー〉


最後に背中に咲き誇れ。

〈風送花ーエアレシアンー〉


「なんだコレ、邪魔クサイ。」


「文句を言わないで下さい、貴方にしか出来ない事です。」


「オレにしカ、出来なイ…。」


「遣り方は、説明しても長引きそうなので、アシストに送ります。」


『ピピッ、ご確認下さい』 「オォ」

ウイルスを帯びた火粉をモロに受けてしまった。一先ずこれを排除する必要性がある。その上で、新しく菌が生成される事を防ぐ為、元凶である男を倒しておかなければならない。


体内におけるウイルスは、左の魔草が火粉に変えてくれる。身につけている間は半永久的に。それを背中のエアラシアンの風で相手に送りながら距離を縮めて近付いて欲しい、でなければ接近戦の貴方では攻撃を与えられない。


しかし近付くことも容易では無い。

こちらから近付こうとすれば奴はまた、病原体の球を投げてくる事だろう。それを野放しにしておく事も危険なので、私が知らせる。投げて来た方向、位置を右のスピーカスで聞き確認した後、破壊して欲しい。素手でも構わない。

『ご理解頂けたでしょうか?』


「アァ‥とにかク、前に走れバいいンダ…。」


『‥ですね』


「何を企んでるのさ、早く来なよ。」


「戦闘、開始だ。」 「オォッ!」

体の毒を武器に変え、飛ばし。

相手の球を捉え、壊し。

着実に、牙を剥き、抗っていた。


「小賢しいんだよ。

無駄に抵抗しちゃってさぁ!」


〈メディスン・ハザード〉


「またカ、オイ、指示をくレ!

どこニ着弾すル?」


〈………〉返事がナイ。


「オイ、聞いてるカ?おイ!」


「やめてあげなよ。彼、もう限界なんだと思うんだけど、さ?」


「何だト!」 「後ろ、見てみなよ」


「はぁ‥はぁ…!」


「どうシタ!大丈夫カ!?」


「指示が正確だと思ってたぁ?

まぁ正確ではあったんだろうけど、狂わせる事なんて簡単なのさ。」


「オ前ェ…!」「今だってほら!」


バスッ、メキメキメキッ…

「背中の花ガ!」


「分からない内に壊すなんて簡単な事だよ?」

オレが指示通リに動いてイル間ニ、あいツを狙っていたノカ!


「オ前ェ!」「おっと、危ない!」


「急に拳振らないでよ。ビビるからさ‥」


「はぁ‥はぁ…。」指示を‥。


何か…指示を与えなければいけない。


〈………聞こえるか、英雄よ。〉


「オ前!

…アァ聞こエるゾ。」


〈今からお前にやってもらう事は…〉

息を切らし植物越しに伝えたい指令は、何よりも分かりやすく、そして誰よりも得意なことだった。


〈わかったか?〉 「アァ!」


「何する気かわかんないけど、何したって無駄だってわからんかなぁ!」


〈メディスン・ハザード〉


「フンッ!」


避けた?「壊さないのか!?」

そんな事をしたら、当たるぞ!

最初から僕は奥の植物野郎を狙ってるんだ!


「ぐあぁぁっ!!」正気か?


「味方がやられているのに

見向きもしないなんて!」


「いいぞ、それでいいんだ‥。」

お前に難しい事言ってもわからないよな。

…最初から気付いてた筈なのに。


「だからいいんだ、アイツへの指令なんて〝好きに暴れてこい〟でな。」


「うわぁっ!

来るな、こっちに来るなぁ!!」


〈メディスン・ハザード〉


「こんなウイルス、屁デもナイ。

…もっとキツイのをクレてヤルゥ!」


メキッ…ブチン‥


肩の花を引き抜いて、それは確か‥病原菌を粉に変える…!

「やめろ、ヤメろ、ヤメロッー!!」


〈マンドラ・フィスト・ハンマー!〉


やめろって言ったのに‥。

「がはっ。」


「ハァはぁ…フォレスト!」

駆け寄り、様子を伺ったが、既に菌に侵されていた。


「フォレスト‥勝っタゾ、お前の言うトオリ、暴れ回っテやっタゾ!」


『標的を倒しましたね、フィスト様』


「アァ、オレは勝ったノカ?

ならレジェンドと戦ウゾ!」


『‥残念ながら、それは出来ません』


「ナンでダ!

オレはアイツを倒しタゾ!?」

『はい、確かに標的を倒す事は出来ました』


「ジャあなんデ…ガはァっ‥。」


『バトルに関しては相討ちなのです』


遺跡・D地区

勝者、レジェンド戦闘挑戦権獲得者

いずれも無し。


遺跡・C地区


デス・ブラッガー 通称 死帝王

武器 死に至る要因

出身地 出生共に不明

参加理由 真実を伝える為


「ふむふむコイツだ間違いない!!

お前がトランスケーションだな?」



「……お前の‥」 「俺の名前か!」


「俺はフレイムのヒートォ!!

エレメンターズいち熱い男だぁ!!」

エレメンターズ一、いやヒーロー界一の面倒男はC地区のトランスケーションと顔を合わせていた。


「それにしてもなんだコイツらはぁ?

戦いもせずにゴロゴロと床に寝そべりおってぇ…熱さが足りんわぁっ!!」


「…やかましいぞ‥。」


「なぁんだとぉ!?

声が小さいわフヌケェ!!」


〈フレイム・ラジエーション〉


「…溺死‥。」 「ムッ!?」


『ゴポポポッ…』水か‥!

そんなもので俺の火が消えるとでも?


〈フレイム・ブースト〉


我が身をロケットの如く!射出!!

「はつはっはっはっはっはあっー!!どうした、声も出ないか?

俺は今ロケットだぁ!はっはっは!」


「爆死」 「ぐおっ、引火したか!」


「刺殺」 「ぐあっ、突然刃物か!」


「だが甘いわぁ!!」

〈フレア・ボディ〉 「炎の衣よ!」


「お次はなんだぁ!?」


「……感電死。」 「ぐおぉっ!!」

雷撃か、ヒューズの様だな。


「ぜぇ‥はぁ…!!

やるではないか、なかなか効くぞ‥」


「…お前は生きた方だ‥。」

熱く生きれたのなら本望だぁ!!


「…焼死。」


「炎に焼かれて死ぬか、最高だぁ!」


「…あぁ、存分に愉しめ‥。」


「盛り上がっている処悪いが、もう少し生きて貰ってもいいだろうか?」

悪戯に鼓膜を掻く不快な声が、死の宣告を先延ばしにした。


「水?」


「スプリンクラーの一種だ」


「…ファントム、シャドウ‥!」


「おや、ご存知なのか。光栄だなぁ、名乗る前から知っていた観客は初めてだ。」


「誰だ貴様ぁ!!」


「ほう、そうか。君と会うのは初めてだったな、僕が棄権をしたのでね。」


「そんな事は知るかぁ!!

何者だと聞いているのだぁ!!」


「一応僕、君を助けているのだが、まぁいいか。そんな事よりフレイムのヒート君、席を譲ってくれないか?」


「何、ふざけるなぁ!!

アレは俺が先に見つけた獲物…グー‥ムニャア…。」


「おやすみ。

そういうと思って用意しておいて良かった、高濃度の睡眠剤だ。」

手段を選ばず舞台を整える。奇術師には敵も味方もいない。己以外は、皆小道具。それ以外は強制的に観客だ。


「さぁ〜ショウターイム!

素晴らしい宴の始まりだぁ!!」


「…悪趣味な‥。」


「褒め言葉どうも、僕も君は知っているよ。〝死の帝王〟って呼ばれている人だろう?」


「…死神がよく言う‥。」


「お互いさまだって?

‥一緒にされても困るがな、僕は人を死に至らしめたりはしない。」

僕はあくまでも、ショーの観客として楽しんでもらいたいだけなのだよ。


「イートー♪空にイートー♪

そこに腰をかけーてー♪グルリ一捻り

逆ーさまになれーばー♫ルルルルー♩

ファントム・シャドウの特等席🎶」


「…何のマネだ‥?」


「何でもない

只空に座っただけだ、逆さまにだが。」


人を食った態度、探りの演技か無意識の感性か。掴み所をもたない者の素性を知るなど無意味な事だ。


「先ずは君にプレゼントをやろう。

観客へサービスだ」

ご挨拶といったらやはりこれに限る。


「ナイフ君達の握手をやろう!」

「……事故死。」ほう、事故死?


カタカタ…カタ‥

「おや、ナイフの刃先が此方側に‥」


「…礼儀は大事にしないとな‥。」


そうか!「そういう事なら話が早い」


「先に言ってくれよ、ほらっ!」

何を投げた…?

石、いや違うな。


「…これは…磁石か‥?」


「いつもはチタン製のナイフだが、今回は急だったのでな。…鉄製を持ってきてしまったのだが、問題は特に無いよなぁ?」

髭は無いか、ならば黒髭では無いな。

黒づくめ危機一髪…違うか。


「…自殺‥。」


ブシュッ!

「血が吹き出たが、何の騒ぎだ?」

身体がナイフと共に溶けていく。


「焼死。」 「ふっ、発火した?」


「…熱いか‥?」「何の真似だろう」

彼の力は死因、焼死や水死、事故までも全てが武器。敗北するものは皆悲惨な末路を遂げる。それ故に彼に助けを求めるものは自然と減っていった。


「自害する事は刻に潔く映る。…死にきれるとは限らないが‥」


「残酷な事を云う、だが悪い。

死後の世界を司る死神にとっては、無縁の噺なようだ。」


「…人の生涯に感心は無しか‥。」


「どうだろうか、そうとも限らない

例えばあの月、見えるだろうか?」


「……あぁ‥。」


「綺麗だろう?

独りでに輝いて。」 「…まぁな。」


「だが、僕はもう見飽きてる。

個人的には何も感じない」


「……乏しい奴だ。」


「そう思うか、だがアレを見て心から感動する者もいる。」


「……何が言いたい‥?」


「要するにだ、人によって感じ方や捉え方は大きく違うということだ、そしてその殆どは自らに惚れ込み陶酔した見方と成り得る。」

人はそれを〝本当の事〟と云う。

本当の事の正体は、実際に起きている真実では無く、自分に都合のいい現実


「君は己を虚構に近い存在だと思っているかも知れないが、元々見えているものなど嘘ばかりだ」


「…下手をすれば、君が真実なのかもなぁ。」


「……奇をてらった事を言うな‥。」

嫌に冷静、やかましいより余程良いだろうが


「見透かすのは僕のスタイルなのだが、困り者だ。」


「……お前も生き残っている方だ。」


生き残っている方か、仕方ない。

ならば思いきって死んでみるとしよう


「闇夜を照らす月の光を消せるのは、僕だけだからなぁ。」

しかし今あの月を壊すのは忍びない。見とれて酔いたい気分だからな。


「ならば、月に映る者を減らせばいいのだよ」


〈デス・サイス〉


どうやら直接攻撃を防ぐ方法はないようだ、皮肉にもフィールドは夜。

「望まないことだが、僕のテリトリーである訳だ。」

近接物理であれば避ける他無い筈だが


「…孤独死。」


〈スカッ‥〉 「当たらない?はて」

その後も何度か鎌を振りかざしたが、身体を透かし、当たる事は無かった。


「…死者の顔を殴れるとでも‥?」


「そういえば、死者を殺した事は無かったな」

言われるまで気付かなかった。


「ならば光は好むのだろうか?」


「…くぉっ‥」

「意外にも有効か」新たな発見だ。


光が映えれば、影が延びる。

影が延びれば、闇が広がる。


「…どこにいった‥?」

闇に潜む戦い方…聞いた通りだ‥。


「聞こえているか、死を司る王よ」


「…どこにいる‥?」


「質問か、丁度良い。

ならば僕も聞きたい事があるのだが」

…罠か、挑発か‥。


「いいだろう…何だ‥?」


「教えてくれるか。

今君の眼に僕の鎌はいくつ見える?」

黒い空から複数本の鎌が浮かび、鋒を輝かせる。間違い無く彼の鎌だ。


「…卑怯者が‥。」


「良く言われるが間違い、これは演出だ。

‥仮に卑怯だとしても、初めからわかっていた事だと思うのだが?」


開き直りか、死神らしい。

だが、甘い‥「孤独死…」


「おぉっと、何してる!」


「…これは‥鎖‥。」


君のアドリブはいらないのだよ?

「少し大人しくしてい給え。」


「…周到だな‥。」 「やはりかぁ」

唱える前に予め細工をしておけば

〝死ねない〟って訳なのか、成る程。


「…やはり、一筋縄でいかないな‥」


「一筋でも縄が有ればよいと思うが‥仕方ない、死の帝王と云いながら未だ現世このよに未練がある様だ」


「……‥。」

終幕か、美しい‥。


「鎖と共に、生への因果を断ち切って差し上げろ。」

 黒い鎌は同じ色をした鎖に向かって一斉に振り落ちた。死の帝王は、この世の感覚である〝痛み〟を受けて、闇の上を赤く塗り染める。死神は、初めて生きている人間を間近で眼に収めた。

「墜ちるときは静かだな」

後はキャプテン・レジェンドだけか…


「……犠牲死‥。」


ブシュ‥ 「ほう、腕から血が」

どこで傷を付けたのかと覚えの無い腕の血を皮切りに、見覚えの無い傷痕は身体中を蝕み血を吐き出す。


「くあっ…何だというんだ‥?」

いよいよ鎌に嫌われたのか。


「…生への因果、現世の未練か‥。」


「そんなもの、在ると思ったのか?

…生きる意味など無いというのに‥」

傷が一つもない。

‥僕に移したという事か、卑怯者め。


「くぅっ、酷い事をするものだ。

…だが、油断は大敵というものだな」

シャドウが手元のワイヤーを引く。帝王が爆風に包まれる、ブービーボムトラップだ。


「…事故死。」

地形が剥がれ瓦礫を飛ばす。当然標的は死神、シャドウの元へ。


「うおっ…と、やはり上手くはいかないか。」

どうしたものか。ここまで血で絵を描く事になるとはな、思ったより厄介だ


「今の死因わざ、直前の傷を返すだけのものだ。おそらくではあるが」

だからこそ奴は己の受ける傷を抑えていた。でなければ態々身体を透かせて躱す必要は無い筈。

「今の爆発も同じ事、同じ業だ。」


「…随分と死に近付いたな‥。」


「お陰様で無様なものだ、まったく」

考えてもラチがあかないな。


「暫くあの者に任せるとしよう」


〈デス・サイス〉


「形態変化」〈キラー・デスカイル〉

できれば使いたくはなかったが‥。


『よう相棒、珍しいじゃねぇか!

オレ様を呼ぶなんてよ。』


「己で僕を斬っておいてよく云うな」


『斬ったのはオレじゃねぇよ?

斬らされはしたけどよぉ!』


「‥早く向かってくれないか?」


『あいよぉ、まかせなぁっ!』

やはり呼ぶべきでは無かったな…。


『よぉ、お前が相手かよ?

悪りぃな相棒が今延びちまっててよ』

余計な事をいうな‥。


「鎌を持った悪魔…いや、鬼か‥?」


『いっとくがよ、オレ様は強いぜ!』

遣り方はせいぜい、鎌を振り廻す程度か、単純だな。 


『はぁっ!』やはりか、意外性も無い


「…孤独死。」 変わり映えもない。


ブシュウッ…「斬れただと?」


『当たり前だろ、斬ってんだからよ』

そんな下衆に、死なんて概念が有ると思うか?


「ある訳が無い、死ぬ価値も無い。」


『はぁぁ…もっと斬らせろやぁっ!』

治した傷は、また戻る。死ぬに死ねない、生き地獄。悪意と殺意は似て非なる者、反発する美学。鉢合わせれば相性悪く砕き合う。

噛み砕き、バラバラになるまで滅ぼし、崩し続ける。

「…かっ‥。」狂気の具現化の様だ。

畏れが有れば、哀しみも在るのだが…


〈刻まれろぉっ!!〉


「…うっ…あがぁっ‥!」〈終いだ〉

振り下ろされた終いの鎌は、肩から降ろされ腹に食い込みとどまった

「う…あっ、ぐはっ‥。」


〈どうしたぁ、え?

鎌に愛着でも湧いたか、掌なんて乗せちゃってよぉ。でも残念だ、そっちは斬れねぇ部分だぜ?〉

五月蝿い…奴め‥少し、黙れ‥。


「…壊死‥。」


〈なんだぁ‥カラダが…?〉


「……分からないか…終わりだ‥。」


〈…そうか、終わりか。

悪りぃな相棒、役目終わりだ‥後、頼んだぜ? ハッハハァ!〉


「…充分だ、礼は絶対言わないがな」

死神の右腕を壊した帝王は傷を負い再び地に堕ちた。現世の洗礼を受けて…


「ふぅ、これで漸く同等だろうか」


「…同等‥?…何処がだ‥。」


「分からない、目まで潰れたのか?」


「…もう、お前の武器はない‥。」

同等の筈が無い…お前と‥


「武器がない、嘘を付くな。

…奇術師に嘘は御法度だ、忘れるな」

嘘だけは許容しない、奇術師の理念。


「とまぁこれ程の短時間でハットからレイピアを取り出す事も可能だ」

俺の先に…いつも居るつもりか‥?


「最後のショーだ、死帝王…。」


俺意外の…全ての人々の上に‥


「…こい‥!」


お前は常に上に居る存在ではない…!

死を超え、生を超え、王を超え。

世界に君臨できる男で決して無い!


「…貫いてみろ、その剣で‥!」

この俺を貫いて…超えてみろ‥!!


「言われなくてもそうつもりだが?」


「…やれ、死神‥。」


鈍く輝く銅製のつるぎは、躊躇無く帝王の腹を貫き、傷付けた。


「…終わりだ、死神‥。」


「………」


「…犠牲死‥。」


〈フレイム・フルバースト〉


「終わりはお前だ」


「ふぅんっ!!」 「なんだと…?」


「熱い事してくれるじゃねぇかぁ!」

何故突然…寝ていた筈じゃないのか!?


「お前のソレは直前のダメージを返す。だがそれが、範囲に及ぶモノだったらどうだ?」


「それも己に密着し、距離の近いものだったらな。」

後ろからのハグは少々キツイだろうが、まぁ仕方の無いことだ。


「ファントムとやら、さらばだ!!」


「また会う日まで‥。」

あいつが、俺を超えた…?

嘘だ、そんな訳が無い。


「…そんな事、認めるかぁー‥!!」

言葉は、爆音に呑まれ小さく消えた。


「何か言ったか?

‥すまない、良く聞こえなかった。」


遺跡・C地区

勝者 ファントム・シャドウ


次なる5箇所目 遺跡・第E地区

此処にも一人、強大すぎる力を持つ者が存在した。


〈ボルテック・ビート〉


「ダメだ、まるで効かない。」


「自然系は無理みたいッスね〜。シノビニンジャ、あんたはどうよ?」


「ハットリ・サスケだ!

…全く駄目でござる」


「……」 「ワン!」


「四人掛かりでもダメかぁ〜!」


「後の二人は何もしていないぞ‥。」

数撃てば当たるの通用しない相手、寧ろそれが得意な者もいる。


「だいたいなんでアイツはあんな高いところで見下ろしてんのさ?」


「空に浮かんでいるでござるな。」


「トランスケーションってのはみんなああなワケ?」


「ああ、そうらしい。」


「…誰?」 「僕はサラ・リーマン」


「君達のウォッチに彼の情報を送っておいた、各自確認してくれ。」


『ピピッ…』


コズミック・アース 性別 男

惑星 トランジスタ出身

武器 宇宙力、隕石

参加理由 存在規模を理解させる為


「宇宙力‥。」


「奴は危険だ、一筋縄ではいかないぞ気をつけた方がいい。」


「アンタの方が怖いよ、なんか」


「ともかく感謝だ。

有難うサラ・リーマ…」


〈メテオ・ダーツ〉


「うぅっ!」


突如降り落ちた隕石が英雄を襲う。


「サラ・リーマン!」


「…ぐふっ、やられちまった。

‥‥後は、たのんだ……ぜっ…。」


「サラ・リーマン‥お前の事は忘れない…」


「誰なんだよ!

よく知らない奴に感情乗せないでくんない?」

 尊い犠牲を払い戦場に立つ。ヒーローは、如何なる状況でも闘い続けなければならない、酷なものだ。

「降りてこいコズミック・アース!

ここから無事で出れると思うなよ?」


「なんでそんな啖呵切れんの?

そんなに躍動する人物だったの彼は」


「許すまじ宇宙…覚悟せいっ!」


「お前も?

え、これオレがおかしいの?」


「……奴を失ったお前達は終わりだ」


「いや‥お前までなの、嘘だろ。」


「いいだろう、全力で力を行使してやる。

後悔するがいい!」


「来るぞ」 「‥あぁわかっている」


「え、あ!くんの?ホントに?」


「……」「ウワンッ!」


「行くぞ、皆の者!」「御意にっ!」


宇宙と地球の英雄達という強大な力のぶつかり合いが、今始まった。それは、味方の犠牲という小さくも大きなきっかけから生まれた悲惨な偶然の悪戯。気まぐれが壊し崩すものが、余りにも大きいその出来事に、あらがう術は、立ち向かい、争う事のみしか有りはしないようだ…。


〈ボルテック・ビート〉


「無駄な事を」


〈メテオ・ダーツ〉


雷を避けた、標的を絞って当たるのか

「ならば直接砕くまでよ。」


〈封魔一閃斬り〉


「ハットリ!」「石ころなど容易い」

ヒューズさんって空飛べたんだなぁ。

空に浮かんでる奴に向かって上に皆で飛んでるけど、あの小さいのと犬はどうやって宙に浮いてんだろ?


「……」 「ワン!」


「っていってる俺は水使ってるんだけど‥どうでもいいか、そんな事。」


「そんなものかトランスケーション」


「調子に乗るな、塵風情が。」


〈ホープレス・Herr・メテオ〉


「纏めて落ちろ」

隕石が無数に落ちてくる「どうする」


「キャイ〜ン!!」「ケルベロス!」

犬は自ら隕石を体に受け、悶え吠える。


「何をしている?」


「まぁ見ていろ、今に解る。」


『グルルル…ガラァァ‥』


「グガラァァアァ!!」


「何事でござるかぁっ!?」


「ケルベロスの力だ

受けたダメージを力に変える。」

完全に封じた、当てれば増大拒めば破壊。八方塞がりだ。


〈ブラック・ホール〉


「邪魔な者は、排除だ。」

腹に大きな黒い渦が…まさか‥。


「離れろケルベロス!」 「グガァ」


「遅い。」

力量などを度外視し、引力に身体を吸い込まれる。増長など、無意味だ。


〈代わり移身の術〉


「悪いが回収させて貰う」

忍にこそできる所業、咄嗟に隠れみを使い瞬間移動するという早業也。


「己で説明をするものでは無いな」


「済まん、助かった。」


「礼に及ばぬでござるよ」


「誰が助かったって?」


「なんだと…?」


「あああ、なんだありゃあぁ!?」


〈メテオ・インパクト〉


「隕石なのか…!」


「無茶苦茶でござる、あれ程の‥大き過ぎるでござるよ…。」


「潰れて消えろ、塵ども」

赫く燃え火照る規格外の大きさの石の塊。避けようも防ぎ用も最早皆無。そんな危機的状況に至っても、嫌に冷静な者は居るもので。

「……」 『抑制』


「何が起きた?」


「隕石が、止まっている。」


「お前が止めたのか?」


「…はっ、そうだ!

コイツモノを止められるんだわ!」


前にやられたの忘れてたわマジでさ。

「あとは俺にまかせなよ!」


〈マリンカッター〉


「よっ…と。」

薄ーく延ばした水の刃物でチョイチョイチョイ〜♪


「はいっ!

あっという間に崩れた石コロ〜🎶」

ま、こんなもん。

ざっと危機回避っしょ!


「少しばかり、甘く見ていたか?」


「あぁ…我々は、強いぞ。」


「その通り」甘く見て貰っては困る。


「…手加減はいらん。

そういう事か?」


〈プラネット・ディザスター〉

返答を聞かずしてアースの姿は変貌を遂げた。その姿は問い掛けを体現した、手加減をかけず、容赦の無い風貌であった。


「なんだよ、あのカッコ‥」


「背後に携え浮いている

丸い五つの‥惑星?」


「言葉通り…本気、のようだな。」


「グロォォォ!!」


「おっと、ワンちゃんがご機嫌ナナメみたいだけど…大丈夫?」

野性は星を砕く事もいとわない。躊躇なく懐に、本能で牙を剥く。


「グラアァァ!」 「…ふん。」


〈ジュピター・パウンド〉


「グラァッ!グオォオォォォ……」


「惑星を、腕に纏っただと‥?」

肥大化したケルベロスが一撃とは。


「あらぁ〜、ケルちゃん早々ダウンだわ。結構ヤバイんじゃないのアイツ」

随分落ちたなぁ‥生きてんの?


「木星は確か、最大の質量を誇る惑星の筈。‥さぞ重たいでござろうな」


「どうすればいい?

迂闊に近付けば奴のテリトリー」


「針のむしろとなるでござろうな」


「だからってじっとしてても無事な気がしないんだけど!?」


「どうした、八方塞がりか。」

言霊は返るか、情け無いな


「しかし遣り様も無いのが事実…。」


「いや、無くはない」


「ホントか、シノビの旦那ぁ!」


「左様。しかも上手くいけば、あの惑星群を破壊できるかも知れぬ。」

〝式神〟たちなら、恐らくは‥。


「そんな事ができるのか?」


「一か八か、掛けてみる価値は有る」

忍のハットリは手元に手頃な円陣の様な物を四つほど浮かべ巻物を乗せる。


「青龍、白虎、朱雀、玄武‥我が前に姿を現し、力を与え給え!」


〈はいよ。〉 「なんだ、赤い鳥?」


〈久し振りだな〉


〈そうでもないでしょ別に〉


《今何時? 飯まだ?


「青い龍に白い虎に緑の亀ぇ!?」


《ちょっと待てよ、緑の亀って一匹だけ普通じゃねぇか。》


ハットリ・サスケの持つ式神四体、各々が異なる力を宿す。故に持ち味も異なる、それほ性質も同じ事。しかしそれらに一律して言えるのは、例の鎖のサギといい今といい、喧しい者に好かれる傾向にあるようだ。


「御主ら、彼奴が見えるか?」 


《禍々しいな、何だあいつは》


《見えるぜ、バッチシね!》


《もうその質問お前の前の会話で終わってるよ?》


《あんな奴より飯はどこだよ。》


「あの周囲の惑星、壊せるか?」


《不可能ではない》


《イケルと思はなくは無い。》


《どっちなの、ソレ?》


《あー腹減った。》


「凸凹も良いところだが、平気か?」


「ヒューズとやら、他の者共も。

暫く離れていろ、奴らは派手にやらかすからな。見守るのが吉だ」


「信用していいんだな。ウォンタ、下がるぞ」

「任せていいのかよ‥。」

他に手立てが無いってときに、出てきたのがコレか?

「おいガキんちょ、お前も下がっとけ。アイツらが暴れんだってよ」


「……」

半信半疑、寧ろ全擬だが他に当てがない。一か八かと表したが、疑いをかけた時点で八である事は、皆が解っていた事だ。


《どうするよ?》


《バラバラでいいと思うよ》


《纏めて行けば逆効果だろうな》


《肉か魚か、どっちがいいか》


「なんでもいい、早く行くで候!」


《わかったよ、んじゃあ先行くぜ?》


「漸くか、待ちくたびれたぞ。」


《健気に待っててくれたのかぁ?

朱雀ってんだ、宜しくな。》

先手を撃つなら朱雀で妥当か、機動力、瞬発力共に申し分無い。良い幸先でござるよ。


「上で何が起きてんすかねぇ‥」


「心配するな、待てば済む」


「……」

ていうか、何であの宇宙野郎静かにじっとしてんだよ。

‥実は良いヤツなんじゃないの?


《惑星の一つを破壊すればいいんだったな〉


「惑星を破壊?

易々とさせると思うのか。」


《コロナ・ブレイズ〉

左の腕に火星の力を、紅き炎を!


〈奇遇だな、お前も焱を使うのか。

赫翼せきよくほむら

紅と赫、炎とほのおが燃昇る。


「同じ類をぶつけたところで何だ?」


〈同じ類?一緒にすんじゃねぇよ。

石っコロから垂れ流されてるヌルいもんじゃないんだよ、オレの火は。〉

式神は拙者ですら扱いきれない、だから出すのを拒んだのたが、一度出せば止まる事は無い。


「諸刃の剣も良い処だ」


ビシビシ…「腕にヒビが‥。」


〈思ったとおりだ、惑星が腕と同化してるなら、腕を狙えば崩れるよな。〉


「惑星が一つ消えたか、呆気無い」

ヒビの入った腕の紅は亀裂を更に生み、剥がれるように砕かれ粉と化す。


〈なんだよ、もう終わりか?〉


「思っていたより脆かったな。」

「‥次だ。」


《マーキュリー・エナジー〉

右腕が蒼色に。「水星でござるか」


〈変わってよ朱雀、次は僕だ。〉


〈オレはもう終わりか?

つまんねーなー!〉

ローテションチェンジ、朱雀の交代。


〈次は僕が相手だよ!

同じ色だから間違いないよね?〉


「さっさと来い。」


〈急かさないでよ、言われなくても!

碧息吹あおいぶきー桐雨〉

水流と水流、やはり似た者同士。しかし先程同様隔たりは大きく式神の威力が大いに勝る


ビキビキ…「またか‥。」


〈やった、二つ目破壊だね!〉


「ふん、次だ。」


〈サターン・ノーブル〉


「…おかしい‥。」

惑星を壊されても物ともせず、寧ろ堂々と振る舞っている。壊される事は想定内なのか?


「奴め、もしや…。」


〈我が相手をしよう〉


〈オッケー、任せたよ!〉

交代、白虎。


「自己紹介はいらん、始めるぞ。」

左腕は鈍い色に変色し、腕を囲むように輪を宿している。これは、土星の力だ。白虎の方へ手を伸ばし、腕と輪の間から、氷のつぶてを無数に飛ばし、先手を放つ。


〈霰か、磔磔真似事が好きだな。

白爪はくせんー氷河断絶〉

氷の爪撃だ、霰如きが抗えると思うな


「軽く考えすぎだ。」

パキパキ…

霰は氷の爪痕に当たると小惑星の欠片となり、吸着する。爪撃は欠片を纏いつつ白虎の元へ戻り、還される。


〈我が爪痕が…!〉

「お前の元へ戻ったときそいつは誘爆する」


〈真似事だけでは無いのか…〉


「壊し損ねたな、けだもの」

土星のは氷の粒や小惑星でできている。彼奴のそれは物質を吸収し、爆発まで引き起こすでごさるか。


「だが残念だったな。

これしきでは式神は超えられん」


「‥次はどいつだ?」


〈舐められたものだ、どうもな。〉


「生きていたのか」


〈たりめーよー、ワシが付いてたんだからよ。‥あー腹減った。〉


「亀か?」


〈亀じゃねぇ玄武様だ、覚えとけ!〉


「知った事か、纏めて消えろ。」


〈こんな馬鹿と一緒は御免だ〉


〈なんだとぉ白虎!

誰のお陰で生きてると思って…〉


《来るぞ。〉


「既に遅いわ」

ビックバンに呑まれて爆ぜろ。


「吸収せずともできるのか?」


〈またあの爆発か、しつこいぜ。

緑背甲りょくはいこうー羅生門

廻ってオジャンだ。〉

惑星の欠片と共に迫り来る爆撃を、回転する甲羅を用い乱して分散させる。攻撃性こそ皆無だが、式神唯一の絶対防御である。


〈不恰好だな〉 〈うるせぇよ虎公〉


「防御態か、邪魔だ。

少し質量を上げるとするか‥」


〈何したって無駄だと思うぜ?〉


質量を上げる?

「何をするつもりでござろう。」


「ジュピター、我が左腕のリングへ」

惑星を誘導する一声。素直な木星は土星の環の元へ揺れ動く。


シュン‥

「糧となりて讃美を奏でろ」

頷くように身を預け、環を受け入れる


「木星が、環に切られている。」


《成る程そういう事か。

虎公、俺から離れんなよ!?〉


「せいぜいくらえ、存分にな。」


〈サターン・ビッグパウンド〉


木星を媒介に爆撃を創ったのか!


〈いつもより多く廻してやるよぉ!〉


「しぶとく耐えるか、持たんぞ。」


〈勝手に決めんな!

ワシを誰だと…あれ、多いななんか〉


「しっかりするでござる、玄武!」


〈いわれなくてもわかって‥いや、待てよ。…これちょっと‥無理‥だな〉


「終わりだな。」


「玄武!」


〈すま‥ねぇ…耐えられ、ね…〉


「落ちたか、所詮は亀だな。」


「玄武…」


〈敵の数を見誤っていないか?〉


「何‥」

式神玄武を落とした事で目を外してしたもう一つの式神が、額に氷のかくを穿ち惑星の環を睨んでいた。


〈ー白角ー牙竜点睛〉


「白虎、壊してしまえ。全て」


《惑星など、砕けてしまえば只の鉱物だ。

当然環もな〉


「油断した‥だが好都合。」

獣の角如きが土星の環を砕くとはな…


〈ヴィーナス・ロー・デイ〉


「ご苦労な事だな。」

右手に金色の惑星が宿った。


「金星か…!」


「ふんっ!」


〈ぐあっ‥しまった〉


「背中が空いているぞ?」

真上から背へ渾身の肘鉄、木星程の質量は無くとも充分な威力。しかし衝撃は残らない。


〈痛みは在る、だがおかしい。軀が落ちずに、緩やかに浮き続けている〉


「動きが遅いか。金星は自転が他より鈍くてな、触れた者の動きにさえ異常をきたしてしまうようだ‥。」


〈自由が利かん…〉


「安心しろ、初めだけだ。あとはずっと、此方のペースで事は進む」

そこからは、正に宇宙の惨劇だった。

そらに浮いた飛行士に突如流星群が落ちるように、重力に抱かれた虎は強く撃たれ苦悶の表情で嘆く。


〈重たい‥そして遅い。〉


「最後にお前の自転を還してやる」

右は金の重力、左で打てば立ち戻る。


「ふんっ!」


〈くお…〉


「白虎」


助けに参らねば!

「ニンッ!」


「何処へいく?」


〈なんで飛び出すのさハットリ!〉


〈俺達の事忘れてるだろ?〉


「冷静さを欠いたか、間抜けめ。」

間抜け、久しくいわれてなかったな。

昔は良く言われたものだ、懐かしいな


「悪いな、御主の事を相手取る暇など無いのだ。白虎を救いに来たのでな」

突発的に見えたハットリの行動は、意を決めた、確実なる本心でのモノだった。危険を顧みず、周囲を注視しない姿はやはり〝間抜け〟に映るだろうか


「そんな事より御主が心配だ」


「何、頭が遂に砕けたか?」


「何故か、それは心配するだろう。

‥自転も理性も持たぬ者から、一方的に攻め立てられていたらな」


「グガラアァァ…!!」「‥お前。」

式神程の格は無い、しかし縛られる程の規制を持たない。


「白虎!」


〈ふん、遅いわ。〉


「少々手間取ってな、悪いでござる」


〈…いつからそこにいた?〉


「お前が勢い良く下に落とされたとき、大きな影が奴の背後に回るのがみえた。」


〈気付かないものでもあるまい。〉


「通常なら確実に解るものだが、気付かぬ様子であった。おそらくだが奴は惑星の力を付与している間、感覚が鈍るのだろう。」


〈一つ何かを惑星で昇げれば他の力が副作用的に弱まるのか‥。〉


「そんなところだ」

後は頼んだぞ、ケルベロス。


「まだくたばっていなかったか、犬」


吠え猛る獣、本来の武器は未だ目立たない鋭い爪も、唸る雄叫びも余興に過ぎず、真の持ち味は。

「ガルアァァ!」


ミシミシ… 「狂獣め。」

咄嗟に腕で受け取ったが、圧迫する暴威は軋む。噛み付きという安直な衝撃だが、それが最大の牙を要するものならば話が変わる。砕かれるのみなら運が良い。


「グルウゥゥ…」


「金星を砕きたいか?」


〈地上か、遠くなったな。〉


「無事でござるよ」


「ハットリ、上はどうなってる?」


「ケルベロスが応戦しておる。」


「ケルちゃんが?

本当だ、いねぇ、ここにいたのに!」


「惑星は?」


「四つは壊した、あと一つはまだわからぬが、しかし…」


「四つもこわしたの!やるじゃん!

忍者ってスゲェんだなおい♪」


「…まぁ、程々にござる。」

気のせいであれば良いでござるがな‥


〈なぁ〜朱雀、僕達どうしてりゃいいの?〉


〈知らねぇ。

このままでいいんじゃねぇか?〉


〈サスケも白虎も下降りちゃったし、

やる事無いよねぇ‥加勢してみる?〉


《やめとけって、見たトコあのけむくじゃら理性が無いからよ、巻き込まれて終わりだ〉


〈だ〜よねぇ‥ここでじっとしてよ〉


「グルォォ!」「剥がれたか‥。」

腕を裂かれたのは特典か?


「痛っ!何、石…?」


「これは‥」「惑星の欠片!」


「ケルベロスがやりおったのか。」


〈あんな獣、敵に廻したくはないものだ。〉

味方でさぞ良かったと、胸を撫で下ろすもう一匹の獣。


「グルハアァァ‥」


「ご機嫌のようだな

壊れた事が嬉しいか?」


「グガアァァ!!」「そうか…」


「同感だ。」


〈ブラック・ホール〉


腹に黒い渦が広がり空間の吸引を始める。


「なんだ!?」


「見ろアレ、さっきの黒いヤツだ!」


「だがおかしい、先程よりも随分デカイぞ。」


「成る程、そういう事でござるか…」

後を引いていた疑念がここで回収された。


「奴は最初からそれが目的だったでござるよ、己の中の惑星を敢えて破壊させてから黒い渦の幅を広げた。」


「……」


「思う壺だったという事か」


〈……ハットリよ、下がっていろ。〉


「白虎?」


《我等式神でアレを抑えてみる、起きろ玄武〉


〈‥あ?呼んだかぁ?〉

傍に寝ていた玄武を無理矢理引っ叩き起こすと、白虎は空へと上がっていく


「ウォンタ、我々も行くぞ。」


「はぁ?

何言ってんだよヒューズさん!」


「いいからついてこい。」


〈ライジング・ゴッドネイジ〉


「嘘だろ、勘弁してくれよぉ!」


〈マリンドラゴンリバイア〉


エレメンターズの雷神、そして海龍を模した形態技が加勢へと加わる。


「別次元へ消えろ先ずはお前だ犬公」

宇宙規模の引力は空間を呑み込み、無に帰す力。人畜生が踠き抗おうが意味は無い。


「グオォォォ!!」


〈いつまで暴れてんだよ。〉


〈やめといた方がいいよ〜?〉


「お前達も同じだ、消え去れ。」


〈わかったよ、炙られたいんだな?〉


〈珍しい〜、僕もやっちゃお!〉


〈邪魔だ毛むくじゃら。〉


黒い渦の穴に赫い業火、蒼い衝撃を流し込む


「お前等如きの質量では、到底足りん、わきまえろ‥身の程をな。」


〈わきまえろったって〉


〈仮にも神だからね僕達〉


神も届かぬ力、わきまえようがない。


〈朱雀、青龍。〉


〈あ、白虎。玄武さん生きてたんだ〉


〈馬鹿言ってんなよ!生きてるわい〉


〈嬉しい再会悪いけどよ、コイツ神でも動かねぇみたいだぞ?〉


〈動かしてみせるわ、アレでな。〉


白虎のいうアレとは何か、それは今の状況、皆がそろっているからこそ成り立つものだ。


〈アレをやんのか、成る程な〉


〈凄いからねーアレは。〉


〈しんどいぜぇ、また腹が減る〉


〈いくぞ、構えろ!〉


角を定めひし形の陣形を結ぶ。そうする事で四匹の力は中心で交わり集まる


〈赫き鳳翼〉〈蒼き咆哮〉

〈翠の甲玉〉〈白の爪牙〉


【これら一つに交わりし刻

 大いなる領域を司らん。】


重なる彩々、交わりて放たれん


〈四式合塵ー乱旋凱突破ししきごうじんらんせんがいとっぱー〉


「ぐおぉ。」


火炎水流氷竜巻…それら全てが同時に腹の渦へ撃ち当たる。式神達の威吹きが呑み込まれ、震え響く。


〈嘘でしょ、これでも効かないの!〉


〈上手い事全部吸われてんなぁ。〉


〈おい待てよ、ワシ達も危うくないかこれ?〉


「中々の質量だ

しかし足りんな。お前達も啜ってやる」


〈…不味いな。〉


「消えろ、獣畜生共!」


〈うおっ‥〉 〈吸われるぅ!〉


〈もう、無理ぃ!〉


四式の最大威力を喰らい、本体迄も呑み込まんと朱雀、青龍、玄武を腹の中へ。


〈やってくれる‥餓鬼が。〉


「お前も消えろ、白き虎よ」

エレメンターズは現状の危機を察していた。


「上でスゲェ暴れてんじゃん!

なんか引力強くなってね?」


「…いや、逆だ。」 「逆って何?」


「上の式神達は、諦めた方がいい。

彼らを消す為に一時的に高めたのみ、通常時の引力は低下している。」


「それってどういう事っスかね‥?」


「定かでは無いが、奴の吸収力には限界がある。技を連続して限界レベルまではち切れる程腹に詰め込めば、穴は塞がる…筈だ。」


「ヒューズさん、そこまで解ってんスか!」


「憶測ではあるがな。」


「成る程、良い事を聞いた」


「シノビ!?

お前下にいたんじゃねぇの?」

忍ぶ者、居場所など把握させる訳が無い。神出鬼没、現れは消える。


「先に参るぞ。

彼奴は拙者が塞き止める」


「あっおい!」「我々も急ぐぞ。」

忍を追って行き着く先は皆同じ、黒い元凶と式神の元へ。


〈…やはり、独りではキツイか。〉


「さらばだケダモノ、消え去れ」

力尽き取り込まれる最後の式神白虎。

取り込んで間もなく、意図しない異物を取り込む事になる。


〈手裏剣乱舞・分身絵巻〉


「何の真似だ?」

「拙者の持つ有りっ丈の手裏剣を放ってみたでござるよ。」


「くだらん、小細工に過ぎん」


「…だろうな。ではここからは、五匹目の式神と対峙させるとしよう!」


「五匹、今度はハッタリか?」


「ハッタリではない、ハットリでござる。そして此奴は…」


〈グラアァァッ!!〉


「ケルベロスと申す。」


「しつこい獣が…!」

引力を上げる、次こそ消滅きえ


〈ブラック・ホール〉


「ケルベロス。迷わず向かえ、たとえ消滅しようとも、拙者も共に有る。」


「ガルゥゥ……ワン!」


「参るぞ!」


〈赤蝦蟇〉 〈青蝦蟇〉

〈鈍蝦蟇〉 《黄蝦蟇〉


焰水風雷えんすいふうらいの息吹きを纏いて、災を掌握せよ!」

式神とは異なる四種の蝦蟇が、渦に衝撃を轟かせる。


「小賢しいわ、この程度‥」


「どこまでがこの程度か?」

蛙の次は猛犬の暴威。休まる事無く渦を廻す。


「態々向かってくるとは、馬鹿も良い処だ。」


「悪いが初めから、狙いは渦では無い。」


「グオォォ‥」

ケルベロスの分厚い腕が肩を掴む。


「渦の引力を下げる方法、単純でござる。動かす張本人を叩く事!」


「グラアァァ!!」

鋭く穿つ禍々しい牙が、渦を動かす男の首筋を刺す。


「があぁぁっ!!」

痛みに呼応して引力は急激に高まり、突き刺す牙を無理矢理に剥がした。


「ケルベロス!」


「消えろ化け物!!」


「グオ…ワ‥ワオーン!」


「ケルベロス…一人にはせぬ。」

万策尽きた。いや、やりきったというべきか。


「到着っと!

さぁて…おい、シノビ!」


「後は頼んだぞ、自然の者共。」

エレメンターズが着いた頃には渦に呑まれた最中であった。犬も忍も宇宙の彼方、知り得もしない塵の向こうへ。


「まだ残っていたか、面倒だな」


「悪いけど、俺らで最後だわ。」


「お前もガタが近付いている筈だ」


「甘く見るな、お前達を消す程度の力は余り有る程持ち合わせている。」

強がりか、はたまた隠し種でも有るのだろうか。…どちらにせよ


「一撃で決める!」


「俺のも含めて二撃でな!」


〈ブラック・ホール〉


「来るぞ!」

迎撃の合図だと思っていた。がしかし、ヒューズはウォンタを跳ね除けるように、一人で渦に撃を放つ。


〈ライジング・ゴッド・ビート〉


「ヒューズさん!?

何してんだよ!」


「…ウォンタ、見たところアイツは限界だ。電撃が完全に吸い込まれたら最大の一撃を放て」


「ヒューズさんごとぶっ倒せってか?

本気で言ってんのかアンタ!」


「誰かが勝者にならなければ、奴が勝ち上がる事になる。…お前が勝って、奴を倒し、レジェンドに挑め。」


「マジかよ、え〜…。」

容赦なく刻はあとずれ、ヒューズの電撃は消える。


「はぁ…はぁ‥!

お前も終わりだ!!」


「急げウォンタ、やるのだ!」


「わ、わかったよぉ!

やりゃあいいんだろぉ!?」


〈マリンラグナロク〉


リバイアバージョンだ、一番どデカイぜ。ヒューズさんでも耐えんの無理だな‥多分。


「み、味方ごとだと…?

こんな水、取り込んでくれる!」


「させてたまるか‥。」


〈パラライズ・ブーム〉


電撃を疾らせ帯電させる持続技。ヒューズはあくまで水で押し出し自らを取り込ませるのが目的、傘が増しても巻き込むつもりはないのだ。


「終わりか…」 「ヒューズさん!」


「奴にはもう物質を吸収する力は無い、とどめをさせ。」

ヒューズを取り込みそれで最後、思い通りの算段だ。


「わかった、いくぜ!」


〈マリンラグナロ…〉「させるか!」


〈ホープレス・Herr・メテオ〉


「隕石…あがぁっ!」

無数の隕石を落とされとどめのタイミングを阻害され、ウォンタは降下を強いられる。


「余計な事‥すんなっ!」


〈マリンツインスピア〉


「ぐあぁっ!」

二本とも当たったか?

水の槍だ、痛てぇだろ!


「何故避けられなかった!?

身体が上手く動かん。」

帯電した電撃に自由を奪われた事で、身体の操作に誤用が生じた。


「許さねぇ!

潰れろ、糞塵野郎がっ!!」


〈メテオ・インパクト〉


「嘘だろ…!?

ここに来てそんなんアリかよ。」

空に浮かび落ちる様で、見える景色は大きな石が、火の粉を纏って落ちてくる。この世の終わりと似た景色。


「今度こそ遂に終わりだ、どう足掻こうと逃げ場は無い。ましてや一人ではなぁ!」


終わりかよ、こんな簡単にしまいかよ


「ヒューズさん、約束守れねぇや。」


一人では確実に抗えない。水を操るだけのヒーローには到底無理だ。

しかし両者共に忘れていた。

もう一人英雄が、己が一人じゃない事を…。


『ウォンタ様、肩を少しお借りします。よろしいですね?』


肩‥?

いきなりなんだよ。


「……」


『ご苦労様です。‥あとは我々が』


「お前ら…!」

肩を踏み上げ跳躍した矮小な少年。

一言も発しない彼の腕から鳴る声が、全てを終わらせた。


『拒絶』


大きな石の塊は二つに裂け、二人を避ける形で両断された。

「なっ…割れた‥どういう…?」


帯電にやられ槍に突かれたコズミック・アースは晴れない疑問を口にして地に墜ちた。


「‥ガキんちょ。

お前、あんなデカい隕石まで…。」


「……」


『取り敢えず、地上へ戻りましょう』


「‥あぁ、そうだな。」


第E地区

勝者 アクアのウォンタ、ムーロン


全ての地区の勝者が決定した。

選ばれし英雄達は

パワー・スター 通称ゲイティ

エレメンターズ 光明のガディウス

死神 ファントム・シャドウ

同じくエレメンターズ

アクアのウォンタ

そして拒否の英雄 無口のムーロン

以上の六名がレジェンドとの戦闘参加権を手にした。


『バトルは終了しました』


『転送』





































































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