第7話 364年目、変わらずの一日

食事を終えトレーを元の場所に戻し、地面に置かれた鉛筆を掴むとカレンダーへ視線を傾け丸をつける。カレンダーを貰ってから364年繰り返す動きだ。カレンダーがないと、今がいつで、何日なのか解らないからな。それにカレンダーを見ると今の時代は何が流行ってるのか解ったりする。


最初に貰ったカレンダーはシンプルだったが、看守が代替わりする度に貰えるカレンダーも変化があって楽しみを見出だしたりもしていた。


「今はこんなアニメやってんだなァ」


キラッキラした可愛い女の子が沢山出てるアニメっぽい、イケメンなのもいるがそのイケメンキャラの顔が神宮司をアニメ顔にしたらの顔面偏差値じゃね?な雰囲気だ。といっても、神宮司の顔も声も今は朧気だったりするが。


364年経ったが、やる事は対して変わらずの今の現状は、最初の頃の快適さに戻ってはいる。364年生きてると、この狭い独房中でもそれなりのハプニングも起こるもんだしな。


繰り返し繰り返し、独房の中で考える事は自分の罪について。神宮司の顔は朧気だが、言葉は一字一句覚えている、俺を投獄させた相手の言葉だし。


「お前に禁固365年を言い渡す!…神宮司もまさか俺が364年生きるとは思わなかったよな、俺もまさか生きるとは思わなかったわ、いや、ありえないからね、どうなってんの俺、ほんとに」


無意識に体育座りになって考え出した。何だかんだで後、一年。俺は独房から出れる筈だ、禁固365年だしな。けど、本当に出れるのかが疑問に感じる、50年前に一度開かれた重々しい立派なドア、久し振りに会った俺以外の人、俺を見て驚愕に開かれた目、ドアは閉じられそれから一度も開かれてはいない。


まァ、化け物を見たような目だったし、驚かれたのは確かだった。それでもちゃんと飯は出る、看守はドア前にはいるようだ。外で起こった事は俺には解らねェが、特殊な人間認識になってるだろう予想はつく。だから禁固365年と言われても出れるか、出れないかは未だに解らないのが俺の考えだけどね。


「一年、あっという間だろうがそれまで出来るだけの事はしとこう、うん。切り札はあるしね、俺」


そう、俺には切り札がある。出来れば使いたくない、一番嫌な切り札だ。頭に浮かんだ当時の事を思い出し、ぶるぶると頭を左右に振って考えを散らす。万が一、そう万が一の切り札、使わないように祈るばかりだ。


顔を上げ鉄格子越しの空へと目線を向ける、傾きから昼間くらいだと考える。結構考えてたなァって呑気に思ったら食事のトレーが地面に置かれた。毛布を退かし、鎖の音をさせて食事の置かれた場所へ歩く。


今日の昼も変わらずのパンとスープ、千切っては浸けてもくもくと食事をした。

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