第3話 考える罪よりトイレ

「俺は今、重大な直面に期している」


きっと、盛大な悪役っぽい顔を見せているに違いない俺。こちらと死活問題、確かに禁固365年だが生きてる限りは必要だ。


腹を満たし、さて、罪について考えようと思ったが、ちょっと待てよ?え?待って待って、と脳内にリフレイン。


「トイレの場所、え、何処だ?」


立ち上がり毛布の場所まで移動しようとした矢先に直面した重大な案件。今はまだ大丈夫だが、いつか来るトイレへの恋しさに尋常じゃない不安を覚える。


周りは暗く見辛いが、トイレがある様には見えない。風呂はないにしろ、トイレ完備は必要だろ、いや、風呂も欲しいが。


「生まれてこのかた、捕まった事も独房入るのも初めてなんだぞ、トイレや風呂がどうなってるのか知らないんだが、どうなってるもんなんだ?」


罪より今の現状をどうするかが、一番の問題だ。ふと、ドアへと目線を向ける。食事を出してくるなら、ドアの前に人が一人くらい居るだろうと予想しドアへと近付いた。


「す、すみません、ちょっと、あの」


遠慮がちにドアを叩き声を掛けてみるが、シーンとした侭で反応がない。此処に来てコミュ症を恨んだのは初めてかも知れない。


「す、すみません、誰か…あの、すみません」


多少強めに叩いてみるが、やはり反応はなし。焦る、俺は焦る。トイレ、と考えていたら本当にトイレに行きたくなって来た。これはヤバい、これから一生過ごすであろう場所にトイレが無くまさか独房の中がトイレ兼任なんざ……っ!


「ちょ、まじでヤバいから!誰かいねーの!?トイレ!トイレ!トイレ!」


遠慮がちに叩いていたドアに拳を叩き付け、声を上げて必死さをアピール。捕まった時の反応よりきっと必死さは伝わってる筈だ。


すると、ドア下の小さなドアが開閉し、文字の書かれた紙を置かれる。一瞬見えた手は多分女の子っぽい。いや、それより紙に書かれた文字が気になる。


ドアを叩いていた手を、下に置かれた紙に伸ばして掴んだ。


「トレーは元の場所に置いて下さい……って、トイレの事じゃねーのかよ!」


思わず突っ込んじまったが、紙に書かれた文字を見れば突っ込まずには入られない。あれだけ必死アピールしたにも関わらず食事トレーの事かよ!


しかし、律儀にトレーを元の場所に置く俺。見た目と性格は違うからね、俺は。人見知りの真面目人間だし、顔は悪役顔だが。


トレーを置いてから再度ドアを叩き、トイレについて、ドアを挟んで居るであろう相手に声をかけた。多少、落ち着いたがトイレに行きたい欲求は治まらず、まだある。


すると、再び小さなドアが開閉し、トレーを取ってからトレーと入れ替わる様に紙が置かれた。先程と同じ動きで紙を取って読み上げる。


「ボタンあり、トイレと風呂と開くボタン…」


紙から視線を上げ、只でさえ鋭い目を鋭く細目にし周りの壁を見渡すと、赤と青、黄のボタンがある。近付きよーく見ると赤のボタンの横にトイレ、青のボタン横には風呂と書かれていた。黄のボタン横には……ん?何も書いてねーけど、今はいい、トイレだ、トイレ!


俺は赤のボタンを押した。押した途端、壁がスライドし、目に入るのは輝く白き便器。これ程までにトイレを恋しがったのはあったか、いや、ない。


あー、トイレがあって助かった。

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