水曜日の彼女 〜エピローグ〜
「あ、皐月君」
「ん?」
「雨降ってきたよ」
鈴羽にプロポーズをして2人で甘い時間を過ごした後、僕たちはリビングのソファーで何げなしに外を眺めていた。
「雨の日ってさ、普通ならあまり好きじゃないんだろうね」
「そうね、ジメジメするし。それがどうかしたの?」
「うん、僕も元々雨の日って好きじゃなかったんだけど今は案外そうでもないんだ」
「へ〜私もよ」
「特に・・・水曜日に降る雨はね」
窓についた水滴が静かに線を引いて流れていく。
「前にも言っけど、あの日雨が降ってなかったらって思うと怖くなるよ」
「ふふっそれでもきっと、私と皐月君は出逢って恋をして・・・こうなったと思うわよ」
薬指に光る指輪を見せて鈴羽はそう言って笑う。
「あれ?そういえば皐月君の指輪はないの?」
「ああ、やっぱり気づくよね」
「それはもちろん。ねぇどうして?」
「うん、実はね・・・」
本来なら結婚指輪として鈴羽と僕の指輪を買うつもりだった。
ところが僕の指にあうサイズがなかったため注文することにしたんだけど人気ブランドだけあって間に合わなかったという訳なんだ。
何でもデザイナーさんはちょっと変わった人らしく気まぐれでもうしばらく時間がかかりそうだと連絡があった。
「ええ〜っ?じゃあまだしばらくは私だけなの?」
「う〜ん、ごめんね」
「もぅっ」
鈴羽はぷくっと頬を膨らませ、すぐに笑いだした。
「最後の最後に締まらないプロポーズになったわね」
「あはは、そうだね」
「皐月君の指輪が出来たら・・・改めてもう一度・・・ね?」
「う、うん。そう何回もするものじゃないと思うんだけど・・・」
「え〜っもう一回言ってよ〜」
そう言って笑いじゃれあい、窓に映る影は重なりひとつに溶け合い。
微かに聞こえる甘い吐息は静かに降る雨の音と混ざり甘美な響きとなっていった。
「鈴羽〜もう朝だよ〜起きないと遅刻するよ〜」
僕はキッチンで朝ご飯を作りながらまだベッドから出てこない鈴羽に声をかける。
「う、う〜ん、あと5分・・・」
「え〜そう言ってからもう30分だよ?ほらほら起きて」
「や〜だ〜寒い〜」
「ほんと起きれないひとだね?鈴羽は」
小さくなって膝を抱えて悪あがきをする鈴羽を抱き寄せてあちこちにキスをする。
「あ、あん、もぅ・・・ん、んん」
「起きた?」
「んん〜もうっ!」
ベッドの上で僕に抱きついて唇を重ねて甘える鈴羽は今日もいつも通り可愛い。
プロポーズからしばらくが経ち僕ももうすぐ大学が始まる。
鈴羽も後輩の指導や何やらで忙しい日々を過ごしている。
それでもこうして朝2人の時間を大切にしたいと思うし夜はゆっくりと2人で過ごしたいと思う。
朝ご飯を食べて仕事に行く格好になった鈴羽を玄関まで見送る。
毎日の日課になった軽い抱擁とちょっと長めの甘い口づけ。
「いってらっしゃい」
「うん、いってきます!」
輝くような笑顔で手を振る鈴羽を見送る。
その振る手、薬指にはキラッと光る指輪。
ベランダに出ると駐車場で僕を見上げてまた手を振っている鈴羽の姿。
「遅刻するよ〜」
僕の声に慌てて愛車に乗って轟音を響かせて走っていく。
「ふふっほんと可愛いなぁ鈴羽は」
車が見えなくなりリビングに戻った僕は壁に掛けられた写真を見て微笑む。
写真の中には僕と鈴羽。
あのプロポーズの夜に撮った一枚。
そんな写真の中で最高の笑顔を見せる鈴羽を見て改めて僕は思う。
この笑顔がこの先もずっと僕の隣にありますようにと。
そんな彼女をずっと大切にすると。
想いを噛み締めて呟く。
「鈴羽、愛してるよ」
〜〜Fine〜〜
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