第27話 水曜日の晩餐会 前編



「うわぁ!すごいね!皐月君!」

「うん。ちょっと想像以上だよ」

僕たちは門崎会長に案内されて客船の中に入ったのだけど、あまりの豪華さに足が止まってしまった。


僕は今まで船といえば釣り船かフェリーくらいしか乗ったことがなかったのでそんなイメージをしていたんだけど。


タラップを上がったその先はカーペットが敷いてありまるでホテルの廊下のようになっていた。

客船の扉もしかり。

門崎会長に促されて進んだ先は、大ホールになっていて、ここが船の中だと忘れてしまうような空間だった。


「これって会長さんの船なんですよね?」

「そうじゃな、まぁ強いて言うなら会社の船かのぅ」

門崎会長は、これでもかというくらいに胸を張って答えてくれた。


大ホールで晩餐会が行われるらしくテーブルや椅子を並べている人たちが忙しなく働いている。

なんでも着水式を兼ねてパーティをするそうだ。

喜多嶋社長と桂木社長は自分にあてがわれた部屋に行っているので今は門崎会長と僕らの3人で内部を見てまわっている。


「和先生にも出席してもらおうと訪ねたんじゃが、あっさりフラれてしもうての」

「母さんも忙しいですから」

「そうじゃの、まぁそのかわりにお主らに会えたからよしとしておくかの」

門崎会長は、ふぉふぉふぉと笑いながら僕らをとある部屋に案内する。


「あ〜ワシじゃ、主任はおるかの?」

案内された部屋はどうやら衣装部屋のようで、ドレスやタキシードが所狭しと並んでいた。


「門崎会長!仰って頂ければお迎えに上がりましたのに」

「気にせんでええぞ、ちょいと急な頼みじゃからな」

奥から出てきたのは60歳くらいの上品そうな女性だった。

門崎会長は、僕らを見て何やら悪そうな笑いを浮かべて、その女性にとんでもないことを言いだした。


「今日のパーティにこの2人も参加させるゆえ、急ぎであつらえてやってくれんかの」

「あら、会長のお孫さんですか?」

「いいや、和先生の息子と結婚相手のワシの秘書じゃ」

「和先生の息子さん?と結婚相手?」

門崎会長とその女性は、完全に僕らをほっておいて話を進めている。


「あの〜僕らがパーティに参加するって?どういうことでしょうか?」

鈴羽はため息をついて諦めた顔をしているので僕が聞いてみる。


「せっかくじゃしタダ飯でも食うて帰るといいじゃろ?堅苦しく考えんでもええわい」

「いや、でも・・・」

僕が言い淀んでいると門崎会長は、僕の首に手を回して僕だけに聞こえるように言う。

「それにじゃ、九条君のドレス姿を見てみたいと思わんか?ん?」

「鈴羽の・・・ドレス姿」

「そうじゃ、一生もんじゃと思わんか?」

「門崎会長!是非お願い致します!」

「まかせておけい!」

門崎会長が突き出した拳に僕も拳を合わせる。

ちょっと男の友情が芽生えた瞬間だった。


「ねぇ、皐月君?会長と何話したの?なんだか意気投合したみたいだけど」

「えっまぁその・・・ははは」


結局その後僕たちはそれぞれ別室に分かれて服を着させてもらうことになった。


僕はどちらかというと洋服より和服の方が好きなので聞いてみたところ、和服も揃えてあるらしく実家で着ていたような和服にすることにした。


久しぶりに和服を着たんだけど、やっぱり落ち着く。

華道は嫌いではなかったので中学の頃は家では大体がこんな格好だった。


「おお!なんじゃ!またえらい似合うとるではないか!」

「門崎会長。そうですか?中学の頃はいつも和服でしたから」

「その歳で中々そんな着こなしは出来んぞ。こいつはたまげたわい」

「ははは、そんなに褒めないでくださいよ、門崎会長も和服似合ってますよ」

そんな話をしながら僕と門崎会長はパーティの行われるホールに向かっていく。


「鈴羽はまだですか?」

「九条君か?九条君ならもう来よるじゃろ」


「皐月君?」

僕が門崎会長に鈴羽のことを尋ねていると後ろから鈴羽に声をかけられて振り向く。


「鈴羽・・・」


鈴羽は、淡いブルーのパーティドレスに身を包んでいた。

両肩の出たちょっとセクシーなドレスで胸元もザックリとスリットが入っていて目のやり場に困る、髪はアップにして化粧もいつもより濃い目にしてある。


「あ・・・綺麗だよ。鈴羽」

「皐月君も・・・カッコいいよ」

2人してお互いを直視出来ずに真っ赤になってしまった。


「ほれほれ、照れとらんでしっかりエスコートせんかい!」

「あっはい!・・・鈴羽」

門崎会長に促されて僕は鈴羽に腕を差し出すとそっと手を回してくれる鈴羽。

「うふふふ」


「よし、お主らはワシについてくればええからの。ぼちぼち行くとしようかの」

門崎会長は僕らについてくるように言い、スタスタとホールに向かって歩いていった。


「じゃあ行こうか」

「ええ」

僕と鈴羽は門崎会長に続いてホールに向かった。



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