第26話 水曜日のデートは船の中?


「まさか、のどか先生の御子息とは思ってもみませんでしたな」

「全く。このようなところで次期宗家にお会い出来るとは」

喜多嶋社長と桂木社長は2人してヒソヒソと話している。


「喜多嶋様、桂木様。ご無沙汰しております。当社の会長が失礼な御紹介の仕方を致しまして申し訳御座いません」

立ち直った鈴羽が2人に頭を下げている。

確かに大企業の社長さんを紹介するのにあれはないよな。


「ああ、いやいや九条さん。構いませんよ、こいつの悪人ヅラは有名ですから」

「九条さん、頭を上げて下さい。この男の顔なら仕方ないですから」

2人が同時に同じようなことを鈴羽に言う。


「ああ?」

「はあ?」

2人は僕たちそっちのけで睨みあってしまった。


「こら!お前たち!そんなんじゃからいかんと何遍言うたらわかるんじゃ!」

「いやしかしコイツがですな」

「お前こそ!」

「いいかげんにせんか!馬鹿者どもがっ!」

「「はい・・・」」

2人は門崎会長に怒られてシュンとしてしまった。


「まったくいつまでたっても子供じゃわい」

「そもそも会長の紹介の仕方が原因です!反省して下さい!」

「おおぅ、九条君?ワシ今日は休みじゃから、もうちぃっと優しく出来んかのう?」

「私も休みです!せっかくの皐月君とのデートなのに・・・」

門崎会長さんも鈴羽には形無しなんだなぁ。


「で、会長はこのような場所でどうされたのですか?喜多嶋様と桂木様までご一緒で」

「なんじゃ?九条君は知らんと来たのか?」

「何をです?」

「あれじゃあれ」

門崎会長は停泊している豪華客船を指差している。

「あの船が何か?」

「何かも何も、あれはワシの船じゃぞ。先日の会議でもちらっと言うたじゃろ?」

「は?確かに仰っておられましたが・・・ただ船としか」

「うん。だから船じゃな」

「はあぁぁぁ?船じゃな、じゃありません!何ですか!あれは!」


「なあ、会長は言ってなかったのか?あれのこと」

「みたいだな。いつも通りと言えばいつも通りだけど、九条さんも苦労するな」

喜多嶋社長と桂木社長はやれやれといった感じで門崎会長と鈴羽を見ている。


「いやぁしかしびっくりしたよ、和先生の息子さんなんだって?」

「あっはい。母がお世話になってます」

「おいおい、お世話になってるのはこっちだよ、なあ?」

「ああ、和先生には世話になりっぱなしで」

え〜っと、母さんていったい何をしてるんだ?お華の先生じゃないのか?


「あの・・・母さんっていったい皆さんの何の先生なんですか?華道じゃ?」

「あれ?君は知らないのかい?和先生は・・」

「おい、喜多嶋。和先生が言ってないんだ。俺たちが言っていいことじゃないぞ」

「ああ、そうか。そうだな。すまないね、そういう訳だ。直接和先生に聞いてもらえるかな」

「はぁ、わかりました」

華道じゃないのか・・・全然分からないや。今度会ったら聞いてみるか。


僕たちが話している間に鈴羽のお説教も終わったみたいで門崎会長さんはグッタリしてこっちに歩いてきた。


「皐月君よ、はよあやつを嫁にもろうてくれ。ワシ心折れそうじゃ」

「会長!余計なことは言わないで下さい!」


もう!って言って鈴羽が僕の隣に戻ってくる。

あははは、会長さんも大変だなぁ。


しばらくすると気を取り直した門崎会長さんがまた急なことを言いだした。

「あ〜そうじゃ、お主らどうせ暇じゃろ?ちょっとあれに乗ってみんか?」

「えっ?乗れるんですか?」

「出航はせんが、中の食堂でパーティがあるからのう、どうじゃ?ん?」

ちらっと鈴羽を見ると、どうも乗りたいみたいに見える。


「僕は乗ってみたいんだけど、いいかな?鈴羽」

「皐月君がいいなら私は構わないわよ」

ちょっと嬉しそうに鈴羽が答える。


「おお、そうかそうか。よしよし、なら行くとしようかの。ほれ喜多嶋に桂木、行くぞい!」

門崎会長さんは足取りも軽やかに客船に向かって走っていってしまった。


「はぁ、君達も厄介なじいさんに捕まったな」

「ははは、ちょうど受験後の息抜きに来ていましたから大丈夫ですよ」

「そう言ってもらえると助かるよ。ほんと元気なじいさんだ」

「うふふふ、そこが会長のいいところでもありますから」


客船の前でブンブンと手を振っている門崎会長さんの元へと僕たちはそんな話をしつつ向かうことにした。





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