第24話 金曜日の誕生日会のあとで
リビングでは、ソファでリョータに左右から抱きついて杏奈ちゃんと梓ちゃんが可愛い寝息を立ている。
「うう〜ん、うう〜ん」
リョータは何故だか難しい顔をしてうなされている。
そんな3人に鈴羽が毛布をかけてあげている。
高山君とみちるさんはリビングの端に出した布団で仲良く眠っている。
こちらはみちるさんに高山君が抱きついているようだ。
みちるさんが研修生だった頃から高山君はべったりだったからこれはこれで平常運転なんだろう。
僕は洗い物をすませて後片付けをしてから今は鈴羽と2人ベランダでコーヒーを飲んでいる。
「素敵な誕生日会になったわね」
「うん、みんな楽しそうで良かったよ」
「杏奈ちゃんも梓ちゃんもホント幸せそうな顔をして寝てるわね」
「ははは、リョータはうなされてるけどね」
鈴羽と顔を見合わせてくすりと笑う。
「高山君とみちるさんも素敵なカップルね」
「そうだね、どちらかと言うと高山君がべた惚れだったんだけどみちるさんも負けないくらい高山君が好きみたいだ」
みんなそれぞれに好きな相手がいて幸せそうな顔をして寝ている。
ベランダで夜空を見上げて僕はそっと鈴羽を後ろから抱き寄せる。
鈴羽は僕の腕の中で静かに眼を閉じている。
髪に顔をうずめて鈴羽を感じる。
「う・・・んん」
微かに漏れる甘い声。
僕は鈴羽の耳元で囁く。
「大好き」
「うん。知ってる」
ふふっと笑って鈴羽が僕の方を向き直る。
月明かりの下で僕たちは口づけを交わす。
「そろそろ僕たちも寝ようかな」
「そうね、明日の朝ごはんも用意してあげないといけないから」
「まぁ作るのは僕だけどね」
もうっと膨れた鈴羽と一緒に寝室に入って布団に潜り込む。
「おやすみ鈴羽」
「うん、おやすみなさい。皐月君」
布団の中で抱き合って僕たちはゆっくりと眠りに落ちていった。
翌日、朝7時。時計のアラームで僕は眼を覚ました。
鈴羽は隣で可愛い寝息を立てている。
そっと髪を撫で僕は起こさないようにベッドを抜け出してリビングに顔をのぞかせる。
リビングはまだ、しんと静まり返っていてみんなまだ眠っているようだ。
僕はキッチンに行って朝ごはんの用意を始める。
「朝はごはんかな?パンかな?」
みんなに聞くのを忘れていたので少し考えたが昨日はちらし寿司だったのでパンにすることにした。
あれ?食パンが足りないかな?
ちょっとコンビニにでも買いに行ってこようっと。
上着を羽織ってリビングに顔をだす。
まだみんな起きてないことを確認して僕は玄関を出る。
10月の終わりの早朝の空気はひんやりとして冷たくてまだ少しぼんやりとした頭が冴えてくるのがわかる。
そんな冷たさの残る空気を吸い込んで僕は大きく伸びをしてから近所のコンビニに向かった。
4枚切りの方がいいかな?鈴羽は薄目が好きだから6枚切りだよな。
コンビニで食パンを買ってレジをしてもらっていると店員さんに声をかけられた。
「あの・・・もしかして立花さんですか?」
「はい?」
コンビニの店員さんに知り合いなんかいたかな?
目の前には女の子。僕と同じ年くらいだろうか?綺麗な栗色の髪をポニーテールにしていて大きな瞳が印象的な可愛い子だった。
「やっぱり!お久しぶりです!」
「えっと・・・?」
「分からないですか?あの・・図書館でお会いした」
「図書館?えっ?あのときの?」
「はい、真壁御園です」
驚いたなぁ、確か図書館で見たときは黒髪に前髪も長くてどちらかと言えば野暮ったいイメージだったんだけど。
「ちょっと思い切って髪型とか変えてみたんです!おかしいですか?」
「いや、うん。似合ってると思うよ」
「わぁ!ありがとうございます!立花さんはこの近所にお住まいなんですか?」
「えっ、うん。まぁすぐそこだけど・・・」
女の子ってこうなんて言うか髪型とかを明るくすると性格も明るくなるのかな?
「このコンビニって私の親戚の家なんです。卒業までアルバイトさせてもらってて」
「へ〜そうなんだ。勉強の方は順調?」
「はい!推薦はちょっと無理でしたけど一般で受けようと思ってます。立花さんはどうですか?」
「僕は推薦の願書はもうだしたから後は来月の試験が終わったら12月の結果待ちになるかな」
「やっぱり推薦なんですね!すごいです!」
「ははは、まぁそれなりだよ。ってそろそろ帰らないと」
早朝のコンビニなのでお客さんがいなかったからつい長話していた。
「あっすみません!あの私、月水金と入ってますのでまた来てくださいね!」
「うん、じゃあ、また」
僕は真壁さんに挨拶してコンビニを出て家へと向かう。
う〜ん、髪型だけであんなに変わるものなんだなぁ。
鈴羽も髪型変えたらまた違った印象になるのかな?
ふふっショートカットの鈴羽も見てみたいかも。
僕は、そんな妄想をしながら家へと入っていった。
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