第18話 月曜日の会社にて



「それじゃあ、杏奈ちゃんに梓ちゃんは予定大丈夫って事でいいわね?」

「「はい」」

お昼ご飯時の食堂で私は、2人に誕生日パーティーの予定を聞いていた。

2人共、仕事を早めに終わらして皐月君の家に来ることになった。


「なんか、九条先輩、すっかり新妻感が出てません?」

「えっ?」

「そうですよ〜なんだか我が家に招待しますよ〜みたいになってましたよ」

「そ、そんなこと・・・ないでしょ?」

「「あります」」

確かにほぼ毎日皐月君の家にいるし、週の半分くらいは泊まってるし・・・

新妻・・・えへへ、いい響き。


「九条先輩。ニヤケすぎですよ」

「あ、ああ、ごめんなさいね」

「ただでさえ、最近先輩は優しくなったって社内で噂なんですからね〜ほら、営業と経理の人達がこっち見てますよ〜」


私ってそんなに冷たい印象だったのかしら、ちょっとショック。

私達3人が、そんな会話をしていると、ここいいですか?と営業の中嶋さんが声をかけてきた。


「どうぞ」

「いや〜すみません」

営業第1課の中嶋さん、営業部の中でもトップクラスの実力を持っている1課のエース。

先日スーパーで皐月君にあしらわれて以来かしら。


「先日は、失礼しました。てっきり弟さんだと思いまして」

「いえいえ、構いませんよ」

「中嶋さん、皐月君と会ったんですか?」

杏奈ちゃんが不思議そうに聞く。


「ええ、先日スーパーで買い物の最中に。皐月君と言うのですか?彼は」

「ええ、私の大切な人です」

私は、これ以上ないくらいの笑顔で答えてあげる。


「・・・先輩こわい」

隣で梓ちゃんが何か言ってるけど。


「本当に付き合ってるんですね」

「そう言いましたけど、何か?」

「あっ、いや、九条さんならもっと他にいい相手がいるんじゃないかと・・・」

「それは、例えば自分みたいな、と言いたいのでしょうか?」

私は、冷静に返事を返す。


「そういうわけでは・・・いや、そうですね。正直僕は優良物件だと自分で思っていますが」

「確かに中嶋さんは、いいお相手だと思います」


「あの・・・先輩、私達は先に戻ってますので」

杏奈ちゃんと梓ちゃんは気まずそうに席を立つ。

「ごめんなさいね、2人共。また後でね」


2人がそそくさと退散した後改めて中嶋さんに向き直る私。


「営業部のエースで成績優秀、将来も約束されている、上司からの評価も高い、門崎会長も目をお掛けになってらっしゃいますものね」

「なら、どうですか?少しは僕とのことを考えてもらえないでしょうか?」

「それはお付き合いするということでしょうか?」

「ええ、もちろんです。僕なら九条さんを不幸にするようなことは絶対にしません」


この人は、何を勘違いしているのかしら。


「中嶋さん」

「はい」

中嶋さんの表情を見ていてわかる。この人は自分が絶対的に皐月君より上だと思っている。

そんなことは、ありえないのに。


「お断りします。話は以上です」

私はそれだけ言って席を立つ。


「・・・理由を聞いてもいいですか?」

中嶋さんは、私の向こうに見える皐月君の影に敵意を持った目を向けている。


多分私は、自分で思っているより怒っている。

普段の私ならまず言わないような返答をした。氷の微笑みを浮かべて。


「では単刀直入に言わせて頂きます。中嶋さんは、皐月君より男として見劣りします。全てにおいて・・・・・・です」


私は、そう言い残して振り返ることなく食堂を出る。


このあと、社内ではまた新たな噂が流れることになったらしい。


秘書課室長九条鈴羽は、前より凍っている。と。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る