第15話 月曜日のロールキャベツ
「とりあえず出来ることからやることにしたよ」
「そうね、まずは受験かしら?」
「うん。そこを失敗したら何にもならないからね」
僕と鈴羽は、いつもの喫茶店でお茶をしている。
「まぁ受験って言っても推薦の願書はもう出したし後は面接と論文がメインだから、試験勉強もそんなにないんだけどね」
「そうなんだ。11月だっけ?」
「うん。それで12月に結果がわかるからクリスマスと年末はゆっくり出来るはずだよ」
僕としては落ちることは正直全く考えていない。
最悪一般入試もあるから大丈夫だと思ってる。
「鈴羽は今日はどうするの?」
「もちろん泊まるわよ。お父さんもあれからそんなに言わなくなったし」
「そっか、良かった。じゃあ晩御飯の材料買って帰らないとね」
僕と鈴羽は、喫茶店から家の近くのスーパーに買い物に行く。
「鈴羽は、何が食べたい?」
「う〜ん、皐月君が作るものなら何でもいいんだけど、それじゃ困るんだよね?」
「そうだね、リクエストがあったほうが助かるかな」
「えっと・・・」
「あれ?九条さん?」
鈴羽が何にしようかと考えていると、スーツ姿の男性が声をかけてきた。
「皐月君。ロールキャベツが食べたい。コンソメのやつ」
鈴羽は、男性に気づくことなく僕の腕に抱きついて嬉しそうだ。
「あの?九条さん?」
「えっ?中嶋さん?」
「ああ、やっぱり九条さんだ。会社と格好が違うから見間違えたのかと思いました」
「え、ええ、今日は休みでしたから」
「晩御飯のお買い物ですか?そっちは弟さんかな?」
中嶋と呼ばれた男性は、どうやら僕を鈴羽の弟だと思っているみたいだ。
「いやぁしかし、普段着の九条さんは一段とお美しい!弟さんもそう思いませんか?」
「はぁ」
えっと、鈴羽?どうするのこの人。
「あのね、中嶋さん。彼は・・」
「もし宜しければ、どうです?一緒にディナーでもいかがです?もちろん弟さんも一緒でも構いませんよ」
「は?」
何言ってるんだこの人は?
「出来ればお姉さんと2人でお願いしたいんだけど、気をきかせてくれないか?」
「・・・」
鈴羽を、ちらっと見ながら僕に耳打ちする。
「お断りします。すみませんね」
僕は、ハッキリと断っておく。
「え?」
中嶋さんは、以外そうな顔で僕を見る。
「
僕は、わかりやすく強調して言ってやった。
「何が?弟さんじゃ・・?」
「中嶋さん。彼は私の恋人です。弟じゃありませんよ」
鈴羽は僕に腕を絡ませて、営業用の笑顔でいう。
「いや?でも、えっ?」
「ですから、僕の彼女を食事に誘うのはやめて下さいって言ったんですよ」
混乱したのか、呆然とした彼を置いて僕たちはさっさと買い物を済ませる。
スーパーを出たところで鈴羽に尋ねる。
「あれで良かったかな?会社の人でしょ?」
「全然いいよ!皐月君、カッコよかった・・」
えへへと僕にひっついて嬉しそうに笑う。
「そっか、僕もちょっとイラってしたから」
僕はそんな鈴羽を抱き寄せる。
どうやら僕にも結構な独占欲みたいなものがあるみたいだ。
「じゃあ帰って晩御飯にしようか」
「うん」
2人で寄り添って買い物袋を持って同じ家に帰る。
幸せってこういうことなんだろうな。
「はい、じゃあ鈴羽のリクエストでロールキャベツを作るからちょっと待っててね」
僕はキッチンで準備を始める。キャベツは芯をスライスして薄くし、茹でる。たまねぎは薄く、くし形に切って、電子レンジで2分間。
キャベツ、豚肉、たまねぎの順に重ね、塩こしょうを振って、ロール状に巻く。
あとは味付けだけど、トマトケチャップのとコンソメ味だったかな。
鍋を2つ用意してそれぞれ違う味付けをして煮込む。
ちょっとキャベツが余ったな。え〜と。
僕は冷蔵庫を開けて何かなかったかと考える。
「うう〜ん、いい匂い〜」
匂いにつられて鈴羽がキッチンにやってくる。
「もうすぐ出来るからね」
「うん、ごめんね。私がお料理下手で」
「ははは、その内上手になるよ。僕が教えてあげるし」
えへへ、ありがとうと鈴羽はちょっと背伸びして僕にキスをする。
「ちょっと物足りないと思うから他にも何か作るね」
鈴羽にキスを返して僕はツナ缶とマヨネーズ、チーズを取り出す。
「何作るの?」
「出来てからのお楽しみだよ」
顔にかかる鈴羽の髪がくすぐったく、ふわりといい匂いがする。
ちょっと待っててねと僕は、髪を撫でて用意をする。
ツナ缶の油をきってキャベツを千切りにする。
ボウルにキャベツとツナ、マヨネーズ、黒こしょう、醤油を入れ混ぜ合わせてから耐熱カップに入れて真ん中に卵を落とす。
チーズをたっぷりふりかけ、トースターで4分。
「よしっと」
今日の晩御飯は、ロールキャベツ2種とキャベツのココット。後は適当に付け合わせ。
「はい、おまたせ」
「おお〜美味しそう!」
「お気に召したらいいけどね。じゃあいただきます」
ロールキャベツもココットも中々の出来だった。春キャベツならもっと甘みが出たんだろうけど。
鈴羽もご満悦でなにより。好きな人が美味しそうに食べてる姿っていいよね。作った甲斐があるって感じる。
食後にコーヒーを淹れて一休み。
「うう、皐月君の女子力がハンパない」
「そう?元々料理は好きだからね」
ソファに並んでそんな話をしながらゆったりとした時間を過ごす。
僕の肩に頭をのせて、えへへと嬉しそうな鈴羽。
月曜の夜は、とても美味しくて甘かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます