第13話 金曜日はまだ続く



「皐月君、ごめんなさい。開けてもらっていいかな?」

「あっ、うん。鈴羽、隣の方は・・もしかして?」

「うん、お父さん。ちょっと色々あって皐月君に会わせろってしつこくて」

「鈴羽?私はそんなにしつこくはしてないが?黙ってついて来ただろう?」

「お父さん、会社からついて来たのは誰よ!」

「たまたまだな」

「そんなわけないでしょ!」

「まぁいいじゃないか。私は気にしてないから」

はぁと大きくため息をついて鈴羽が、エントランスに入ってくる。

お父さんは、物珍しげにエントランスを見渡していた。


なんだか思ったより話しやすそうな人だな。

見た感じは、50代中頃くらい。きれいに揃えられた短髪に口髭がよく似合っている。


「いらっしゃい」

「ごめんね。どうしてもついてくるって聞かなくて」


「こんばんは、はじめまして。立花皐月と申します。宜しくお願いします」

僕は玄関先で、お父さんに頭を下げる。


「ああ、気を使わなくていいぞ、私は九条道隆。鈴羽の父親だ。少し上がらせてもらってもいいかな?立花君」

「はい、どうぞ。遠慮なさらずに」

僕はそう言って2人をリビングに案内する。


「皐月君、お茶入れてくるね」

「あっ、ごめん。ありがとう」

いつものように、鈴羽がキッチンにお茶をとりにいく。


「・・・新婚夫婦みたいだな?」


しまった!つい、いつもみたいにしちゃった。

僕は、恐る恐るお父さんを見る。


あれ?


お父さんは怒った風もなく何故だか嬉しそうな顔をしてキッチンの鈴羽を眺めていた。


「どうかしたかね?」

「あっいえ。何でも」


鈴羽がお茶を出していつも通りに僕の隣に座る。


「で、お父さん。どうして急に皐月君に会わせろなんて言い出したの?」

「ん?それは、まあ、その、なんだ」

お父さんはお茶を一口飲んでから話し出した。


「お前のことだから、自分の事は自分で決めるとは思っている。でもね私は父親なんだよ。父親ってのはね、娘が心配で仕方ないものなんだ。わかるね?」

「そりゃあね。でもお父さん、私と皐月君のことを反対してたんじゃないの?」

そう、鈴羽の話だとそんな感じのニュアンスだったからてっきり怒りに来たのかと思ったんだけど。


「反対?私は別に初めから反対なぞしてないよ」

「えっ?」「は?」

僕と鈴羽は2人揃って変な声で反応してしまった。


「だって私が、出かけるときはしつこく聞いてきたじゃない」

「当たり前だろ?娘の付き合ってる相手だよ。知りたいに決まってるだろう?」


「私が、遅く帰ると起きて待ってたりするじゃない」

「娘の帰りを待ってるのがそんな不思議かな?」


「皐月君を家に呼びたいって言ったらすぐにいなくなるでしょ」

「仮にも娘の付き合ってる相手だよ。私にも心の準備ってものがある」


「あとは・・えっと、そうよ!皐月君のとこに泊まりに行くって言ったら物凄く不機嫌になるじゃない」

「あ〜鈴羽?それは普通だと思うよ」

「えっ?」


これは、鈴羽の勘違いって言うかお父さんとちゃんと話しをしなかったからというか。


「鈴羽。年頃の娘が付き合ってるとはいえ男のところに泊まりに行って平然としていられる親はいないたと思わないか?」

お父さんはお茶を啜りつつ続ける。


「君はね、母さんに似て少し抜けたところがあるからね」

うん。うん。同感です、お父さん。

「父親としてはね、変な相手に騙されたりしてないか心配になるんだよ」


「お父さん?」

鈴羽は目をパチクリさせてお父さんの話を聞いている。


「どうやら立花君は年の割にはしっかりしているようだし、少し安心したよ」

ふぅと息をついて僕の方を向き直る。


「立花君。ちょっとね、君の事を知り合いに聞いてみたんだよ」

「僕のことですか?」

「正確には、君の家のことだね」

「ああ、そういうことですか」


なるほど、ちょっとおかしいと思ったんだ。

いくらお父さんが、優しい人でもまだ高校生の僕に大事な娘を、なんてありえないよな。

お父さんは、僕の家のことを知ってるから反対しないわけだ。


「そういうことだね。私も驚いたよ」

「でしょうね。驚いたのは僕の母のことですね?」


母さんはすっかり有名人だからな。

「どういうこと?お父さん?」

鈴羽は、イマイチ理解出来てないみたいだ。


「私もね、いくらなんでもまだ高校生の少年に大事な娘をというわけにはいかないからね。少し調べてさせてもらったんだ」

「それで・・・?」

「うん、でも、それ抜きにしても立花君は立派な青年だと思ったがね。私が調べたことはプラスαくらいでいいかもしれないね」


母さんの影響があるだろうけど僕自身を少しは評価してくれてるみたいだ。





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