第9話 火曜日の訪問者 2話目
「母さん!帰ってこいって?どういうこと!」
僕はつい声を上げて母さんに詰め寄る。
「落ち着きなさい。皐月さん。今すぐにとは言っていません。あなたが大学を卒業してからで結構です」
母さんは相変わらず落ち着いて、お茶を飲みながら答える。
「宗家をって、緋莉が継ぐんじゃないの?代々宗家は女性だって母さんも言ってたじゃないか」
「そうですね。ですが時代も変わってきています。私の代で大きく舵をとる必要があるのですよ」
確かに女性宗家に拘る理由は、代々そうだからってだけなのは分かる。分かるけど。
「僕の意思は?」
「皐月さん。あと4年、あなたが大学を卒業するまで4年あります。それまでに考えて結論を出しなさい」
「それがどんな結論でもですか?」
「そうです。あなたに任せます」
母さん・・・それは僕が断らないのをわかって言ってない?もしくは断れないと。
しばらくの間リビングには重たい沈黙が流れた。
「母さん。4年間考えてみるよ。自分なりに」
僕は絞り出すように母さんに答える。
「結構です。あなたのしたいようにしなさい。ただし後悔だけはしないように」
「・・・はい」
ピンポーン
「お客様ですか?皐月さん」
このタイミングで鈴羽が来ちゃうのか。
どうしよう。
母さんはそんな僕を見て思いついたのか
「皐月さん。この間のお付き合いしている方ではないですか?いい機会です。少しだけお会いさせて頂きます」
どうやら、訪ねてきたのが鈴羽だと気づいたみたいだ。
はぁ、仕方ない。
僕は母さんにちょっと行ってくると言って入り口まで鈴羽を迎えに行った。
「はぁはぁ鈴羽、お待たせ」
「えっ?どうしたの?皐月君、そんなに急いで」
「はぁ、鈴羽、はぁ、落ち着いて聞いて、はぁ、ね」
「う、うん。まずは皐月君がね?」
僕は、いったん呼吸を整えてから鈴羽に改めて言う。
「母さんが・・・僕の部屋にきてる」
「・・・・え〜〜っ!!」
ほら驚いた。当たり前か。
「えっ、なんで?急に?私、どうしよう。失礼ないかしら?服、これで大丈夫?あっ、お化粧直さないと」
うん、安定の慌てぶりだ。
「鈴羽、落ち着こうか。ね?」
「う、うん」
ハイツの入り口で2人揃って深呼吸をする。
すぅ〜〜はぁ〜〜
僕まで緊張してどうするんだ。
きちんと母さんに鈴羽を紹介しないと。
「落ち着いた?」
「うん、何とか。でもどうして急に?」
「何でもこっちで仕事があったらしくて寄ってきたらしいんだ」
鈴羽に事情をかいつまんで説明する。
「そうなんだ・・・」
「うん、でね、母さんが少し会いたいって」
「わかった。私、頑張る。皐月君に相応しいって認めてもらうから」
「鈴羽、そんなに大袈裟でもないと思うんだけど」
ふんすっと気合いを入れている鈴羽にちょっと不安になったりもしたけど僕は鈴羽を連れて部屋へと戻った。
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