第2章 秋の訪れとそれぞれの冬
第1話 日曜日は図書館で
8月が終わり夏休みが明け新学期が始まった。
特に変わり映えのしない学校での日常。
受験を控えているためか、3年のクラスはどことなく落ち着かないように感じる。
「じゃあ、行ってきます」
「いってらっしゃい」
僕のうちの玄関で、軽くキスをする。
2人で旅行に出かけて以降、鈴羽はちょくちょく僕の家に泊まりに来るようになった。
家のほう、特にお父さんは心配していないのかと聞いたのだが、無理矢理押し切ったそうだ。
仕事に出かける鈴羽をベランダから見送り、僕はソファに座って一人でニヤけていた。
「ふふっなんか新婚さんみたいで照れるよね」
だって考えてもみてよ、こないだまで仕事から帰ってきて2人で晩御飯を食べてから、帰っていくのを見送ってたのに。
ご飯を食べてお風呂に入って(もちろん一緒に入るんだよ)ゆっくりした時間を共有して、一緒のベッドで寝て・・・
ニヤけるなって方が無理だよね。
今日は日曜日なので僕は休みだ。なので勉強も兼ねて日曜日は図書館に通っている。
一応僕が受けるつもりの大学は国立で結構難しいらしい。現状ならまず大丈夫とお墨付きはもらってはいるが気を抜くことはしたくない。
まだはっきりと自分の将来について決めかねているんだけど、実家のこともあり経済学部を受けるつもりだ。緋莉に全部丸投げするわけにはいかないから。
さすがに日曜日ともなれば図書館も結構な人がいる。
僕は参考書を片手に空いている席に座る。
さて・・・予習と復習、傾向と対策。最近の出題パターンなど覚えておきたいことは多い。
2時間程経った頃、僕はなんとなく視線を感じて顔を上げた。
「えっと?どうかしましたか?」
僕を見ていたのは、正面に座っていた女の子だった。
年は同じくらいだろうか、前髪が長くて眼鏡をかけているのではっきりとはわからないけど。
「あっ、ごめんなさい!何でもないです!」
その子は慌てて否定する。
周りの人がこちらに視線を向ける。
「静かにね、ほら、周りの人が・・ね?」
「はい・・ごめんなさい」
うん、図書館ではお静かに。だよね。
「で、何かな?」
僕は改めて聞いてみる、というのも変わらずその子はちらちらとこちらを見ているから。
「あ・・あの、受ける大学が同じだなと思って・・」
「ああ、これ?君もここ受けるんだ?じゃあお互い頑張らないとね」
「はっはい」
それっきりその子は、俯いてしまった。
何だろう?まぁいいか。
僕はさほど気にせずに再度勉強に取り掛かった。
さて、そろそろ帰ろうかな。鈴羽も帰ってくるだろうし。時刻は6時を回ったくらいだ。
僕は参考書を片付けて席を立つ。
「あっ、あの」
「ん?どうかした?」
正面に座っていた女の子がまた声をかけてきた。
「あの・・・その・・明日も来られるんですか?」
「えっ、ううん、僕は日曜日だけだから」
「日曜日・・・」
「うん、じゃあ、頑張ってね」
僕は女の子に挨拶して図書館を出て家へと向かう。
その子が、じっと僕の後姿を見つめていた事には気がつかずに。
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