第36話 出かける前の土曜日



「お兄ちゃん、お姉ちゃん、お世話になりました!次は緋莉のお家に遊びに来てください!」

「ええ、是非行かせてもらうわね」

「僕の家でもあるんだけど・・遊びに行くよ?」


「皐月様、九条様。ありがとうございました。わたくしが責任を持ってお送り致します」

「うん、ありがとう、是蔵さん」


 ばいばい〜!と車から顔を出して元気に手を振り緋莉は帰っていった。


「嵐のように来て帰っていったね」

「ふふっ可愛いじゃない。小さな妹が出来たみたいで楽しかったわよ」


 リビングでコーヒーを飲みながらこの数日の話をする。


「小さな頃から、緋莉はあんな感じなんだよね。母さんはお淑やかに育てるつもりだったみたいだけどね」

「あはは、正反対ね」

「まったくね」

 華道や茶道も教えてはいるらしいけど、あのお転婆には無理みたいで。まぁあの年で変に悟られても困るけどね。


「そういえば、リョータとあの2人はどうなったの?リアルハーレム作ってたけど」

「ああ、あのあと散々リョータ君を連れ回したみたいよ。いつもならどっちかが引くんだけど、今回はどっちも本気なのかしら?」

「リョータ・・・頑張れ」

 連れ去られていくド○ド○なリョータを思い出して笑いそうになる。


「どうかした?」

「いや、なんでも」

 鈴羽が小首を傾げて不思議そうにこちらを覗きこむ。


「あ〜、そういえば来週だね、2人で旅行に行くの」

「えっ、あ、うん、そうだね」

「で、どこに行くの?まだ内緒?」

「え〜っとね、温泉」

「温泉?」

「うん、温泉」

 夏場に温泉って?てっきり海とか山かと思ってた。


「あのね、東北の方にね、夏でも雪が残ってる温泉宿があるんだって。かなり山の中らしくて夏場でもすごく涼しいんだって」

「へ〜、夏に温泉ってびっくりしたけど、楽しそうだね」

「でしょ?よかった」

 えへへ〜と嬉しそうな鈴羽を撫で、旅行の計画を聞く。



「じゃあ、火曜日の朝に迎えに来るからね」

「うん、わかった。楽しみにしとくね」

 いつものように玄関の前でキスをして見送る。


 鈴羽と旅行か・・・あの頃じゃ想像も出来なかったよな。

 僕は鈴羽と初めて話したあの雨の日を思い出して改めてあの日、傘を忘れた自分に感謝した。






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