第24話 鈴羽と緋莉の土曜日


 さて、問題の翌日。


 昨日の夕食と同じく静かな朝食を3人で食べている。


 緋莉は、そわそわしながら、母さんはいつも通りだ。

 緋莉のことだから母さんにも鈴羽のことを話してるんじゃないかと思ったのだか杞憂だったみたいだ。


「ごちそうさまでした」


 朝食を食べ終えた僕に母さんが聞いてきた。

「皐月さん、今日は何時頃帰るのかしら?」

「うん、そうだね、夕方までには帰るつもりだから。それまでは緋莉と駅前にでも行こうかと思ってる」


 母さんは少しだけ思案していたが。

「そう。気をつけて帰りなさい」

 そう言って何事もなかったように食堂から出て行ってしまった。


 母さんは何を言おうとしたんだろ?僕は少し母さんの様子が気になったが緋莉に急かされて食堂を後にした。



「じゃあ、お兄ちゃんの彼女さんがくるまで緋莉とお出かけするの!」

 今日は是蔵さんも緋莉のために本宅にスタンばっており送り迎え付きみたいだ。


「こっちまできたら電話くれるって言ってたからそれまで駅前でもぶらつこうか?」

「うん!いこう!お兄ちゃん!」

「じゃあ部屋に荷物取りに行ってから、玄関前で」



 久しぶりの実家に別れを告げー特に感慨深くもなかったけどー僕と緋莉は是蔵さんの運転する車で駅までやってきた。


「緋莉お嬢様、お帰りの際はお電話下さいましたらお迎えに上がりますので」

 是蔵さんは緋莉に大体の時間を聞いている。多分近くで待機しておくのだろう。

「皐月様、またいつでもお帰りください。旦那様も奥様もお喜びになられるかと、わたくしもお待ちしております」

「ええ、また。是蔵さんもお元気で」

 僕は是蔵さんの手を握り別れを惜しむ。



 それから僕と緋莉は駅前でウィンドショッピングをしたりゲーセンにいったり、ハンバーガーを食べたりと昨日遊べなかった分をとばかりに遊んだ。主に緋莉が。


 15時すぎ。

 スマホに着信が入る。


『もしもし〜皐月君〜今さっきインター降りたからあと10分くらいで駅前につくよ〜北側?南?』

『わかった。え〜と、南側で。ロータリーがあるからそこにいるね、妹と一緒に』

『うん!じゃあまた〜』


「あと10分くらいで来るんだって」

「うん、聞いてた。いよいよお兄ちゃんの彼女さんと対決なの!」


 ・・・なんの対決するんだ?


 緋莉は是蔵さんに連絡をしてから僕と一緒にロータリーに向かう。

 そういえば、あの車で来るんだよな、多分。

 緋莉びっくりするんじゃないか?


「緋莉、あのな、もうすぐ来ると思うけど・・・」

 僕がそこまで言ったとき、聞いたことのあるエンジン音が迫ってきた。


 ボボボボボ・・・


「お兄ちゃん!見て見て!なんかすごいのが来たよ!はりうっどすたーが乗ってそうなのが!」

「えっと・・・」


 当然見たことのあるその車は僕達の前で停車する。


「ほえ?」

 緋莉が間抜けな声で驚いている。


 ドアが開いて鈴羽が降りてくる。


「皐月君。おまたせ!」

 今日の鈴羽は、薄い青色のワンピースにショールを羽織り、髪はサイドで纏めて編み込んである。

 白い肌に青色のワンピースがよく似合い、バス停でバスを待つ男性陣が見惚れている。


「鈴羽、久しぶり」

 僕と鈴羽はそっと抱き合い3日ぶりの再会を喜ぶ。


「えっと?お兄ちゃんの彼女さん?」

 いけね、緋莉を忘れてた。


「ああ、うん。こちら九条鈴羽さん、僕の彼女。でこれが妹の緋莉」

 僕は緋莉と鈴羽、お互いに紹介する。


「こんにちは。緋莉ちゃん?私は九条鈴羽っていいます。皐月君とお付き合いさせてもらってます。よろしくね」

 鈴羽は、男なら誰しもが蕩けるような笑みで緋莉に話しかける。


「・・・・・」

 あれ?緋莉?

「お〜い、緋莉?どうした?」


「・・・かっかっこい〜〜〜〜!!お兄ちゃんの彼女さん!かっこいい!かっこよすぎるの〜〜!」


 緋莉はその場で手足をバタバタさせて飛び跳ねている。対決するんじゃなかったのか?


「はっはじめまして、お兄ちゃんの妹の立花緋莉です!よろしくお願いします!」


 緋莉がどっかの告白番組よろしく手を出して頭を下げる。


「えっえっと、はい。こちらこそよろしくね」

 鈴羽が手をとると緋莉は、大喜びではしゃいでいる。


「ねぇ、皐月君?ちょっと車、パーキングにでも入れてくるね」

「うん、そうだね、そこの角を曲がったとこにあるから」

 そう言って鈴羽が車に乗ろうとすると、


「お姉さん!緋莉も乗せて下さい!」

 目を輝かせて緋莉が鈴羽ににじり寄っていった。

「えっええ、緋莉ちゃん。どうぞ」


 わ〜い!と緋莉は車に乗り込む。

「可愛いわね〜さすが皐月君の妹ね。じゃあちょっと止めてくるね」


 鈴羽はそういい、僕の頬にそっとキスをしてから走り去っていった。


「仲良く出来そうって、もう仲良くなってるよな」

 僕は、ほっと一息つきパーキングへと歩き出した。


 周りの視線がちょっと痛いのを感じながら。



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