第5話 告白する水曜日

 いつもなら、公園にいる時間。僕は急いで公園に向かっていた。時刻は5時半すぎ。


 授業が終わり、帰ろうと思った矢先に先生に捕まってしまったのだ。

 バイト先に出す書類のことで (進学校なのでいちいち許可が必要なのだ )長話をされてしまった。

 熱心で珍しいくらい面倒見のいい先生なんだけど今日はやめてほしかった。


 6時ちょうど。公園。


「はぁはぁ、参ったなぁ、今日はもう帰っちゃってる・・・ん?」


 いつもなら僕が座っているベンチに、座り本を読んでいる・・・彼女がいた。


「えっ?どうして?」

 僕は急いで駆け寄り彼女に声をかけた。


「あの、遅くなって、すみません!」

 彼女は僕に気がつくと本を閉じてこちらを見上げる。

「こんばんわかな?僕君。今日は来ないのかと思ったわ。」

 口元に柔らかな笑みを浮かべ僕を見る彼女は夕陽に照らされて、あまりにも綺麗すぎて・・・

 ちょっと固まってしまった。


「あの、すみません。帰ろうとしたら先生に捕まってしまいまして。あっ、傘ありがとうございました!」

「学生さんも大変だものね。ふふっいいわよ。ちょっと私も・・」

 彼女は、僕から傘を受け取りながら、何かを言いかけてやめた。


 うん?なんだろう?何か気に障ったんだろうか、今めっちゃ見惚れてたのがダメだったとか、


「うん、あのね僕君。私ね、楽しみだったのよ。今日。・・来るかな〜?来ないのかな〜?って思ってるとね、なんだろうね?嬉しかったの。」

「えっ?」

「仕事してるとね、嫌なことやしんどくなることってあるのよね、結構沢山。毎日が会社と家との往復だけで終わって・・・毎日が単調に過ぎていって、私何してるんだろうって思ったり。

 だからね、う〜ん、なんて言ったらいいのかな?待ち合わせしてるみたいで嬉しかったの」


 そう言って彼女は、少し寂しそうに笑った。


「ごめんね・・愚痴聞かせちゃって」


 ああ、社会人って大変なんだろうな。学生にはわからないだろうけど、彼女は、九条さんはきっといつも頑張ってるんだ。今まで僕はこの公園で帰り道の彼女した見ていなかった。背筋を伸ばして前を向いて・・・僕の印象の中、キャリアウーマンみたいな彼女しか知らなかった。

 でも・・・今の彼女は、何故だかとても頼りなくて消えてしまいそうで・・・


「僕で良かったらいくらでも話してください!学生で頼りないかもしれませんが、愚痴でもいいです!頼ってください!」

 僕は思わず大きな声で言ってしまった。

「ずっと・・・帰り道、この公園で九条さんのこと見てました。す、好きな人の力になれるならなんだってしてみせますよ」


 勢いって怖い。でも後悔なんてしない。こんな彼女は見ていられない。


 彼女は、ちょっと驚いた顔をして、それからゆっくり立ち上がり僕の肩に頭を預けて、


「ありがと・・・ありがと・・・」


 僕の肩に頭をのせた彼女の細い体は少し震えていた。


 抱きしめそこねた僕の両手は宙をさまよっていた。


「ふふっそこは、ちゃんと抱きしめるところよ?」

 しばらくすると、落ち着いたのか彼女は顔を上げ僕の体に手を回しながら

「ずいぶん年上だけどかまわない?多分僕君の思うイメージの私とは違うかもしれないよ?」

「えっいや、大丈夫です、えっと色々頑張りますので?」



「土日も仕事だったりするから中々会えないよ?」

「平日、学校終わりに会いにいきます。」



「毎週水曜日は楽しみにしてていい?」

「ダッシュできますよ。雨でも台風でも大雪でも」


「・・・僕君、ううん、皐月君。私と・・・お付き合いしてくれますか?」

「・・・っ、はい!もちろん!」


 夕陽が沈む頃、僕に彼女が出来た。心臓がバクバクいってて、しばらく後落ち着いた頃、ようやく宙をさまよっていた僕の両手は彼女をしっかりと抱きしめることが出来た。


 ・・・彼女はとてもいい匂いがしたことを付け加えておく。




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