9-1『エピローグ』

 ゴールデンウィーク中、2年前、自殺と処理された女子高生の事件が、一変して殺人事件だったとワイドショーは騒ぎ立てた。


 犯人の名前は伏せているものの、事件の詳細を報道されれば、同じ学校に通う生徒なら容易にそれが誰なのかを想像出来るだろう。


 休み明け、学校には多くの報道陣が詰めかけていたが、思いの外小嶋兄弟のことを悪くいう生徒がおらず面白みがなかったこと、自首をした犯人よりも証拠を見つけられなかった警察の捜査体制を疑問視する声の方が多く、すぐにマスコミは学校から姿を消した。


 小嶋周は殺人罪として起訴されるだろう。そして、小嶋尊は犯人隠避の罪で逮捕された。


 この事実を受けた野神慎也から、オカルトミステリー研究部宛に一通の手紙が届いた。


 全ての真実が明るみになったあの日の夜、野神慎也の元に野神沙耶香が現れ、最後の挨拶をしてくれたそうだ。

 それまでオカルトなど信じていなかったが、娘の魂を目の当たりにして考えを改めたらしい。

 それと、小島兄弟と接見をしたことも書いてあった。

 愛娘の命を奪った周を許すことはまだまだ出来そうもないが、元教師として更生と幸福を心から願うと。

 手紙には事件解決への感謝と、いつか寿命をまっとうして沙耶香に会った時、胸を張れるような人生を送りたいと綴られていた。


「俺、この部に入って良かったよ」


 手紙を読み終えた後、そう言ったのは大森だった。


「そうね、こんな風に人を救うことが出来るだなんて思っても見なかった。それもこれも宝生くんと小比類巻さんのおかげね」


 メガネを外し、浮かんだ涙を指で拭いながら神楽坂が言った。


「いえ、私は……」

「そうだな。俺がいなかったらこの学校は不慮の事故が多発してた」

「あんたはどうしてそう……いつもいつも偉そうなのよ!」

「おまえこそ俺に対する態度に感謝の気持ちが全く感じられないのはどうしてだ」

「……う!」


 この男が二度も梢の命を救ってくれたのは紛れもない事実だ。けれどもどうしても素直になることが出来ない。


「なんかふたりってお似合いだよね」

「あ、僕もそう思ってた」

「は? 佐野先輩も田中先輩も何いってんですか!」

「まあ俺たちは相棒らしいからな」

「あ、私はもう霊の姿も視えるから! 宝生くんよりスペック上だから!」

「はいはい」

「だからその態度がムカつくって言ってんのよー!」


 ククク、と笑う理恩に頬を膨らませながらも、たまに見せる彼の表情の変化に妙な感覚が湧き上がり、梢はそれを掻き消すために頭を左右に思い切り振った。


「まあまあ。とりあえず次の部誌のテーマ決めようか」


 爽やかな笑顔で大森が掲げたのはやはりB級としか言いようがないテーマたちだった。



 無事にテーマも決定し、帰り支度をしてから梢が下駄箱へ向かうと、入り口の壁にもたれかかる理恩の姿があった。


「遅せえよ」

「2組より5組の方が階段から遠いんだから仕方ないでしょ!」

「あー。うるせえうるせえ。行くぞ」

「うん」



 梢の頬を爽やかな風が撫でる。

 ずっとここへ漂っていた深い悲しみを含んだ空気は、跡形もなく消え去っていた。


 梢は無意識に黒猫の姿を探していた。

 もう優花は旅立ってしまったのだから、あの猫が理恩の元へやって来ることはないのはわかってはいるが、些か寂しさを感じる。




「いらっしゃい! 連絡くれてありがとうね。今日は優花の好きな角煮を作ったのよ。良かったら食べていって」


 訪れたのは優花の実家だった。

 スマホを返却する為に来たのだが、玄関にいても漂ってくる美味しそうな匂いに抗う術は理恩にも梢にもなかった。


「おじゃまします」


 家の中に上がると、前回とは打って変わって部屋の中は明るかった。

 それに、ゴミも衣類も散乱していない。優花の母親自体の雰囲気も明るくなったようだ。

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