8-5
理恩が金色に輝くオーラを身に纏うと、悪霊たちは一瞬にして散り散りに砕け、その粒子は天へと昇っていった。
「……あなた、凄いのね」
沙耶香が感嘆の声を漏らすと理恩は改めてカラコンと瓶底メガネを装着した。
「まあな」
「私のこともこんな回りくどいことしなくても送れたんじゃない?」
「それじゃ本当の意味で成仏出来ないだろ。俺もこの学校の生徒だ。先輩には敬意を払わないとな」
「頼もしい後輩ね。それにこの子も」
沙耶香はそう言って梢の胸へ手を置いた。
「ずっと私に寄り添ってくれてたわ。優花が友達になれたかもって言ってたのもわかる。優しい子よね」
「だいぶ抜けてるけどな。少しは成長したかもしれねえな。って周先輩、いつまで床と仲良くしてんだ」
「た、立てないんだよ!」
「ったく、世話のやける先輩だな」
へっぴり腰な周を理恩が抱えながら小嶋家に行くと、リビングに小嶋尊とオカルトミステリー研究部、全員の顔が揃っていた。
「……あ、周……無事か?」
驚いたことに尊は周と対面して開口一番にそう言った。
「……アホなの? 人の心配してる場合? 自殺未遂したって?」
「部屋から飛び降りようとしてたの。焦ったわ」
そう答えたのは神楽坂だった。
「理由を聞いても何も言わないんだ。一体何があったんだよ」
今度は大森が理恩へ訪ねた。
「尊先輩を助けてくれてありがとうございました。ちょっと尊先輩に話があるから大森先輩たちはここで待っていてください」
「え、ああ。だけど後で聞かせろよ?」
「勿論」
憔悴しきった尊と周の背中を押しながら理恩は2階へと上がった。その後ろから梢に憑いたままの沙耶香が後をついていく。
「兄ちゃん、ごめん」
4人は周の部屋に入った。部屋の扉を閉めるなり、周は尊へ深々と頭を下げ、謝罪した。
「え……なに?」
「沙耶香のこと、それにこの家での俺の事、色々ごめん。謝って済むことじゃないのはわかってる。俺はこれから警察に自首しに行くよ。兄ちゃんは何も知らなかったことにして?」
いきなりの出来事に頭がついていかないのか、尊は口をぽかんと空けている。
「ま、まさか言ったのか? この人たちに!」
「言ったよ、全部」
「なんで……どうして!」
信じられないと言った風に尊は周の肩を掴み、力なく揺らした。
「兄ちゃんは何も悪くないのに俺と沙耶香のことで罪の意識にさいなまれてたんでしょ。それが辛くなって自殺を図った……そうだよね」
「違う……俺は……悪くないなんて思わない。周を追い込んだのは俺もだ。周が沙耶香を好きだとわかっても譲ることが出来なかった。それに沙耶香を信じられずに責めたことだって……。俺は自分が嫌になっただけだ……。もう疲れたんだ……もう……」
――許してくれ。
そう呟いた彼の声は掠れていた。
野神慎也が見た、言い争うふたりというのは多分尊が沙耶香を責めていた時の事だったのだろう。
「いや、兄ちゃんは悪くない。何度でも謝るよ……謝っても許されることじゃないのはわかってる。沙耶香はもう戻ってこないんだから」
「やめろよ……警察はもう沙耶香のことを捜査してないんだ。今更蒸し返すことはないじゃないか! それとも、この人たちに自首しろと言われたのか!?」
そう言って尊は理恩と梢を睨みつけた。
「ああ、うん。言った。けど、最終的な判断は周先輩がしたから」
「君たちには関係ないだろ。これは俺たち兄弟の……」
「尊くん、自分を大切にして」
突然、自分の名前を口にした梢に尊は目を見開いた。
「な、に?」
わけがわからないと言った風に尊は眉をひそめた。
「信じられないだろうけど……今私はこの子の身体を借りてる。沙耶香なの」
「え……は? 一体何を……ふざけるのも大概に……!」
怒りの形相を浮かべた尊へ、周が静かに諭すような口調で答えた。
「本当だよ、兄ちゃん。沙耶香なんだ。俺もこの目で見るまでは信じられなかったけど」
ガタン――! と音を立て尊は派手に尻もちをついた。
「嘘だろ? 本当に……沙耶香なのか……?」
沙耶香は頷き、床から見上げるようにして自分を見つめる尊の視線に合わせるようにして両膝をついた。
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