7-2
やはり周は超常現象を受け入れられない人なのかもしれない。だとしたら、梢が尊を霊視すると言ったことも本心では受け入れていない可能性が高い。
「……周先輩って非科学的なものを信じてないですよね」
「ごめん、気分良くないよね。梢ちゃんはおばあちゃんのことも信頼してるし、実体験もあるんだから。俺は体験したことがないからさ。どうしても目で見た事しか信じられないんだ」
「いえ、ほとんどの人がそうだと思います」
「この世には目に見えないものが多すぎるよね……」
遠い目をして周が零したその言葉の意味をこの時の梢は単にオカルト的な事に対して言われたものだと思っていた。
小嶋家に到着すると、カーポートに車はなかった。
「ご両親は?」
「今日から旅行。一泊だけどね」
「え! 先輩行かなくてよかったんですか?」
「高校生にもなって親と一緒に旅行なんて行かないよ。それに兄ちゃんも置いていけないし」
「それもそうですね……」
梢は門を潜る時にさりげなく周囲を見渡した。
目視できるところに理恩の姿はない。
もしものことがあったらすぐに助けにいくとは言っていたけれど、一体どこに潜んでいるのだろうか。
念の為、鞄の中にあるスマホは理恩のスマホと通話が繋がったままにしてある。この為に部員全員で連絡先を交換したのはつい昨日のことだった。
「梢ちゃん……」
玄関に入り、扉が閉まったと同時に周は梢をふわりと抱きしめた。
「わ!」
予想していなかった周の行動に梢は素っ頓狂な声をあげた。
「しー」
そう言って梢の鼻先に周の人差し指が当てられた。梢の心臓が大きな音を立てて早鐘を打つ。静かな玄関ではその音が聞こえてしまうのではないかと梢は息を止めた。
「梢ちゃん、息して?」
「は、はひ」
至近距離に周の綺麗な顔がある。
しかし、その瞳を見つめたとき、梢は言い知れぬ寂しさのようなものを感じた。
「可愛いな、梢ちゃんは。あ、スマホの電源は落としておいて」
「え……。なんでですか?」
「疑ってるわけじゃないけど、おばあちゃんに聞かれたら恥ずかしいから」
「思いっきり疑ってるじゃないですか。盗聴なんてされてないですよ」
そう言いながら、理恩に盗聴されている事実に梢は冷や汗をかいた。
「本当かな」
じっと見つめられ、梢は観念したように視線を外した。なんにせよ、理恩に周とのやり取りを聞かれていると思うと恥ずかしさで死ねる。
「……わかりました」
梢は鞄からスマホを取り出すと画面を周に見えないようにして電源ボタンを長押しした。
「ありがとう」
頭の上から降る優しい声と柔らかな声に梢が視線を上げると、額に柔らかな唇が押し当てられた。
「ひゃ……」
「上がろうか」
腰が砕けてしまいそうになっている梢の手を取ると、周は微笑んだ。
惚けてしまいそうになる自分を戒めながら、梢は玄関から家の中へと上がった。
「どうする? すぐに兄ちゃんと話す? それともお茶でもする?」
「えっと、じゃあとりあえずお茶で」
「了解。ソファにでも座ってて」
「はい。すみません」
キッチンへ行く周の背中を見送りながら、梢は前回は座れなかったソファへと腰をおろした。
見た目通りふかふかのソファに身を沈めながら梢は深呼吸をした。
緊張する。
これから尊との対話も勿論だが、急激に距離を縮めてきた周に乙女としてドギマギとする。
「はい」
「ありがとうございます」
ソファの前に設置されたローテーブルへアイスティーのグラスをふたつ置いて、周は梢のすぐ隣に腰を下ろした。
「なんで逃げようとするかな」
「だって近いです」
「ダメなの?」
小動物のような目で見つめれるとダメとは言えない。
「……あ、周先輩って中学の頃は付き合ってた人とかいたんですか?」
うっかり雰囲気に流されてしまいそうな気がして、梢は無理矢理話題を変えた。
「聞きたいの?」
「聞きたいような、聞きたくないような」
「じゃあ聞かなくてもいいんじゃない? 俺も梢ちゃんの元彼の話とか聞きたくないし」
梢の元彼など形だけのものばかりだったから大した話にはならないのだが。そういうものかと納得をした。
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