3-7

 梢が言うと神楽坂は「図書室に全部揃ってるわよ」と答えた。



 それから、先日の七不思議についての記事を粗方まとめ終わると、1年1組に現れた生霊らしきものの話を部員全員に話す運びとなった。


「え! だからあの時俺たちを先に帰したのか」


 残念そうにして親指を噛んだのは大森だ。


「ちょっとヤバい感じだったんで」

「そっか……。でも生霊って生きてる人間に取り憑く疫病神みたいなもんだろ? なんで誰もいない教室にいたんだ?」


 確かにその通りだ。

 それに関しては理恩も梢も見当がつかない。


「何かを探してるみたいだった。それが何かはわからなかったけど、生霊は返しても何度も飛ばしてくる可能性があるからな。一応、本体が誰なのか知りたい」

「でも、サラリーマン風だったのよね……。一体誰を……あ! だから教員を?」


 理恩の言葉に神楽坂がポンと手を叩いたので、理恩は頷いた。


「今年度の学校誌にはいなかった。と、なれば」

「私がこの学校に入学してから離職したのは……。そうだ、野神先生!」


 “野神”という名前に全員が反応をした。


「野神って……もしかして野神沙耶香の父親?」


 梢は半信半疑で言ったのだが、神楽坂は「そのもしかして。野神さんのお父さんよ」と答えた。


「え、そうだったの?」

「え、知らなかったの? 大森くん。ちなみに英語の先生よ」


 どうやら神楽坂以外は知らなかったらしく、各々に「へー」と口にしていた。それから、全員で図書室へと移動すると、空いているテーブルをオカルトミステリー研究部の6人が占拠した。


「……いた! ほら、この先生だよ」


 神楽坂が教師が紹介された見開きのページの一箇所を指差した。


 それは2年前の春に発行されたものだった。


 つまり、大森たち――野神沙耶香が新入生だった頃のものだ。


 神楽坂が指を置いた場所には、優しく微笑んでいる男性が写っていて、その写真の下には“英語科:野神慎也のがみしんや”と印字されている。

 それをじっと見る理恩は眉間に皺を寄せた。


「どう?」


 横から梢が声をかけると、理恩は「だいぶイメージ違うけど、多分この人」と答えた。


「それって……つまり」

「ああ、この学校に娘の死に関係してる何かがあるのは間違いなさそうだな」


 生霊らしきものが、野神沙耶香の父親だとわかる前は、事件に関与している人物が、証拠となるものをあの教室に残してきてしまったことを気がかりなあまり、生霊を飛ばして探しているのかとも理恩は考えていたが、実の父親となるとその線はない。

 と、なれば野神慎也は何かを掴みながらも証拠を見つけられなかった。あんな風に魂を飛ばしてまで必死に探すものとなればそれしか思い当たらない。


「大森部長、神楽坂副部長」


 理恩は初めてふたりの名前に役職名をつけた。


「なんだ、室生!」

「なに? 室生くん!」


 その事が余程嬉しかったのか、はたまたいよいよ役に立てると思ったのか、ふたりのメガネの奥の瞳がキラキラと輝いていた。


「なんとかして野神先生と会いたい。元生徒として連絡をとって欲しい」

「喜んで!」

「任せてちょうだい!」


 やっと事件の真実に一歩近づいた――誰もがそう思った。

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