車屋しゃん

パクスヤナ

1話完結

うちは爺さんの代から続く中古車を販売する車屋だ。


もう20年近く前、私がまだ車屋になって半年くらいの時だった。新規の客が来たから、逃すものかと必死で売り込みしてたんだ。幸い、すぐに商談はまとまって即日納車となった。


しばらくして。そう数時間経ったくらい。カンカンに怒った客がさっき売ったばかりの車を荒い運転で乗り付け戻ってきた。

「どうなってるんだ!CDを入れたら音は鳴らないし壊れて出すこともできない!ちゃんとチェックしてから販売したのか!」


私は平謝りで、たしかにチェックしたはずのCDプレーヤーのボタンをあっちこっち押したりしてみた。その間もその客はまくし立てるように店の悪口を並べてこんなところで買うべきでなかった!などと騒いでいる。


長い数分が経過して、私の油汗も底をついた時に5歳くらいの娘さんがトコトコと歩いてきた。訝しげに私と茹で蛸みたいな父親の顔を交互に見て言った。


「くるま、おなかすいてたのね?」


それを聞いて私と客は顔を見合わせると、茹で蛸は、はっとしてしゃがみ込み娘さんの顔の前へ笑顔を作って


「そうだな、CDたべちゃったな」


私の父が少しグレードの高い代車を用意して、キーを客に渡し深々とお辞儀をしてから、娘さんに向き直りお嬢ちゃんの車にたくさんご飯あげるからな、もうだいじょうぶ。すまないね。と言うと茹でてない蛸が言い過ぎただのよろしく頼むだのを早口に喋って穏やかな運転で店を後にした。


「忘れもしないですよ」

「私も朧げながら覚えています、父のせいで嫌な気持ちにさせてしまい申し訳ないです」

「とんでもない、その節はたいへん失礼しました」

「もう昔の話ですし…では、今回は満腹になってる車をいただけますでしょうか」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

車屋しゃん パクスヤナ @pax-yana

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る