第25話 奮闘する三王女

 戦闘機と艦艇が私たちに向かって集まった来た。空を覆う機械兵器。太陽光を遮り周囲は暗くなる。しかし、モニター画面は敵を示す赤いマーキングで真っ赤に染まっていた。


「次、実体弾100連発。出すよ!」


 ローちゃんが叫ぶ。ロクセの両肩と胸と背中と両腕と両脚に、金属製の大きな箱が装着された。


「目標を勝手に追尾する誘導弾だから、気にせず全部撃ちまくって!」

「了解。撃てえ!」


 シルヴェーヌが叫ぶ。金属製の箱の中から、白い煙を吹き出しながら、無数の弾体が発射され、それらは戦闘機や艦艇に次々と命中していった。


「実体弾のラックをパージして」

「ラックをパージ」


 箱型のラックはバラバラになって周囲に飛散した。


「次、残りの雑魚は光弾で片付けるよ。リリちゃんは歯を食いしばれ」

「任せて」


 ロクセの両肩が眩く光る。シルヴェーヌの「撃て」という合図と共に、無数の光弾が放たれた。


 これは霊力を消費する攻撃だ。発射の瞬間、全身から魂を抜かれるかのような喪失感を味わう。そして、モニター右上のグラフが三分の一ほど消失した。あはは。そりゃそうだ。私は鋼鉄人形の心臓になった。威力のある攻撃をすれば、相応の霊力を消費するのは当然だ。


 しかし、今の攻撃の効果は相当なものだった。


「戦闘機の撃破125機、駆逐艦6隻撃沈。巡洋艦2隻炎上中。空母も炎上中で艦載機発艦不能。ついでに墜落した艦艇と航空機が地上部隊に約15%の損害を与えたよ」


 ローゼの報告だ。良い感じで航空機と艦艇にダメージを与えたようだ。


「巡洋艦からの砲撃、来ます。防御シールド展開。シルちゃん。霊力消費に注意」


 注意って?


 生き残っている艦艇は4隻。そいつらが一斉にビーム砲を射撃して来た。さっき私たちが使ったビームライフルとは比較にならない高出力のビームだった。でも、ロクセを覆う透明なシールドはその攻撃を防ぎ切った。私は再び霊力を消費し、少しだけど目まいがした。


 巡洋艦の放った閃光の槍はロクセのシールドに接触し、眩い光と高熱が周囲に拡散した。その影響で生き残っていた戦闘機は爆発し、私たちが立っていた空母は炎に包まれた。そして地上にも激しい炎が広がっている。


「何てことを。味方を犠牲にした」

「この空母は持たないわね。一旦、地上に降りるよ」


 私たちが足場にしていた空母は、爆発を繰り返しつつ地上へと落ちていく。他に二隻いる空母は、炎上しながら王都から離脱していた。


「さあ、次は人型兵器が来るよ。装備は剣と盾に変更します」


 ローゼの言葉と同時に、ロクセは大型の盾と長剣を携え、ふわりと地上に降り立った。


 8機いたという人型兵器だが、そのうちの6機が私たちへと向かって来ていた。残りは恐らく、バーナード大尉のレウクトラと戦っている。どれも12メートル級で、ロクセよりは少し背が低い。モニター上の情報によれば、一機だけ赤いのがミスラ。他の緑色の奴がワシャだ。ミスラが指揮官機で能力値が高い。こいつを先制して倒すべきだろう。


「ローちゃん。あの赤いのを先にやっつけるよ」

「わかってるね、シルちゃん」


 ロクセは例のほぼ瞬間的な移動でミスラとの距離を詰めた。そして右手の剣を突き出した。この鋼鉄人形の素早すぎる動きに面食らったのか、ミスラの反応が遅れた。ロクセの剣は、奴が持っている盾の隙から胸の部分を突き刺していた。そして次は、一番近くにいたワシャに盾を構えてぶちかました。緑色の機体は関節の隙間から煙を吹き出して倒れ、動かなくなった。


「姫様、お見事です」


 声をかけてきたのはバーナード大尉だった。鋼鉄人形レウクトラを駆り、既に2機のワシャを倒して私たちの援護に駆けつけてくれたのだ。


「残りの人型兵器は私にお任せください。姫様方は、出来れば上空を周回している巡洋艦を始末してください」


 ドールマスターと呼ばれる鋼鉄人形使い。アルマ帝国の英雄だ。彼の剣さばきは敵方の人型兵器を軽く凌駕しており、一気に4機のワシャを倒していた。


 巡洋艦がバーナード大尉に向けてビームを放った。彼のレウクトラは、その光の槍を大きな盾で受け止め、その高熱を拡散させた。周囲に再び爆炎が吹き上がる。


「シルちゃん、リリちゃん。とっておきを使うよ。霊力子ビームであの巡洋艦を墜としちゃお」

「わかりました。撃って!」


 ロクセの額から眩い光芒が放たれ、巡洋艦を貫いた。二回の射撃で二隻の巡洋艦は爆発してバラバラになった。これで、王都の空を覆っていた敵戦力があらかた片付いた事になる。しかし、ロクセのモニター右上にあるグラフ……私の霊力を示している……は、ほぼ全て消費している。残りは僅か、髪の毛一本分くらいしか残っていない。


 残りの地上部隊はどうする? 撃ち落とした戦闘機や艦艇の残骸で数を減らしたとはいえ、まだ十分な戦力を持ったままだ。これを叩かなくてはいけない。今のところ体中の脱力感は大きいけど、死ぬって感じじゃない。まだまだ戦えそうな気はしている。


 そんな事を考えていたら、王宮の方で歓声が上がったようだ。遠方だったが、ロクセのモニターはその様子を拡大して映していた。


 王宮前のバルコニーに父王とセシル姉さまが現れた。その二人に対して、周囲に駐屯していた兵士たちが歓声を上げたのだ。


 まだ戦闘は終わっていない。危険だ。


 そう思っているのは私だけかもしれない。セシル姉さまは兵士たちに手を振りながら、その場で歌い始めた。


 これは……精霊の歌だ。音声はよく聞き取れない。しかし、詠唱の最後の部分だけははっきりと聞こえた。


『アラミスの大地を統べる大精霊よ。侵略者に対し裁きの鉄槌を与えたまえ』


 姉さまの詠唱が終わると同時に、王都上空は真っ黒な雲が沸き上がるように広がった。さっきまでは快晴だったんだ。

 その分厚い黒い雲は数カ所で渦を巻き始め、いくつもの竜巻を作った。そして、激しい落雷を周囲に撒き散らした。


 王都周辺にいた機械兵器の多くはこの竜巻に吸い上げられ、また、激しい落雷に撃たれていった。周囲に展開していた歩兵部隊も同様に、竜巻に巻き込まれ落雷に撃たれた。


 僅か十分ほどの間だったが、それで十分だった。セシル姉さまの歌は、約15万の地上軍を壊滅させていた。


「お見事です。セシリアーナ姫」

「セシル姉さま。セシル姉さま」


 バーナード大尉は姉さまを称賛していたし、シルヴェーヌはと言えば興奮気味に姉さまの名を何度も呼んでいた。


「それではシルヴェーヌ姫とリリアーヌ姫。敗残兵の掃討はパルティア正規軍に任せ、我々は王宮へと帰還いたしましょう」

「はい!」


 元気がいい返事をしたのはシルヴェーヌだ。私はまあ、霊力をかなり搾り取られたからか、物凄い脱力感に見舞われている。でもいい。侵略者を撃退できたのだから。

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