第24話 圧倒的な劣勢

「起きて、リリちゃん。敵の大軍が来たわ」

「ローちゃん、どうしたの」

「だから、敵が来たの。とんでもない大軍が」


 まだ眠っている私を起こしに来ているのは真っ黒な顔のローゼだった。ゆさゆさと体を揺さぶられている。


「わかった」


 私は目を開いて起き上がった。周囲には誰もいない。でも、ローゼが起こしに来てくれたのは間違いない。私は素早く戦闘服に着替え、隣のベッドで寝ていたシルヴェーヌを起こす。朝食も取らず、急いで格納庫へと向かった。


「おはようございます。リリアーヌ様、シルヴェーヌ様」


 既に帝国のドールマスターであるケヴィン・バーナードがいた。そして私と握手を交わす。次いでシルヴェーヌとも。


「今、お呼びしようと思っていた所です。まだ夜明け前ですが、大規模な敵部隊が迫ってきております」

「昨日より多いの?」

「地上部隊は昨日の十倍でございます。しかし、衛星軌道上から十数隻の艦艇が降下してきており、その中の数隻が空母だと思われます」

「空母って?」

「多数の航空機を搭載している大型艦です。今日は地上と空の両方を相手に戦わなくてはいけません」

「航空機って、あの三角形のやつね」

「そうでございます」

「敵の人型兵器はどうなの?」

「恐らく出てくるでしょう。出てきた場合は私が駆逐しますので、姫様方は戦車や航空機を潰してください」

「わかりました」


 空を飛び回るスピードの速い航空機がうじゃうじゃ出てくるんだ。多分、ロクセの光弾なら難なく落とせる。でも、それを多用するなら霊力の消費が激しいんだ。最悪の場合、私が命を落とす。しかし、そんな事を考えている場合じゃないと思う。


 私とシルヴェーヌはサンドイッチの簡単な朝食を取り、水筒とパンを持たされた。戦闘が長引いた場合、このお弁当で凌のげって事ね。


 私は昨日同様、金属製のベッドに寝かされた。そしてひも状の端末を全身に装着された。シルヴェーヌは機械のリフトに乗って、鋼鉄人形の胸にある操縦席へと直接乗り込んだ。


「ではリリアーヌ姫」

「いつでもどうぞ」


 私に接続された機械が稼働し、私は眩い光に包まれ何も見えなくなった。そして視界が回復した時、何もない荒地に立っていた。


「リリちゃん。また来たね」


 背後からローゼに声を掛けられた。


「さっきは起こしてくれてありがとう」

「いえいえ。どういたしまして」

「鋼鉄人形の外で会えるなんて思わなかった」

「まあね。リリちゃんが寝てる時ならお話できるよ」

「そうなんだ」

「うん。そうなの。今日は大変な戦いになりそうなんだ」

「聞いた」

「じゃあ行こう。でもその前にね、お願い」


 ローゼに抱きつかれた。私も彼女を抱きしめる。黒い鱗はすべすべで温かかった。その後すぐ、私はシルヴェーヌの後ろに座っていた。


「シルちゃん。準備はいい?」

「大丈夫。でも、周りは全て真っ赤だよ。どうなってるの?」


 私も驚いてしまった。モニター上は、空も陸も敵を示す赤いマーキングで埋まっている。


「ローちゃん。これ、どうしたらいいの。全部敵なの?」

「そうね。戦車が118両、装甲車と自走砲が合わせて224両。歩兵部隊約4万。キリジア公国の正規兵約10万。内2万は騎兵です」


 計算するのは面倒だけど、地上には大体15万の大兵力が押し寄せてきている。我が王国の兵力と数は同等だけど、装備が全然違っているからとても正面からは戦えない。


「上空には戦闘機が148機。駆逐艦8隻。巡洋艦4隻。空母が3隻。今、巡洋艦から人型兵器が8機、地上に降下しました」


 圧倒的な戦力差で叩き潰す気だ。でも、こんな大軍を相手に戦えるのか不安になった。私のそんな気持ちを察したのか、ローゼが話しかけて来た。


「きっと大丈夫だよ。今日は外部兵装を幾つか用意してあるからそれを先に使うよ」

「外部兵装?」

「そう。霊力をほとんど消費しない武器を持ってるの。今から出すね」


 ロクセの両腕が眩く光った。その後、ロクセは両腕に長い筒状の物を抱えていた。


「シルちゃん。これはビームライフルよ。これを使って、あのデカ物の空母をやっつけちゃおうね」

「わかったわ。ここからあの大きいのを狙ったらいいの?」

「長距離はダメよ。防御シールドがあるからビームは弾かれる。だから、空母の真上に飛んでゼロ距離で仕留めるの。シルちゃんはね。何となくでいいからイメージして。一回、練習してみよ」

「うん」


 遠方に大きな艦艇が見えている。ロクセのモニターはその拡大画像を表示していた。今、シルヴェーヌの意識がそこに集中している。何か平べったい形状で、艦艇上部の平らな部分から三角形の戦闘機がどんどん飛び出してきている。それが多分、空母ってやつだ。


「シルちゃん。あそこまで飛べって念じて」

「わかった」


 ロクセはふわりと浮き上がり、ほんの瞬きするくらいの間に二万メートル以上の遠距離を跳躍して空母の真上に来ていた。


「撃て!」


 シルヴェーヌの指示通り、ロクセはビームライフルを撃った。二本の太いラインが引かれている平らになっている部分。そこに大穴が三つも開き、内部が何度も爆発した。


「シルちゃん上手いよ。そのまま空母の飛行甲板上に降ります」


 ロクセは何と、空母の上に降りてしまった。


「大丈夫。ここなら敵も不用意に撃って来れない。私たちは狙い放題だよ」


 そういう事か。周りは全部敵だらけ。でも、私たちを攻撃すれば、味方を傷つけてしまう。連中が戸惑ってるうちにやっつけちゃおうって事ね。


「シルヴェーヌ。遠慮しないで撃ちまくって。連中は王都に集中している。後ろを取っている今がチャンスよ」


 ローゼの激に応え、シルヴェーヌがビームライフルを撃ち始めた。その青白く輝く光の刃は、付近で浮遊していた大型の空母を撃ち抜き、駆逐艦を三隻ほど大破させた。


 ロクセの瞬間的な移動のおかげで奇襲する事が出来た。しかし、圧倒的な劣勢である事は間違いない。王都上空を覆っていた航空機と艦艇が、私たちに向かって来ていた。ロクセがいかに強いか知っていても、こんな数の相手をして無事で済むとはとても思えなかった。




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