第28話・コータ旅の仲間が出来る
「はぁ。温まる~」
「なにこれ……」
ヘレンさんとサラさんはお椀に盛った豚汁をスプーンで一口味わうと、やはり驚きの表情を見せてくれた。
豚汁はお椀から直接飲むほうが美味しいと思うんだけどなぁ。文化の違いということだろう。
どれ私も味見を。
うん。美味しいが、スーパーマーケットの激安の豚肉より美味しい肉らしい。旨味が強く感じる。シルバーボアほどではないけどね。
「あー、コータ。お金を払うので二杯くれないか?」
キースさん、パリエットさん、ヘレンさん、サラさんが美味しそうに食べる姿に迷う周囲の中で、先に動き出したのはアレスさんだった。
背後には素直に頼めない様子のニクスさんもいる。
「いいですよ。どうぞ。ああ、お金は不要ですよ。ゴルバ退治の祝いで」
「ワルキューレと君が倒した祝いなんだ。払わないわけにはいかない。あっても困るものじゃない。受け取ってくれ」
私はアレスさんとニクスさんにも豚汁をあげた。
ニクスさんには昼間の件があったが恨みはない。前世で考えれば孫のような年齢だ。それほど憎めないと言ったほうが正しい。
キースさんがお酒をタダで配っていたので真似をしてみたが、私が祝われる側だったのか。言われるまで気付かなかった。
「ありがとうございます」
一度出したお金を引っ込めるなんて、イケメンのアレスさんのメンツを潰すことになる。ここは素直に受け取っておこう。
「では私も頂けますかな?」
アレスさんの動きは周囲の空気を一変させた。
タダで振舞うより頼みやすくなったのだろうし、危険ではという感覚が薄れたんだろう。アレスさんたちが護衛していた商人のバードさんが頼みに来ると、ほかの商人や冒険者の皆さんも食べたいと言ってくれた。
「これは初めてですな。こんな贅沢なスープを野外で食べられるとは」
「いや、わしは昔一度だけ似たようなものを食べたことがある。あれは遥か東の果てだったな。これほど美味いものではなかったが……」
たき火を囲んでみんなで宴会だ。驚いたのは味噌と思わしき味を知る壮年の商人さんがいたことだろう。
『パンパカパーン! 料理スキルが3に上がりました! スキルは一般的にレベル3で一人前です。頑張ってくださいね!』
みんなに豚汁を配り終えると女神様の声が料理スキルのレベルアップを教えてくれた。
そうかスキルはレベル3で一人前か。早くも一人前なのか。一流目指して頑張ろう。
それにしても結構お金が稼げたね。料理人にでもなったみたいだ。
冒険者も性格的に合わなそうだし、旅の料理屋さんにでもなろうかな? それならキャンプしながらできるし。考えてみよう。
音楽が聞こえる。あれはギターか? いや、リュートか?
旅芸人の人だろうか。若い男性だ。弾き語りだろう。なんの歌だろうか?
「えいゆうのうただ!」
「ぼくたちもおどろう!」
英雄の歌というらしい。精霊様が教えてくれたのだが、彼らが知っているということは有名な歌なんだろう。
楽しいことが大好きで歌ったり踊ったりするのが好きな精霊様たちは、さっそく騒ぎ出した。お願いだから自重してください。
精霊様たちは楽しく歌って踊っているだけでも、人間からすると奇跡になるんですから。
「アナタは何者? 精霊がアナタと一緒にいるだけで喜んでいる」
私の周りでは精霊たちが踊りだしている。一応光ってないので、まだ奇跡は起きてないと思う。
ただ、そんな精霊様が見える人がいることを私は忘れていた。
隣に来たパリエットさんは周りには聞こえないような声で、私に問い掛けてくる。
「喜んでいるとは、どういう意味でしょう?」
「アナタはエルフでも難しい、精霊とのコミュニケーションが完璧に取れている。精霊使いとしては私より明らかに上。それなのに、まるでエルフの村から出たばかりのルーキーみたいに常識がない」
なんかミスをしたのかな?
でもルリーナ様のことを言えば騒ぎになるだろうなぁ。私が精霊様とコミュニケーションが取れるのはルリーナ様のおかげだし。
言えないよなぁ。
「アナタの精霊たちに伝えて。力は使っちゃダメと。私じゃアナタの精霊に頼めない」
「はい。精霊様。力は使わないで楽しんでくださいね」
「えー!!」
「はーい!」
「にんげんさんが、たくさんいるからね!」
どうやらパリエットさんは、例の奇跡が起きるのを止めに来てくれたらしい。
少し不満げな精霊様もいるが、一応毎回奇跡がまずいことを知っている精霊様もいるらしい。
「あなた師匠はいなかった?」
「えーと、はい」
師匠かぁ。ルリーナ様は師匠じゃないよね。女神様だし。女神様は精霊様のこと何にも言ってくれなかったなぁ。
クラン・ワルキューレのみんなはいろいろ旅のことや常識を教えてくれたが、精霊様のことは詳しくなかったみたいだし。
「精霊の力はとっても危険。むやみに乱発してはいけない」
「はい。申し訳ありません」
乱発してるつもりはないんだけどなぁ。みんなで楽しんでいるだけなんだけど。
「よう、パリエット。楽しそうだな」
「私はしばらくコータと旅をする。この子の精霊の使い方はとっても危険」
えっ? パリエットさん?
パリエットさんにお説教を受けていた私のもとに、ほろ酔い加減のキースさんが酒瓶を持ってやってきたのだが、パリエットさんは突然私と旅をすると口にした。
決定事項ですか?
「いいぜ。ゴルバもいなくなったしな。またなんかあったら頼むわ」
対するキースさんの返事は軽かった。
私の意見は聞いてくれないのですか?
「えーと、パリエットさん?」
「ダメ。アナタは未熟。それに精霊が愛する者は、いろんな人族に狙われやすい。その結果、多くの人が不幸になることもある」
うん。丁重にお断りしようとしたが、問答無用で却下された。
「ぱりえっと、まじめなんだよ」
「でもわかいえるふだから、はじめてこうはいができてうれしいんだとおもうよ」
困っているとパリエットさんと一緒の精霊様が、パリエットさんのことを教えてくれる。
真面目なのかぁ。なんとなくそんな感じがするね。
ルリーナ様はどちらかと言えば、大らかというか大雑把だからなぁ。
「それではよろしくお願いします」
「任せて。立派な精霊使いにする」
うん。選択肢がないので、お願いするしかないみたい。
隣のパリエットさんの正面から向き合い、頭を下げて丁寧にお願いすると、僅かにほほ笑んで答えてくれた。
でも、私は精霊使いになりたいわけではないのだとは言えないなぁ。
「こーた。おやつちょうだい!」
「ぱんけーきがいいの!」
「わたしはほしくだもの!」
私の第二の人生の分岐点になるかもしれないのだが、精霊様たちは相変わらずマイペースだ。
食後のデザートが欲しいんだね。
「どうしたの?」
「いえ、精霊様たちになにか甘いものでもあげようかと」
「私も食べる」
精霊様たちにはお世話になっているから、要望には可能な限り応えたい。
ただ、甘いものと聞いた瞬間パリエットさんの表情がきらりと光ったような気がした。
どうやらパリエットさんも甘いものが好物らしい。
見渡すと宴会が盛り上がっていた。
ゴルバに殺された人たちのことを思い出して、涙を流したり彼らの分まで生きていこうと決意を固めている。
この世界ではこうして亡くなった人のことを話して送ってやるのかもしれない。
いつの間にかレクイエムにも聞こえる歌が静かな闇夜に響いていた。
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