第19話・盗賊よりご飯!

 今日は盗賊の拠点があった場所を、そのまま利用してのキャンプだ。


 先日と同じようにドーム型のテントとロッジ型のテントに、仮設トイレを設置すれば最低限の準備は完了だ。


 そういえばこの仮設トイレ。見た目はもとの世界のものだけど中身は厳密に言えば違うらしく、トイレに流した排泄物は完全に分解してしまうので、あとで始末とかしなくていいみたい。


 魔法の力なのか科学の力なのかよくわからないが。女神様の説明にはそこまで書いていない。書かれても私に理解できるか怪しいが。


「よーし、たんとお食べ」


 馬とスレイプニルには、森で精霊様たちが集めてきた果物や薬草なんかを与えていく。


 それなりに高価な果物や薬草があるみたいだが、私の場合は精霊様が集めてきてくれるからたくさんあるんだよね。


「それは本当かしら?」


「嘘じゃねえ! だから拷問はやらないでくれ!」


 一方アナスタシアさんは、木に縛り付けていた男から話を聞いている。


 目隠しをされているうえ、先程まで聞こえていた仲間の声が聞こえなくなったことで完全に怯えている。


 ただ同情はできない。


 彼らが内通して死んだ商人や冒険者がたくさんいる。


「なんだ!? なんだ、この匂いは! 俺を焼く気か!? いや毒殺でもする気か!?」


 男が騒ぎ出したのは、私がおやつにとマシュマロを焼いていた時だった。


 毒だなんて失礼な、精霊様たちのおやつなんですよ。焼きマシュマロのビスケットサンド。


「あげないの!」


「わるいこにはあげないよーだ!」


 精霊様たちに焼きマシュマロのビスケットサンドをあげていき、クラン・ワルキューレの皆さんにもお裾分けしていく。


 精霊様たちはワルキューレの皆さんにはあげても怒らないが、悪人の男たちにはあげたら駄目だと言ってる。


 あかんべーまでしてるのはどうなんだろう。


「甘~い!」


「ビスケットよね。これ? 私の知ってるビスケットはぼそぼそとして甘くないのに……」


「中の白いものも甘くて柔らかくて、少し香ばしくて美味しい!」


 男は煩いので口を塞がれて放置された。


 今日はコーヒーを入れて、焼きマシュマロのビスケットサンドでおやつの時間だ。


 甘い匂いに釣られたのか、森からベスタさんも戻ってきてみんな揃って焼きマシュマロのビスケットサンドを味わう。


 やっぱり女性は甘いものに目がないんだね。


「こっちは苦いよ?」


「これは、コーヒーね」


「リーダー知っているの?」


「ええ。南方で採れる実の種から作る飲み物よ。王都で一度飲んだことがあるわ。少量しか入ってこないけど、貴族には愛好者が多いと聞くわ」


 コーヒーはこの世界にもあるらしい。


 アナスタシアさんが飲んだことがあるみたいだけど、一度しかないとは。貴重品みたいだ。


「砂糖とミルクをお好みでどうぞ。甘くすると飲みやすいですよ」


 精霊様たちは砂糖とミルクたっぷりの甘いコーヒーにご満悦の様子だ。


 クラン・ワルキューレの皆さんは、以前に白い砂糖が貴重品だと教えてくれたベスタさんとソフィアさんがまたかと呆れているが、他の皆さんは驚きながらも砂糖とミルクを入れたコーヒーを恐る恐る飲む。


「ああ、美味しい」


「でもこれ一杯で大銀貨一枚はするわね。もしかしたら金貨を払っても欲しい人もいるでしょうね」


「きっ、金貨!?」


 多少好みに違いはあれど、味は気に入ってくれたようだ。


 ただしアナスタシアさんが一杯のコーヒーの価値を告げると、他のメンバーは顔を青くしてコーヒーを見ている人もいる。


 金貨一枚は確か十万円くらいだったかな。大銀貨は一万円だったような。今朝お祈りした時に、女神様がスキルのついでに金銭の価値を教えてくれたんだよね。


 まあ、それでも美味しいからと飲んでいるが。


「でも、さっきの話は本当なんですか?」


「ベントル伯爵がスレイプニルのゴルバと繋がっていたなんて……」


「さあ、私にも真偽はわからないわ。それにどのみち私たちはそこまで関与しないし、できない。あとは王国がどうするかでしょうね」


 食べ終えた精霊様たちは自由気ままに遊んでいるが、アナスタシアさんたちは男たちから聞き出したことを話している。


 この世界でもいろいろあるみたいだね。


 私はそんなことよりシルバーボアとかいう名前の銀猪をそろそろ捌こうかな。


 川の水で冷しながら血抜きをしていたんだよね。


 精霊様とスレイプニルに手伝ってもらいながら川から引き揚げると、クラン・ワルキューレの皆さんと一緒に解体していく。


 昔は家で鶏を絞めて食べることもあったものだし、私は大丈夫だがよく見ると生々しい光景だ。


 ただクラン・ワルキューレの皆さんは手慣れていて、どんどん解体が進んでいく。


 水は近くに小川があるので便利で、恐らく盗賊たちもそれを見越してここに拠点を置いていたのだろう。


 肉の見た目はやはり豚肉に近い。


『パンパカパーン! 食材鑑定のスキルをゲットしました。美味しい料理ができたら私にもご馳走してくださいね!』


 肉を部位ごとに切り分けて内蔵も丁寧に洗っていると、女神様の声がした。


 これは便利そうなスキルだ。昨日までの私だと思うなよ。スキルの使い方はメニューを見ればわかるのだ。


 えっと、食材を鑑定するのか。目利きみたいなもんだな。食材を見て鑑定と念じるといいのか。




シルバーボアの内臓。食材ランクA。


 巨漢な体の割に臆病で滅多に人前に姿を現さないためランクは高め。


 寄生虫の心配はないが、鮮度が命なので滅多に食べられることはない。




 ちょうどホルモンを洗っていたからだろう。鑑定スキルを使うと説明内容が文字としてなにもないところに見える。


 なんとも不思議だが、ホルモンも食べられるのか。


 焼肉がいいかな?


「かれーなの」


「こーた。かれーがたべたい!」


 夕食のメニューに少し悩んでいると、精霊様たちが私の頭から足までしがみついてカレーを要求してくる。


 焼肉にするつもりだったんだけど。


 精霊様には逆らえない。カレーにしよう。


 ホルモンはまた今度かな。


「コータのスープ美味しいのよね。楽しみだわ」


「そっちはスープじゃありませんよ」


 ホルモンの下処理を終えて肉と野菜を炒めていると、ソフィアさんは興味深々な様子で見ていた。


 暇なんだろうな。ベスタさんたちは森に狩りにいったが、留守番してる人は周囲を警戒するしかやることがない。


 しかも警戒は精霊様に勝る人はいないし。


「へぇ。また新しい料理なんだ」


「はい。私の故郷の料理で精霊様の好物なんですよ」


 米を炊くのだが、人数が多いのでダッチオーブンで炊こうか。正直鍋で米を炊く経験はあまりないので気をつけながら炊こう。


 カレーには日本のジャガイモと人参と玉ねぎがいいね。鍋にサラダ油で炒めてシルバーボアのお肉のいいところを一口サイズに切って、塩コショウで軽く味付けをして炒めていく。


 ああ、肉が焼けるいい匂いがする。


 これだけでご飯が食べられるかもしれない。


 食材を炒め終えると、しばし煮込む間にシルバーボアのロースの部分を切り分けておく。


 せっかく貴重な肉がたくさんあるんだ。カレーといえばとんかつだろう?


 脂身と身の間の筋に切り込みを入れて、肉の厚さをそろえるためにたたいていく。


 薄力粉と卵とパン粉とを用意する頃には鍋が煮えていたので、カレールーを入れて更に煮込んでいく。


 ああ、精霊様たちははやくもお皿を手に持ち待っているよ。


 気が早いなぁ。




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