8秒違いのパラレルワールド

さて今日は早帰りで夕方の5時に仕事が終わった。

私はホテナカ、つまりホテルの中にあるショッピングモールで経営している整骨院に行くつもりだ。

本当に腰が痛い。

ホテルの中に整骨院があるのは珍しいかもしれないがおおかた大勢いるホテルスタッフを客と見込んで開業

しているのだろう。

ショッピングモールには途中で《橋》がかかっている。

大きな2階建てのケーキ屋さんと、それと向き合うようにある、大きな2階建ての雑貨屋とをつなぐ橋だ。

私はショッピングセンターに架かるこのような橋をみると不安を感じる。

「8秒違いのパラレルワールド」につながっていないか気にかかるのだ。

この「8秒違いのパラレルワールド」は、エレベーターの多いビルや、入り組んだショッピングセンターなどが

入口となることがまれにあり、そこはまさしく現在とは8秒間のズレがある。

どこかおかしく「昭和65年」製造の硬貨が普通に流通しているらしい。

ことにショッピングモールをつなぐ橋を渡ると高確率に「8秒違いのパラレルワールド」へ行けるという。

実際、この橋を渡ったために自分のドッペンゲルガーに会ったという噂もないわけではない。職場の上司からは「なんだかのミスを起こさないため」、この橋の就業中の利用の禁止を言われている。


しかし今は勤務後だ。遠回りしてエスカレーターを使って行ってもいいが、私は急いでいる。

私は念のために時計を見た。

なんとまあ、5時過ぎに退社したのに、時計の針は11時45分を過ぎた時刻を指している。

私はすでに「8秒違いのパラレルワールド」に来ているのか!

ただし、橋の向こうの風景はさして変わりがないようにも見える。

整骨院の看板もある。

私は日常に退屈していた。現実から逃避したかった。

だから橋を渡った。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る