111.補充に行こう

「実は家に使う木材がなくなりました」


村の東側にある家の建設現場に来ると、ルートヴィヒは残念そうに資材を置いていた場所を指さす。

俺が運んだ木材が山積みになっていたはずだが、跡形も無くなっていた。

まだ家は出来上がってはいないし、無くなるほど家の建築に使ったとは思えない。

では、何に使ったのか。答えは簡単だ。

南の塀など痺猿ひえんに壊された箇所の補修に充てたのだ。

使うこと自体は自由に使ってくれて構わないが、まさか無くなっているとは思わなかった。

北側の端に置いてあるのはモフモフが引き摺って擦り切れ、衝撃で亀裂が入っていたりする。

そんな木を家の材料に使う事は出来ない。

これは久しぶりに木を伐りに行く必要があるな。


「まあ、取ってくるのは良いんだけど、問題はモフモフがちゃんと聞いてくれるかどうかなんだよな」

「モフモフなら力持ちだし、ちゃんと運んでくれると思うんですが」

「目を離せば北の丸太置き場が増えることになる」


俺は過去に何があったのかを簡単に説明する。

北にある生残な丸太のように俺の心も疲弊したのだ。

ルートヴィヒはその話を聞きながら軽く引いていた。

あのような愚策は二度と踏みたくない。

では、どうすればモフモフがやる気を出してくれるだろうか。

俺の指示をちゃんと聞いて実行してくれれば、木を運ぶことはそんなに苦じゃないのだ。


「モフモフに御褒美を上げてはどうでしょうか」

「腹いっぱい食料を上げるとかか。村で蓄えた食料がすっからかんになるぞ」

「それなら、身に着ける物とか興味を示す物を、作ってあげればいいんじゃないですか」

「興味を示すものか。何かあったかな」


しばらく考え込んだ俺は、良い案を思いつく。

あるではないか、一度手に入れた物で無くした物が。

それを新たに渡してやればいい。


「今から俺とモフモフは木を運んでくる。その間に、ルートヴィヒはモフモフの御褒美を作ってくれないか」


そう言って俺はルートヴィヒに作り方を教えてやる。

俺も物作りの専門じゃないから詳しい事は省き、簡単な作り方と使い方を説明するだけだ。

それでもルートヴィヒは熱心に聞き入っていた。


「細かい事はルートヴィヒが調整してくれたらいいよ」

「これは責任重大ですね!」

「そんなに気合い入れなくても、モフモフなら何でも気に入ってくれるだろ」

「これは気合を入れなくてはいけませんね!」

「人の話を聞いてるか」

「この任、絶対に果たして見せます! 命に代えても!」

「命はかけなくていいから……まあ、頑張ってね」


ルートヴィヒは腕まくりをして何処かへ行ってしまった。

ああいう性格の子だったっのか。

まあ、手先が器用なルートヴィヒなら俺より上手く作ってくれるだろう。

そうと決まれば、モフモフを連れて北の森へ行くか。

一応村長にも話しておいた方がいいだろう。

モフモフも村長の家にいるだろうし、いったん戻るか。


村長の家に戻ると、シュロさんとグリュイの姿がなくなっていた。

仕事をしている村長に丸太の補充に行くと伝え、モフモフを引き連れて外へ出る。

早めに仕事を終わらせるのと御褒美の事もあるので、全部のモフモフを連れていく。

村から出るときも、近場へ散歩でも行くような感じで見送られた。

これは俺の実力を認められてきたと取っていいのだろうか。

前回丸太を集めていた時よりも成長しているとは思うが、村の周りにはまだ俺の知らない場所が広がっている。

俺は改めて気を引き締め作りかけの溜池へと歩を進めた。


歩きながらも今回の仕事には御褒美がある事をモフモフに伝えておく。

御褒美の言葉にモフモフの鼻息も荒い。

今回は何かいけそうな気がする。

溜池用の窪地に着くと、俺は壊れていないかざっと見て回った。

モフモフと競い合って踏み固めていた甲斐もあって、それほど崩れている所はない。

そのまま水路沿いに北上していく。

水路も多少は土や葉などが積もってはいたが、水で押し流せるだろう。

しばらく歩くと切り株だらけの場所に出た。

前回木を伐った場所だ。

前回同様、木を川で流すとなると川沿いの木を伐るのが楽なのだが、どうすべきか。

西へ行くと食肉植物の群生地に入ってしまう。

東は狩場と被りそうなのであまり行きたくない。

そうなると川を挟んで北側になる。

紅晶蜘蛛こうしょうぐもの糸は見当たらないからここまでは来てないとして、他の魔物が出るかもしれない。

前回は響岩蚯蚓きょうがんみみずの影響か魔物に出くわすことはなかったが、今回もそうとは限らないだろう。

だが、怖がってばかりいても何もできない。

これからこの村を出て世界を回ろうとしている男が、こんな小さな川も越えられないのか。

猛る思いを胸に拳を握る俺の周りで、真似をしだすモフモフに我に返った俺はさっそく川を渡る橋を作ることにした。

橋といっても丸太を並べて倒しただけの簡単なものだ。

荷物を運ぶわけでもないし、渡れさえすればいい。

一応、丸太の両端を土で固めて固定しておく。

これで、多少の事では崩れたりしないだろう。


「よし、モフモフこれから木を伐るからちゃんと川へ流すんだぞ」


振り返った俺の前にもうモフはおらず、川を見下ろしていた。

気になって俺も川を覗く。

水面から浮き出た白い顔がこちらを見ていた。

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