84.新たなスキル
俺が取ったスキルは回復ではなく復元。
スキル画面内には以下のように表示されている。
【スキル名】復元
【C T】なし
【効 果】
・対象に触れ、戦闘中に受けた怪我を戦闘開始時の形態へ戻す
・復元者は戦闘から排除
・蘇生不可
回復と違うのは、このスキルは戦闘中にしか使えないが、状態異常も治すことができる。
蘇生不可は同じで、戦闘中に復元が間に合わず死んでしまった場合、戦闘が終わってしまった場合は効果はない。
勢い余って敵を倒してしまったり、敵が逃走し追いきれなかった場合は戦闘終了となる。
改めて戦闘の続きを始めても戦闘開始時間は切り替わってしまう。
そうなる前に使用しなくてはいけないが、復元対象者はその戦闘から排除される。
極端な例を挙げれば、戦闘開始と共に使用すると対象者は戦闘をすることなく排除され、その戦闘には参加できなくなる。
回復に対して条件がきつい印象があるが、よく考えればそうでもない。
排除され戦闘開始時に状態が戻るという事は、その戦闘から安全に逃げれるという事だ。
どういう排除のされ方かは状況によって違うが、他の仲間に助けられるか、俺が場所を変えれば済む話だ。
怪我を回復しても追い打ちにあい、更に深手を負うこともあり得る。
より安全を考えれば、対象者がその戦闘に参加できないように規制をかけるのが良いのだ。
そして、規制をかけることでCTが無くなる。
回復でもCTはなかったが、対象者の回復に時間がかかった。
戦闘中ではなく、戦闘後に使うことに重きを置いていた俺はそれでも使えると思っていた。
しかし、俺は世界中を回って病人を助けて回りたい訳でもなく、戦地を駆け巡って怪我を治す聖人でもない。
例え俺がなったとしても、器用に立ち回れる男じゃない。
金の余った亡者に捕まり、良いように使われる運命を辿るだろう。
身近な者が救えればそれで良い。
そう考えると、死亡率が高いのは何時なのかとなる。
答えは戦闘中だ。
地味に回復が出来ようと死んでしまっては意味がない。
例え教会で生き返ったとしても情けないと言われる始末。
教会で生き返るかも分からないのに、引き擦っていく訳にもいかない。
死なないようにするには、この戦闘ではもうその人は太刀打ちできなかったのだと割り切り、戦闘から抜けてもらうしかない。
考え方によっては回復の方が酷いだろう。
怪我の完治を待たずして戦わせようというのだから。
画面を確認し終えた俺は、シュロさんへ走り寄る。
体の半分ほどが、地面と
怪我の状態は酷いとしか言いようがないが、まだ息はある。
シュロさんに触れ、復元を使う。
シュロさんの体を覆うように碧く薄い膜が広がる。
「どういうものか分からないけど、その効果は何かをしたって事でいいんだよね」
真後ろにグリュイが立っていた。
驚くことはない。
塀の上でこいつのやりたい事は分かった。
ならば、ここにいることも当然だ。
グリュイはここをステージに見立て、シナリオ通りに俺と村人たちという駒を動かしたいのだ。
俺は振り下ろされて地面に横たわるクメギへと駆け出す。
ムクロジは霧となり、消えていた。
作戦通りとは言わないが、ムクロジの骨を拾うために二度クメギの前でムクロジを死なせたことになる。
これがクメギにどういう影響を与えるのか。
その考えを遮断するようにボス猿が吼える。
既に身体強化・風を使い、スピードは上がっている。
ボス猿の巨大な爪を掻い潜りクメギに滑り寄った。
腹に大穴を開け、すでに意識はない。
復元を使い薄い膜に包まれるのを見て、俺は間に合ったのだと安堵した。
「クメギも頼む」
「もちろん」
シュロとクメギ、ムクロジの出番は終わった。
復元スキルの排除効果なのか、グリュイの策なのかは分からないが、これで二人は無事にボス猿の脅威から逃れ、元の姿に戻るだろう。
後は俺がこの戦闘を切り抜けるだけだ。
ボス猿の咆哮を真正面で受けた俺の魔力は一しか残っていない。
魔力が回復するまで逃げ切れるのか。
魔力が回復したとしても、俺の攻撃でボス猿を倒しきれるのか。
不安が俺の前に立ち塞がる。
巨大な爪が唸りをあげて迫りくる。
この爪の先が少しでも俺をかすめ取れば、俺は痺れて動けなくなるだろう。
連続して反対からも爪が空を割く。
少しでも気を緩めれば、次の瞬間には地に伏しているだろう。
今俺に出来ることは、必死に攻撃を躱し魔力を貯めること。
「報告があります」
ボス猿の爪を躱し地面を転がった所へ、ナビの声が聞こえてきた。
「今忙しいの見て分かるだろうが!」
「報告は義務ですので」
ナビの方を見ずに、俺は怒鳴るがナビは気にした風もない。
こいつはナビゲートをしたいのか、邪魔をしたいだけなのか。
こんこんと問い詰めたいが、今はそんな余裕がない。
「手短に言え!」
「では、手短に報告します。ポイントが増えました」
「今いう事かよ!」
俺の横ぎりぎりを爪が通過していく中、ナビに怒りの唸り声をあげていた。
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