67.駆け引き

村の門で俺達を待ち受けていたのは村長とシュロさん、ルアファだ。


「君には色々と話さなければならないようだね」


何かを言おうと進み出たルアファを制し、村長が俺を見る。

こちらにも言いたい事がある。

話し合うために俺達は村長の家へと進む。

小さい村だ。他の人も気付いているのだろう。

困惑の混じった表情で見送られた。


「さて、何処から話せば良いかね」


村長と俺が向き合う様に家の中央に座る。

村長の後ろにはシュロさんとルアファ。

俺の横にクメギが座り、壁際にグリュイが立つ。


「これは村内だけで解決する問題だ。部外者は外してくれないかね」


早速、ルアファが俺に噛みついてくる。


「この村に招き入れた時点で、彼はこの村の一員だ。ルアファ、君も彼の作り出した水で命を繋いでいるのだろう。他にも彼がこの村に貢献してきた事は多い」


村長の言葉にルアファが押し黙る。

しかし、憎々しげに俺を見る目は変わらいない。

なぜ、こうまで憎しみを向けて来るのか。


「あの洞窟に行ったという事は、洞窟で起こった事は知っているのだろう。そして、クメギに対して取った村の行動も」

「ええ、全てクメギに」

「それを知って君は何をしようというのだね」

「クメギを思い、村が取った行動は間違ってたとは思いませんが、最善ではなかった。その結果、クメギは今でも苦しんでいます。身近で見て来た人達が気付いていなかったとは思えませんが」


言葉を止め、俺は村長の後ろの二人を見る。

シュロさんは口を固く結び、悲しそうな表情を見せていた。

シュロさんだって弟の存在を村に忘れられたいとは思わないだろう。


「クメギいつまでそんな奴の横にいる、こっちに来なさい。今回の事もそいつに唆されただけであろう?」


ルアファはクメギの事に気付いていないのか。

気付かせまいとしているのか。


「お父さん!」


クメギが怒った顔でルアファを睨みつけ、松明で殴られたことを思い出したのか、ルアファは顔を歪め頭を擦った。


「君になら最善の方法を取れるというのかね」

「クメギが考えているのはムクロジを手厚く埋葬する事。村の人も同じ事を思っているはずです。今の状況だから、そう言えるのかもしれませんが……」

「確かに危険な魔物がいない状況であれば可能かもしれん。しかし、それに人手を割くほどこの村は余裕がない」

「そうかな。昼間おじさん達が暇そうに洞窟覗きに来てたよね」


今まで黙っていたグリュイがルアファを見る。


「娘が連れ去られたと知ってやった事。村の一大事に動いて何が悪い」

「何が悪いって……解ってやってるよね」

「子供だと思って大目に見ていればこのような言動。関係ない奴はすぐに出て行け!」


顔を真っ赤にして怒るルアファに対して、グリュイは面倒臭そうに手を広げ天を仰ぐ。


「関係ない所か、グリュイなしでは成し遂げられません」


俺は洞窟で起こった件を村長達に説明した。


「やはり、こやつらは村を危険に陥れようと考えているだけだ!」


ルアファが立ち上がり俺に唾を飛ばす。


「陥れるならこうやって言う訳ないでしょ。別に僕はやらなくても良いんだよ」


グリュイが呆れたように両手を頭の後ろへ回す。

このままルアファの言動に耳を傾けていては話が進みそうもない。

俺は村長にどうにかしてくれと目で訴えかける。


「ルアファもう良いのじゃないか」


村長がルアファに向き直り、ルアファが怒りを噛み殺して押し黙る。


「ああ、この話はもう良い。クメギ、帰るぞ!」


ぎりりと歯を鳴らし立ち上がると、ルアファはクメギの腕を掴む。

クメギは少しの抵抗を見せたが、ルアファはそれを許さずクメギを引きずって出て行ってしまった。

クメギの力なら逆らえると思うが、親という事で気を使ったのだろう。


話元のクメギにはまだいて欲しかったが、ルアファがいなくなった事で話が進み易くなったとも言える。


「ルアファを悪く思わないでくれ。娘思いの親なのだ」

「その思いで僕たち襲われたんだけど」


話の内容に関わらずグリュイの口調は軽い。

村長はそれを静かに見つめた。


「ルアファにだって君達を倒せる力はないと分かっていただろう。君達から見ても一目瞭然だったと思うが……」


確かに村人を数人連れてこようが、負ける事はないのは実証済みだ。

俺は黙って頷く。

ルアファは俺達を倒せないまでも、村から追い出せると思っていたのだろう。


「実はルアファの妻はクメギを生んだ時に死んでいてな。ただでさえ子煩悩だったルアファは更にクメギの行動に目を掛けるようになった」

「クメギを思うならなぜ狩人にしたんですか?」

「クメギの地位を考えての事だろう」


シュロさんが以前、話していた。

狩人をまとめ上げる力を付ければ、村で地位を確立できるってやつだ。


「僕、読めちゃった」


俺がグリュイを見ると自慢げに仮面の鼻を擦っていた。

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