53.危険は何処から
モフモフが土に潜り、水の魔物を見に行く手段は無くなった。
だからといってこのまま放っておく訳にもいかない。
モフモフには夜だけでも北に注意を払って貰おう。
接触ではなく遠方からの警戒だけなら戦闘になる可能性も低い。
村にはどう伝えるか。
その前に、村がこの状況でどう動いているかを知ったほうが良いかもしれない。
上手くいけば、その動きに合わせて水の魔物を警戒するように持っていける。
モフモフに北の警戒を頼み、俺は村に戻った。
この時間はまだシュロさんは狩りの最中だろう。
村長に聞いてみるか。
村長の家に入ると、補佐官達との話し合いがまだ続いていた。
何時まで話しているのだろうか。
まあ、前代未聞の事が起こったのだから当然か。
でも、困ったな。これでは村長に話を聞く所ではない。
少し待ってみるかと村長の様子を伺っていると、横で話を聞いているルーフと目が合った。
ルーフなら何かを知っているかもしれない。
俺は手招きしてルーフを家の外に連れ出し、村の状況を聞いた。
「状況ですか? 村の中は今までと変わらないと思います。変わった物は食べ物ですね。食材から肉が減ってます。日持ちする肉も多くないので、このまま魔物が戻らないと、肉なしの食事になってしまいます」
食材以外にも魔物が取れないと皮が取れなくなる。
すぐに必要になる物ではないが、物入や服など消耗品である事は変わらない。
定期的に新調するのなら取れないのは、食料ほどじゃないにしても困るだろう。
「村の外の様子は分からないのか?」
「今シュロさんとクメギさんをメインにあちこち調べていますが、魔物が戻ってくる気配はないらしいです」
「それは村の周辺に魔物が一切いないという事だよな」
「はい、そうですが。何か、気になります?」
「何処から戻ってくるのかも分からないのにどうやって調べているんだ?」
「魔物の通りそうな場所に罠を張ってるようです。魔物を仕留めるんじゃなくて通過したと解るだけの罠だそうです。それだと単純化できるそうです」
簡単に罠を作れるならそれだけ多く仕掛けられる。
そして、ポイントごとに罠があればそれを見回るだけで事は済む。
仕掛けるポイントは経験がいるだろうが、仕掛けてしまえば人員と時間が少なくても広範囲を回る事が出来るだろう。
「普段からそうしとけば狩りが楽になりそうだな」
「普段は狩りに行けば何匹かは見かけるってシュロさんが言ってたんで、必要ないんじゃないですか?」
確かに根こそぎ狩っていくわけでもないし、見知った森の中を行くのだとしたら、罠が無くても問題ないか。
「それで、どんな罠なんだ?」
「引っ掛かっても躓く程度の浅い落とし穴です。遠くからでも判り易くしているらしいので、短い移動で広範囲を回れると言ってました」
落とし穴ならそこら辺の枝や葉っぱで簡単に作れる。
浅い穴なら掘るのも時間は掛からない。
簡単に作れるなら簡単に壊れるだろう。
魔物以外の要因で壊れる事もあるだろうが、その時は周辺を探れば原因がわかるはずだ。
魔物かどうか判別できれば良いのだ。
でもこの罠だと水の中は無理だ。
やはり水の魔物の事は誰も気付いていないと考えた方が良い。
村から水辺までは距離がある。相手も地上を長々と歩ける魔物じゃないだろう。
水の確保は俺が水を出しているから問題ない。
問題があるとすれば肉の代わりに魚を取ろうとなった時だ。
まだ日持ちする肉があるとはいえ、無くなる前に魚を取ろうとするだろう。
村から行くとするなら一番近い東の川。
昔は水を取りに行っていたというし、あそこは岩が多い。
川の流れが弱まり、小さな魚が隠れる場所も多くなる。
川まで行くのも道沿いに行けば着けるしな。
もし水の魔物が流れに乗って移動していたら、接触する可能性が高いのは東になる。
「東の川周辺も警戒してるのか?」
「してると思いますけど、南を重点的に見るって言ってましたよ」
北と東は川で塞がれ西には村があるとなれば、魔物の逃げる方向は南が多くなる。
最後に目撃したのも南だ。重視するのも頷ける。
陸上に住む魔物という条件付きでだ。
目を向けない事が水辺に近づかない事なら良いが、そうではない。
意識せず不意に水から現れた魔物に襲われたら一貫の終わり。
北はモフモフに任せて東の様子を見に行くか。
「罠はもう仕掛け終わってるのかな?」
「今日中には終わらせたいとは言ってましたけど、どうなんでしょうね」
「それを知るにはシュロさん達の帰りを待つしかないか。助かったよ、ルーフ。邪魔して悪かったな」
「邪魔なんて、そんな。父の話を横で聞いてるだけですから」
謙遜しつつ、ルーフは家に入っていった。
俺は空いた時間を周辺の食糧集めに費やした。
魔物がいなくても森には食べれる物がある。
数は少ないかもしれないが、足しにはなるだろう。
足の怪我にモフモフの事もあり、狩りに加わる事も力仕事も出来ない。
「早く、治らないかな」
俺は溜息交じりに呟いた。
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