26.進め!村改良計画Ⅱ
村南東の角から北と西に延びるように塀を建てていく。
塀と言っても先端を尖らせただけの丸太。
丸太の先端に風玉を斜めに当てて一回転させれば、尖った丸太の完成だ。
それを小さなモフモフ達が掘った穴に突っ込んでいく。
南東にあった見張り台もいったん取り壊し、立て直した。
縄で縛って組み上げるのではなく、凸と凹を作り、木材同士を組合す。
専門的に建築に関わった事はないが、簡単な組み合わせなら見たことがあった。
そうする事で強度も上がり、より高い見張り台が出来上がる。
高いと言っても、森の上部が辛うじて見える程度だ。
木材を組む建築方法に興味を示した村人が数人いた。
村になかった技術。
色々と意見はあるだろうが、全て否定するという事もない。
興味を示すのは、大人より子供の方が多い。
子供でも仕事を持っているが、大人と比べれば少ない。
暇になると変わった事をしている俺の所に寄ってくるのだ。
ルーフもたまに顔を見せ、俺が作業する横で木を組み合わせたりしていた。
「これは、どう解けば良いのでしょうか?」
「知恵の輪か!」
ルーフは歪に組みあがった木材に頭を悩ませる。
そうやって悩みながら吸収していくのだろう。
塀の作業と並行して、木をどういう具合に組み合わせれば強度が出るのかなどを試行錯誤する。
その中で腕を見せたのはルーフではなく、ルートヴィヒという子供だった。
青年になりかけの子供と言った方が良いか。
始めは俺が試行錯誤でダメだと思った木材を組みなおして遊んでいたのだが、暫く見ないうちに北東の見張り台を組み上げていた。
「ルートヴィヒやるじゃないか、お前。大工としてやっていけるな」
建築素人の俺だが、ルートヴィヒの腕と知識の吸収は相当なものだと思う。
「後に道を誤ったと世界が嘆かなければ良いですね。大工なのか第九なのか」
ナビが何やら見当違いの事を呟いていたが無視した。
ルートヴィヒの出現で、俺は建築の引退を決意する。
それで泣いてくれる人は誰もいなかったし、村もいつも通りに回っていた。
「まあ、好きでやってた趣味みたいなものだしな……」
俺の悲しみを拾ってくれる人もいなかったし、村は今日も忙しそうに回っていた。
人はそうやって少しずつ強くなっていくのだろう。
俺は塀作りをメインに、昼夜、木を伐り続ける。
南側をほぼやり終え、東の出入り口まで塀を作り終えた。
出入り口にルートヴィヒの作った門が建ち、村としての見栄えも一段と上がった。
これはもう村を囲ってしまっていいのじゃないかという所で、シュロさんのストップがかかる。
これ以上南側の木を伐ると、痺猿を触発する事にもなり兼ねないという。
あの大軍を追い返したとはいえ、痺猿の生活圏が狭まれば、また村を襲おうとするはずだ。
取りあえずの修復と強化が出来た今、過剰に痺猿を刺激する事もない。
シュロさんの発言で俺の塀作りも一旦終了とした。
空いた時間をどう使うか悩んでいると、ログさんが話しかけてきた。
たまに畑の仕事を手伝ったりしていたが、何か問題があったのだろうか。
問題があっても俺に頼る程の事はしてないし、する力もないから、違う何かだろう。
話を聞くと、俺の作った土で作物を育てたいという。
魔物との関係で収穫物が減り、俺が塀作りをしている間に畑を広げたのだ。
元々あった薬草に加え、モフモフから聞いた傷に効く植物も新たに村で育て始めていた。
怪我を負うたびに森を探し回るより、村内で育てたほうが良い。
村の環境で育たない植物は、村の西側にある森へと移しているそうだ。
畑を広げたが、作物の種はそれほどなく、出来る量も少ない。
他の植物もある程度は森から植え変えた。
その上で場所が余っているという。
そこで、畑の一角を俺の作り出した土の実験として使うのはどうか、と言う提案だった。
俺もこの作り出した土でどうなるのか見てみたい。
始めは貴重な作物じゃなく、雑草と言える植物から植える事になるが、俺に不満はない。
了承した俺は、ログさんに連れられ畑の一角に行く事になった。
畑に付くと一畳くらいの大きさに地面が掘り返されている部分があった。
杭が建てられ、俺用の畑だと察しが付く。
「植物の根が届くだろう範囲は掘っておいた。大変だと思うが、頼めるかね」
「勿論ですよ」
俺は早速、土玉を作り落としていく。
今の俺で何処まで連続して作れるのか試す意味も含めて限界に挑戦してみる。
十二個作り終えた所で、目の前が暗闇に包まれた。
魔力切れの立ち眩みだ。
体力が付いた事で魔力も上がってると期待したが、関係無かったようだ。
畳一畳分とはいえ、深さもある。
一回に拳一個分しか土は作り出せず、安請け合いしたが、思ったより苦戦した。
他にも水は確保しておきたい。
魔物の状況が変わっている今、東の川まで水を取りに行くのは危険だからだ。
俺は腕時計を見つつ、水を落とし、土を落とし、落としてばかりな時間を過ごした。
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