25.崩壊と復興

勢ぞろいしたモフモフに加勢して、俺は痺猿ひえんを次々と槍で刺していく。

飛び跳ね、転がり、揉み合う痺猿に苦戦しながらも、なんとか近場は撃退できた。

水玉と威力差があり過ぎて、槍で仕留めようとすると時間がかかる。

その間にもシュロさんやクメギが痺猿を倒していたのか、南側へ行こうとした途端に痺猿が森に引き始めた。

深追いはせず村の状態把握を優先する。

南の柵が壊され、家も屋根に穴が開いていた。

怪我人も出ているようだ。


北側に塀を作っていたが、南側を優先して作っておくべきだった。

壊れた柵をもう一度作り直すくらいなら、塀を立ててしまった方が安全だろう。

この状況で村周りの木を伐っても、文句を言われる事はないはずだ。

痺猿も村を襲って失敗したのだ。すぐ村を襲いに来るとは考えにくい。

南側だけすぐ近くの木で塀を作る事を許可してもらおう。

俺は村長の家へ急いで向かった。


色々と把握できていない状況の中、怪我をした村人に肩を貸しながら村長の家に付くと、家の中は村人で埋まっていた。

心配そうな顔の人、怪我の手当てをする人、状況を説明する人。

その中に村長はいた。話を聞き、指示を出し、状況を整理していく。

今は話せる状態でないようだ。話は落ち着いてからで良いだろう。

俺は村長の様子を伺いながら、復旧に力を注いだ。


村の家は北、南西、南東に三軒ずつ建てられていた。

上空から見て線で結べば、正三角形が出来る。

今回の襲撃で、南東の三軒が被害にあった。

村の四隅にある見張り台の一つも傾いてしまった。

南だけじゃなく、東側も半分くらいは塀を作った方がいいかもしれない。

モフモフの壊した家が直ったと思ったら、今度は三軒壊れるという事態。

柵もない状態で南東の家に居続けるのも危険だから、村長か他の家に避難していた方が無難だろう。


壊れた柵は薪として使い、空いた場所には急拵えの柵が作られた。

倒した痺猿は、食料として用いるようだ。

逞しいと思うが、この村で生活していれば当然の事なのだ。


夕方過ぎ、俺は村長の様子を伺いに行った。

顔を出して覗くと相変わらず忙しそうにしていた。

今日は無理そうだな、と諦めかけた時に村長から声をかけられた。


「用事があるから来たんだろ。遠慮せず言いなさい」


なんだろう。いつも以上に村長の感じがする。


「こういう時くらいしか村長として仕事を出来ないからな」


俺の表情を読んだのか、村長は凛々しく笑う。

戸惑う俺を村長は招き入れ、引っ込めなくなった俺は塀の事を相談してみた。

補佐官は俺の案に反対だった。


「只でさえ怪我人が出て人手が足りないのだ。簡易的にだが柵は既に立ててある。塀を建てる事に人手を使うより他に当てるべきだ」


補佐官の一人に青筋を立てながら言われた。

人手がないのは俺だって分かっている。


「人手を借りるつもりはありません。俺は既に持っていますから」


俺の足元に群がる七つのモフモフに、補佐官達が驚きの表情を見せる。

村長の目も輝く。


「おお、ついに揃えたのだな! どうなるのだ? それで、どうなるのだね?」


七つ揃えても願い事が叶う訳じゃないからね。

期待の込めた目で見られても何も出ないから。


何とも言えない空気の中、小さく一つ咳きをすると、村長は何事もなかったかのように真面目な表情に戻る。


「人手が要らないというのなら、こちらから何も言うことはないだろう。いや、礼を言うべきだろう。ありがとう、君も十分気を付けてやってくれ。何時また痺猿が襲ってくるとも知れんでな」


村長が深々と頭を下げ、補佐官達が釣られた様に頭を下げたり、不満そうな表情を浮かべたりしていた。

まだ認めたくない気持ちがあるのだろう。

疑われても俺は正しいと思うことをやるだけだ。


次の日から俺はまた塀作りに精を出していた。

昼の間に出来るだけ多くの木を伐り倒す。

穴掘りと木の運搬はモフモフ頼みだ。

暗くなって辺りが見えなくなるまで、それを続けた。

夕食を挟み、今度は運んだ木を穴に突き刺していく。


火玉を松明代わりとした。

一度出したら引っ込められず、片手がずっと塞がった状態になるが、暫く掌の上で輝くのは便利だった。

作業が終わったら、中央の焚火へ火玉を落とせば問題ない。

今まで燃え広がる危険性を考えて使わずにいたが、松明としてなら危険はない。


「普通の火と魔法の火は性質が異なります。普通の火は燃え広がりますが、魔法の火は内側に向けて燃えます。単体であれば接触した部分が、範囲であれば範囲内が燃えるのみです」


火の範囲スキルは円周上に火が付き、そこから中心に向かって燃えていくのだと、ナビの説明が入る。

考えてみれば納得がいく。

もし火を身に纏った時に毎回、燃え広がってたら迷惑だしな。

そうは思いつつも、他の属性より使うのに抵抗があるのは否めない。


村の皆が寝静まった月明かりの中、俺は仕事で豆だらけになった掌を握りしめた。

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