5.仮初の仲間
村の信用を勝ち取るためにも、ここは俺が頑張らないといけない場面だ。
黒い侵入者と対峙する第一狩人の前に俺は躍り出た。
「ここは俺に任せろ」
「怪しい奴が何を言う。私達から言えばお前も敵だ」
「だから任せろって言ったんだ。敵同士戦えば敵が一つ減るんだぞ」
第一狩人と言い争ったおかげで、村人と親密になれそうだったのに振り出しに戻ってしまったが、黒い侵入者を倒せばまだチャンスはあるはず。
「俺達、腹減ってる! 邪魔するな」
二人の言い合いに焦れた黒い侵入者が瓦礫を跳ね飛ばし、第一狩人に突進した。
俺は第一狩人を突き飛ばし、自分も体を捻って攻撃を躱す。
黒い侵入者がバランスを崩した所へ、水玉を打ち込んだ。
苦鳴を上げて黒い侵入者が地面を転がる。
俺の攻撃は効いているようだ。
さっき時計で確認した時点で魔力は全快していた。
とっさに動いた割には戦えている気もするし、残り九発もあれば倒せるかもしれない。
「なんで邪魔する! あんたさっきと姿違うけど、臭い同じ。俺達を助けてくれた。俺達とあんた友達」
追撃をしようとしていた俺はその言葉に動きを止める。
よく見れば数十分前に俺が水をあげた魔物。
「お前、森に帰ったんじゃねえのかよ」
「食料探してたらここ見つけた。あんたも腹減ってるだろ? 山分けでもいい、片付けちまおう」
「だから待てって、俺はこの村に用があって来たんだ。片付けられたら困る」
「どうしてだ? 後ろの奴らはあんたの友達じゃない。なんで助けようとする」
ここは何としてでも止めなければいけない。
俺は黒い魔物に熱弁を振るう。
「俺はここの人達に会いに来たんだよ! わかるか? お前にも仲間がいるよな? その仲間にやっと会えたんだ。仲間を殺そうとする奴なんて友達でも何でもねえよ」
「あんたの仲間なんて信じられない」
黒い魔物が少し怯んだ。
このままいけば、事態を解決できるかもしれない。
「信じられなくても仲間なんだよ! なあ?」
熱く語った俺は振り返って、仲間たちを見る。
みんな俺に槍を構えていた。
俺の言葉じゃなくて、この状況を警戒したのかよ。
「意味の分からない事を言って惑わす気ね」
第一狩人が歯を鳴らし、後ろの村人も槍を持つ手に力を籠めている。
庇ったのに逆効果だし、どうすんだこの状況。
「ただ訪問するだけで村を半壊状態にするなんて、疫病神のような存在ですね」
「ナビ、また嫌味だけ言いに出て来たんかよ! 魔物を従わせたとか思われたのも、本当はお前が見えてるせいじゃねえのか」
「何度も言いますが、私は見えません。魔物との会話を疑われたのでしょう。種族間で言語は違いますから」
「人と話せる魔物じゃないのかよ!」
「言語で躓かれると話が進みませんので、あなたは全言語理解できる仕様です」
「てことは、この状況解ってるの俺だけか」
俺はわざとらしく嘆き悲しむ表情を作り、ナビに見せつける。
それでもナビは通常運転だ。
「そうなります。切り抜けられないと思うのであれば、元の世界に帰る手もあります」
「この状況で俺が戻ったらどうなる?」
「もし世界が残り、あなたがここで消えたとしても、魔物と村人どちらか弱者が消えるだけです。帰る事で世界が消えようとも、あなたに害はありません」
「そんなの後味悪すぎだろ」
俺は善人にも悪人にもなれない中途半端な人間で、世界を救うとか大口も叩けない。
だけど、手の届く範囲だけでも助けたいとは思っている。
この場に俺がいなくなれば、魔物と村人どちらが勝つにせよ現状より苦しむのは明白。
黒い魔物は腹が膨れれば良いんだよな。
そして、村人は怪しい奴がいなくなれば取りあえずは良いはずだ。
「あの魔物を村から追い出すのに少し食料を分けてくれないか」
「馬鹿言うな! この村にだって余裕はない」
俺の提案に噛みついてくる第一狩人。
俺だってこの村が苦しいのは分かっている。
でも、この状況が続いた方が苦しくなるんだ。
俺は何とかしようと頼み込んだが、第一狩人は受け入れず時間だけが過ぎていく。
このまま長引けば俺の抑えを聞かずに魔物が暴れ出すかもしれない。
「これを持っていきなさい」
切羽詰まった俺の前に小さなおじさんが村人を割って出てきた。
村人が口々に村長と言っている事から、このおじさんが村長なのだろう。
村長も村を壊されるよりはましだと考えたのかもしれない。
俺は葉っぱに包まれた食料を受け取り礼を言うと、魔物に駆け寄った。
「お前の目的は食い物だろ? 手に入れたから、この村から出るぞ」
そう言って魔物に食料を見せ、村の出口へと誘導する。
魔物は村人と俺を見比べ、ゆっくりと俺の後に付いてきた。
まさかこんな展開になるとは。
俺は魔物を引き連れて村を後にする。
もうあの村には簡単に戻れない。
ナビが言う様にこのまま悪の道に入ってしまうのだろうか。
不安を抱きながら暗い森の中を進んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます