第14話俺と後輩とお風呂


「先輩。ビショビショです」


 そう言って俺の後から家に入る静香は俺と同じように髪から水滴がポタポタと落ちるほど濡れていた。もしも今が夏なら、シャツが透けてこいつの下着が見えてしまったかもしれない。それほどの豪雨の中を俺達は走って帰ってきた。


「とりあえず、すぐに風呂を沸かすからお前は先に――ってなんでお前がウチにいるんだよ。自分の家に帰れよな」


 俺がいつもの流れで俺の後に続き俺の家に入って来た静香に冷静な対応をするもこの後輩は。


「だって、先輩の家でお風呂に入ったら私の家の家計には優しいじゃないですか。その上、先輩は後で私が入ったお風呂の残り湯に入れるんですよ。お互いにウィンウィンじゃないですか」

「何がウィンウィンだ。もしもお前がそれでウィンウィンとか思ってるなら、俺はお前が入った後すぐにお湯を抜くからな」

「なら一緒に入りますか?」


 何を言っているんだ、この後輩は。遂に頭が壊れたのか? 取りあえずこう返しておこう。


「静香。風邪をひいたんなら、今すぐ帰って暖かくして寝ろ。そうすればきっと、明日の朝には治ってるはずだ」


 俺が心配して言ってやったというのに、静香はまるで俺が的外れなことを言っていると訴えるように呆れていた。


「もしかして先輩。裸同士でお風呂に入ると勘違いしてませんか? 一応言っておきますが、違いますからね。私が言っているのはあくまでも水着を着て一緒に入りませんか、と言うことです」

「どっちも変わらないだろうが。そもそも二人で風呂に入るって狭いだろうが」

「大丈夫ですよ、先輩の家のお風呂は大きいですから」


 静香はそう言って自分の家へと水着を取りに行った。どうやらこれは俺も強制的に水着を探して来いと言うことらしい。ヤレヤレ、どこにしまったのか。



                *



 どうしてだろうか。静香の言動にとても流されてしまったような気がする。

 静香が水着に着替えるのを待っている間。俺は脱衣所の前に海パン一丁で佇み、ふとそんなことを考えた。そういえば去年は静香が受験生だったため、毎年の様連れて行かれていたプールや海に一度も連れて行くようにねだられなかったな。と言うことはきっと静香が持ってきたのは中学二年の時に海で着ていた水着か。


 大丈夫なのか?


 あいつの体つきは中学時代とは比べ物にならないくらい大人っぽいものになっているんだぞ。それなのにまだ成長期だった頃の水着で本当にあの二つのミサイルを隠すことが出来るのか。

 いや、きっと大丈夫なんだろう。そうだ。きっと新しい水着を買ってあるに違いない。そうでなければ水着で一緒に風呂に入るなんて提案をまずしないはずだ。

 だけど本当に大丈夫だよな。あいつって意外と俺に対して解放的なところがあるし。間違いなく、俺の前でも着替えるぞ。さっきだって俺が風呂の温度を確かめているにも拘らず平気で脱ごうとしていたし。

 より一層、不安が増した。


 俺が心の底から静香の水着姿に対して不安を抱いていると静香が俺に入ってくるように言った。どうやら着替えが終わったらしい。

こうなったら、出たとこ勝負だ。

 俺が勢いよく脱衣所のドアを開けて中に入るとそこにはやはり、中学時代に海に行った時に着ていた白いビキニを無理矢理着た静香がいた。

 紐などは体に少し食い込み。きっと俺以外の男性が見ていたら変な気を起こしたかもしれない。


「お待たせしました、先輩。では一緒に入りましょうか」


 静香がそう言って両手の掌を合わせるとそれに呼応したかのように、彼女の胸に付いた二つの塊が大きく揺れた。

 正直俺はそれを見ただけでも恥ずかしくてそこから逃げ出したくなってしまったが、これはある意味俺のこういう時にヘタレてしまう部分を治すいい機会かもしれない。

 俺は静香を先に浴室に入れ、あいつが体などを洗い終わるのを脱衣所で待つと、意を決して自分も浴室に入った



                   *


 体や髪など一通り洗い終わった俺は、一人ゆったりと湯船に浸かる静香に視線を向けた。


「それで? 俺はどこに入ればいいんだよ」


 俺が尋ねると静香は「少し待ってください」と言って、一度風呂の中から出ると俺に風呂につかるように言った。そして俺が言われるがまま湯船に浸かり、足を伸ばすと静香はその状態の俺を椅子にし、その上に座った。


「これで完璧です」

「何が完璧だ。こんなの第三者が見たら完璧にアウトだろうが。俺が通報されるぞ」


 静香の顔は見えないが、俺は一応いつもの様にツッコミを入れた。


「そもそもお前、こんなに俺と直に触れ合ってドキドキとかしないのか?」

「特にありませんね。寧ろ先輩の方がドキドキしてるんじゃないですか? 私のこのナイスボディーに魅了されて」

「ああ、そうかもな。今、実際にすごいドキドキしていて本当に心臓が爆発しそうだ」


 肌に触れる女の子の柔らかい感触。そしてシャワーを浴びた直後だからだろうか。体からはシャンプーなどの良い香りがする。きっとこれでドキドキしないような奴は男ではないだろう。そもそもこいつのことが本気で好きな俺としてはドキドキなどとうに超えているのだが。


「だけどこういうことは俺以外の奴にはするなよ」


 俺がそう言って注意をし始めると静香はこちらに顔を向けた。


「俺だから勘違いしないだけで。他の奴はきっと勘違――」


 俺がそう言って説教をしていると静香はいきなり立ち上がり、シャワーを掴み俺の顔へ向けると「先輩は本当におバカです」といつも通りのセリフを呟いて、お湯を掛けてきた。

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