第15話俺と後輩とツーショット

 ゴールデンウィーク初日。俺は何を思い出したのか部屋の掃除をしていた。


「先輩、疲れました。そろそろ休憩しましょうよ」

「ダメに決まってるだろ。そもそも俺の部屋にあるガラクタのほとんどはお前の私物なんだから、お前がいなきゃ片付くものも片付かないだろうが」

「それはそうですけど。それにしても多すぎませんか? よくよく見ると私がなくしたと思って新しく買った雑誌なんかもありますし」

「本当にお前は俺の部屋に物を忘れに来てるんじゃないかって割と本気で思う時があるぞ」


 俺がそう言って静香の私物が入った段ボールから一通り物を出していると静香が大声を出した。


「あっ‼ こんなところにありました、私のアルバム」


 そう言って静香が手に取ったのは犬などの絵がプリントされたアルバムだった。


「流石の俺もお前がアルバムを置いてくなんて思わなかったぞ。思い出は大事にしろよな」


 一通り段ボールの中からガラクタを出し終わった俺はその段ボールをとりあえずベッドの上に置き、改めて部屋中を見回した。

 机の周辺には静香が今年に入ってから忘れて行った雑誌が二十冊程度。そしてボールペンや消しゴムなどの忘れ物が複数。その他にもハンカチやら、靴下やら。部屋の主である俺ですらこんなものがあったのかと驚くほど多種多様に色々なものがあった。

因みにアルバムを見つけてから本人が何をしているかというと。


「見てくださいよ、先輩。やっぱり中学時代の私も可愛くないですか‼ 滅茶苦茶可愛すぎて激ヤバです‼」


 昔の自分が写った写真を見て自画自賛していた。


「はい、はい。そういうのはいいから掃除の続きを――」

「先輩。この写真、見てくださいよ」


 静香にそう言われ視線をアルバムに向けるとそこには、引っ越してきたばかりの静香と中学の制服を着た俺がウチの玄関前に立っている写真が納まっていた。


「懐かしくないですか?」


 そう尋ねられた俺は場の空気に流されるまま静香の隣に座り、その写真に視線を落した。


「まあ、少しはな。それにしてもお前ってこのころはちゃんと小学生の体型だよな。一体いつそんな兵器を手に入れたんだ」

「中学二年生の時には既にEカップはありましたからね。たぶん中学一年の後半あたりではないでしょうか。それにしても先輩、その写真について昔から気になっていたことがあったんですが」

「何が気になったんだ。別に可笑しいところなんてないだろ」

「何を言っているんですか、先輩。良くここを見てください」


 そう言って静香が指を差したのは写真に写った俺の顔だった。


「俺の顔がどうかしたのか? 因みに俺の顔が変とかそう言うたぐいの話なら全面的に無視するからな」

「いえ。先輩の顔は今も変ですが、私が気になったのはそこじゃなくて。なんで先輩、私から少しだけ重心を逸らしてるんですか?」


 確かに。よくよく見ると重心を少しだけ静香から話しているのがわかる。


「それは多分、自分よりも若い奴のフレッシュさに押された所為じゃないのか?」

「私と先輩の歳の差なんて一歳です。ほとんど変わりませんよ」

「いや、小学生と中学生とじゃかなり違うだろ。そもそもこの時の俺、相当機嫌が悪かったような気がするぞ」

「何か、根拠でもあるんですか?」

「だって、この写真に写ってる俺の顔をよく見てみろよ」 


 静香は俺に言われた通りに写真に写った俺の顔を見るとすぐに察しった。


「確かにこの写真の先輩、カメラの方をすごい睨みつけてますね。それで思い出しましたが、これ重心を逸らしてるのは多分先輩じゃなくて私です。確かにこの時の先輩、少しだけ雰囲気が怖かったです。それにしても何を怒ってたんですか?」

「俺も詳しいことは覚えてないが、確かこの日は中学の入学式が午後からで本当はギリギリまで寝てるつもりだったのに。カメラを持った親父に朝の五時に起こされたんだ」

「先輩。それ、本当は今でも恨みに思ってるんじゃないですか?」

「わかるか?」

「ええ。先輩が今までにないぐらい恐ろしい笑みを浮かべていますから」


 いつもなら誰かに対して呆れ顔をするのは俺の役目のはずだが、今日はその役目を静香に譲ることにした。


「それにしても」


 俺はそう言うと静香が見ていたアルバムを手に取り一ページずつめくり、収められている写真を見た。そしてしばらく見ると驚きの事実が分かった。

 そういえばこのアルバム。俺と静香が二人で写ってる写真ばかりだな。まさか、俺と自分のツーショットを集めたアルバムだったりして。まさかな。

 俺が冷静に収められている写真の種類を推測しているとそんな俺を見て何を思ったのか、静香は立ち上がり、机の上に置かれていた俺のスマホを手に取った。


「先輩。そういえば、今年はまだ二人で一度も写真を撮ってませんでしたね。久しぶりに取りませんか?」


 確かに中学の頃は静香にせがまれて、嫌々プリクラなどでツーショットをやらされたり、突然声を掛けられたかと思えばいきなりツーショットの写真を撮られていたが、最近はとってなかったな。


「まあ、一枚だけなら構わないぞ」


 俺がそう言うと静香は「ありがとうございます」と言ってなぜか俺単体の写真を撮った。


「え?」


 どうして自分単体の写真が撮られたのかわからない俺がアホっぽい声を漏らすと静香はニヤリと笑みを浮かべていた。


「先輩。そんなに私とツーショット写真が撮りたかったんですか?」

「今すぐ、俺のスマホを返せ‼」

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