俺とあざとい後輩の恋愛は上手くいかない
リアルソロプレイヤー
俺とあざとい後輩の恋愛は上手くいかない (本編)――――主人公視点
第1話俺と後輩と帰り道
俺はいつも通りの通学路を歩きながら、溜息を吐きこう言った。
「あー。出会いが欲しい」
するとなぜか隣から、突き刺さるような視線を感じた。俺がゆっくりと首を動かし、隣を見るとそこには、不満げな顔をしている俺の後輩がいた。
「なんだよ、静香?」
俺がその後輩に対して、俺に何か言いたいことがあるのかと尋ねてみると、ぷいっと顔を背けてしまった。
「別に何でもありません。先輩がそういう人だっていうことは昔から知っています」
静香は名前に反し、いつもうるさいほど賑やかなやつだ。きっと彼女の御両親も付ける名前を間違えたと思っているだろう。
こいつ、見た目だけは名前の通りなんだよな。黒髪を背中の辺りまで伸ばして、発育だって、高校一年生にしては――
「先輩。私でもそんなに胸を凝視されたら、怒りますよ」
俺が静香の他の女子よりも成長している一部分を目視していると、彼女はそういう視線に慣れているのか、俺に注意を促した。
「言っておきますけど、先輩。私以外の人の胸を凝視したら、先輩の場合即裁判です。死刑です」
「おい、見るだけでも裁判で死刑ってあんまりだろうが。そうなると俺はお前の胸しか、見られないだろうが」
そもそも俺は胸じゃなくて、内面を重視するんだけどな。それで言ったら、こいつはギリギリだな。
「それにしても、先輩。目の前にこんなに可愛い後輩がいるのに、出会いが欲しいなんて、どういうことですか。我儘もいいところです」
「自分で自分のことを可愛いっていう奴は大概、可愛くなんかない」
「それはつまり、私が可愛くないって言うことですか⁉」
「だけど、何事にも例外はあるものだよな」
俺が静香の驚きに対して、そんなことを言うと彼女は、俺の言葉の意味を理解したのか、どこか嬉しそう笑みを浮かべた。
「先輩は相変わらず、素直じゃありませんね」
「人間、何事も馬鹿正直に挑んでも成功なんかしない。時には嘘も大事だ。ちなみに、さっきお前に言った言葉も嘘な」
「それってやっぱり、可愛くないって事じゃないですか⁉」
「ああ、つまりそう言うことだ」
俺が静香の言葉を肯定すると、彼女は弱々しく俺の足を蹴った。
全く、こいつのどこが静香だよ。もっとなんか似合う言葉がこいつにはあるだろうが。
俺がそんなことを思っていると、すぐ隣を歩いていた静香が足を止めた。
「どうした、静香?」
静香に質問すると、彼女は近くのコンビニを指差す。
「先輩。アイス食べたくなっちゃいました」
「やめとけ、太るぞ」
俺がそう告げて、その場を離れようとすると、静香が俺の制服の袖を引っ張った。
「大丈夫です。私、いくら食べても太らない体質なので問題ありません」
「あ、そう。なら、俺はここで待ってるから一人で行って来いよ」
「いえ、先輩も行きましょうよ」
静香はそう言って俺の手を掴み無理矢理引っ張り始める。
「言っておくけど、奢らないからな」
俺が前提条件として、それを言うと静香は俺の手から自分の手を離し、下手な作り笑いを浮かべた。
「な、何のことですか?」
「シラを切っても無駄だぞ。顔に奢って下さいって書いてある」
「そんなことないですよ」
「なら、一人で行って来い」
俺が静香の額を人差し指と中指で軽く突くと、彼女は自分の額を抑えて、俺に何やら文句を言いながら、コンビニの中へ入って行った。
悪いな、静香。俺も今月は厳しいんだ。だから、お前に奢る余裕なんて――
「先輩」
俺がコンビニの方へと視線を向けるとそこにはもうアイスを買って来たのか。静香がこちらに駆けて来ていた。
超早い。え? あいつがコンビニの中に入って一分も経ってないよね。どんだけ、早いの?
静香は俺のところに来るとレジ袋の中からアイスを一つ取り出し、これみよがしに見せつけてきた。
「なに? 俺を虐めてるの?」
「私、そんなにひどい後輩じゃないですよ。これ先輩の分です」
「とか言って、後でお金を取るつもりじゃないだろうな」
俺は一瞬手を伸ばしかけたが、その結論に至り、伸ばしていた手を下した。
「取りませんよ。そもそも、先輩だって私に奢ったときお金なんて請求しないじゃないですか?」
「あれはお前が絶対に払わないってわかってるから、請求しないだけだ」
「いくら先輩でも失礼です。私だってちゃんと払いますよ」
「なら、俺が今までに奢った諸々のお金を返してもらおうか?」
「あ、すいません。今、手持ちがないんですよ。だから、また今度でいいですか?」
ほら、払う気がない。だけど俺は年下に奢ったものに関しては、金を請求する気は全くない。
正直、年下に奢って金を返してもらうとなるとこっちとしては案外かっこ悪いじゃん。
でも金をとる気がないなら、ここはありがたく貰っておくことにしよう。
俺がアイスに手を伸ばすと静香はまるで、俺がアイスを手に取るのを待っているかのように俺のことを見つめていた。
絶対にこいつ、何か企んでいるだろう。と思ったけど、ここは仕方がない。乗っておくことにしよう。
俺は静香の持っているアイスを手に取り、それが何味か見るとどうして静香があんな表情をしていたかわかった。
「おい、何だよ。アイスでカレー味はないだろう」
俺が静香から渡されたアイスは『バリバリ君』という昔からあるアイスだった。そして、俺がカレー味なのに対して、静香は王道のソーダ味。
「先輩。食べたら、味の感想をくださいね」
「いや、これを食えって言うの? お前、一応俺の後輩だよね。俺が後輩なら、先輩にはこんなのよりも王道のソーダ味を――」
俺がそう言っている間に静香はアイスを出し、食べ始めていた。
え、マジで。流石の俺でも絶対にアイスとカレーが合わないって言うのはわかるぞ。というかこれって本当はアイスの中にカレーが入ってるとかっていうオチじゃないだろうな。もしそうなら、苦情を入れてやる。
「先輩、もしかして気に入りませんでしたか? なら、仕方ありません。違うのを買ってきます」
俺が食べようかどうか悩んでいると静香が悲しそうにもう一度コンビニへ行こうとした。
「待て、食うから。だから、少し気持ちの整理をさせてくれ」
俺はゆっくりとアイスを袋から出した。
色がマジでカレーの色だ。そして、どこかスパイシーな匂いまでしてくる。これ、本当はカレー粉だったりするんじゃないのか。
俺は迷いながらもゆっくりと一口だけ食べてみた。
そして、味の感想は――
「うまい」
驚いたことにカレー味はソーダ味と同じぐらい美味しかった。正直、俺の味覚がオカシイのかと思ったが嘘ではない。その証拠に――
「せ、先輩。私にも、私にも一口だけ」
美味しい食べ物にすぐ気づくこいつが目を輝かせている。
「一口だけだぞ。もしくはソーダ味と交換だ」
「なら、ソーダ味と交換します」
こいつ、あっさりと交換しやがった。そこまでするほど美味そうなのか。
俺は持っていたカレー味を渡すと静香が持っていたソーダ味を受け取った。
「では、先輩。いただきます」
静香は目を輝かせて一口目を口に入れた。
「これは確かに、美味しいです。カレーなのに冷たくて美味しいなんて、凄すぎです」
この分だとこいつすぐに食べ終わるな。全く、普通なら男の前だとゆっくりお淑やかに食べないといけないんじゃないのか、女子高生。
それにしてもこいつ……気にしないのか?
静香は自分のアイスを食べ終わると俺のことを見つめた。
「先輩。そのアイスを食べないなら、私に返してくれませんか」
「別にいいぞ。そもそも俺は食べたいわけじゃなかったし。それよりもお前、俺と間接キスになるけど良かったのか?」
「何か、問題ありますか?」
静香は首を傾げ、俺に聞いてきた。
「特に何も」
こういうとき、何の恥じらいもなく訊き返されるとどう答えればいいかわからなくなる。
「それよりも、先輩。アイスを奢ったお礼として私の頼みを一つ聞いてくれませんか」
「俺、一口しか食べてないんだけど」
「そんな言い訳は通用しません」
「というか、金は取らないとか言ってなかったか?」
「ええ、取りませんよ」
「なら、一体何が望みだよ。言っておくけど、たいしたことはできないぞ」
「先輩にそういう期待はしていません」
期待してないのかよ。
「だから、先輩には私と一緒にここへ行ってもらいます」
静香がそう言って俺に見せてきたスマホには『カップル限定・一日遊び放題で半額』とこの辺りでは有名な遊園地のサイトが表示されていた。
「おい、カップル限定って書いてあるぞ」
「問題ありません。私達って見ようによってはカップルに見えると思います。それとも先輩は私と恋人のフリをするのは嫌ですか?」
「いや、別に。そもそも、いつも通りにしてればいいだけだろ」
静香は俺の言葉に首を傾げたが、俺は今までに何度かクラスメイトから静香と付き合っているのかと質問されたことがある。つまり、俺達は普通に生活しててもカップルに見えるって言うことだ。
「なら、次の日曜日に一緒に行きましょう」
「別に構わないけど、お前は良いのか? 俺と恋人のフリとか。というか、お前ももう高校一年生なんだから、そろそろ彼氏とか作れよな」
「先輩。先輩は本当に私が誰かほかの人と付き合ってもいいんですか?」
静香は俺の顔を覗き込むようにし、俺に質問してきた。
正直、今までにも俺はこいつのことが好きなんじゃないのかと錯覚したことはあるし、もしかしたら、こいつの方が俺のことを好きなんじゃないのかと思ったこともある。
だけど、それは俺の勘違いだったんだと思う。それに俺はこいつとの今の関係が案外、気に入っている。後輩以上恋人未満のこの関係が。だから正直、何と答えればいいかわからなかった。
俺が黙り続けていると俺の困っている様子を十分楽しんだのか。静香は俺から顔を離すと笑い出した。
「もしかして、先輩。今の話を本気にしましたか。大丈夫ですよ。私は当分の間は誰かとそういう関係になるつもりはありません。それに私に彼氏ができたら、遊び相手がいなくなった先輩が寂しがりますからね」
「別にそんなことは――」
俺が静香の言葉を否定しようとすると静香は俺の両頬に手を伸ばし、俺の頬をまるでゴムみたいに伸ばした。
「いきなり、何するんだよ」
「先輩、本当にないって言い切れますか?」
俺は一瞬、その質問。その声色の所為で何も言えなくなってしまった。
ずるいだろ。そんな、どこか寂しそうな表情でそんなことを言うなんて。
「わかった。少しぐらいなら、寂しがってやるよ。これで満足か?」
俺が静香に聞き返すと静香は一度頭を下げた。
「はい、今のところは満足です」
静香はそう言っていつもの様に満面の笑みを浮かべた。
これじゃあ、後輩って言うよりも妹だな。
涼風静香は俺、月神忍の向かいの家に住む女の子である。そして恋人でもなく、友達でもなく、幼馴染でもない。ただの後輩だ。
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