アイランド

はし

彼と彼女の思い出

 夕暮れの川べりに、学生服を着た二人組が歩いている。大股一歩分の距離が、近づいては離れ、また近づく。

「幸せの国って知ってる?」

学生服の少女が言うと、隣を歩く少年は小首をかしげた。オレンジ色に染まった空は、少女の横顔を暗くした。

「知らない。どこの国なの?」

少年は横目で隣の少女を見た。短い茶髪の髪がまだ少し濡れている。健康的に焼けた首筋に雫が流れていった。

少女の顔はまっすぐ前を向きながら、目はアスファルトを見ていた。二つの黒い影が揺れている。

「国っていっても、国じゃなくて…何て言ったらいいかな」

「どういうこと?」

「幸せの国はね、眠ってる間だけ行ける場所なんだって」

沈黙。少年の目がじっと少女のつむじを見ていた。かつん、と音が響く。少女の足が小石を蹴った。

「つまり夢ってこと?」

転がった小石はアスファルトの歩道を外れ、草原に落ちた。少女は興味なさげに視線を外すと、また自らの足元まで目線を落とした。

「まあ、そういうことになるね。でも、ただの夢じゃないの」

少年がバックを肩にかけなおす。少女の視線は相変わらずアスファルトの上を泳いでいた。少年も追うようにその視線の策を見るが、お互いの影以外、めぼしいものはない。

「眠るときに、あるものが無いと、幸せの国には行けないの」

「あるもの?」

「そう。幸せの国へのチケット」

少女が両手の親指と人差し指を伸ばし、長方形の形を作る。

「それはどうやって手に入れんの?」

「わかんない」

「じゃあ行けないじゃん」

少年が空を仰ぐ。唇を突き出し、両手を頭の後ろに回した。部活動で酷使した肩が少しほぐれた。

「そう。誰でも行けるわけじゃないの。でもね、行った人がいるんだよ」

「嘘くさいなあ」

「だからさ、私も」

少女が一歩前に出た。突然の大きな一歩に対応できなかった少年は、少女の背中を見た。ピンと伸びた背筋は、夕日に染まって悲しげに見えた。

「行けるんじゃないかなあ、なんて思うんだよね」

少女が振り返る。少年を見る少女の笑顔はいつものように愛らしく、いつもよりもぎこちなかった。

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