VRMMORPGクリティカルコード~デスゲームにて奮闘、俺と僕~

城屋

第一章 VR世界に閉じ込められたネカマ親友とSSRキャラと俺(Help me)

第1話 ガチャったら驚いた

 その日、VRMMORPG『クリティカルコード』はデスゲームと化した。あまりのショックに情報はほぼ耳を滑ってしまっていたが、どうやら『この世界でゲームオーバーになると現実の体が死んでしまう』らしい。


 原理は置いておこう。そもそもこの話の主人公であるナワキ(本名、大網京太おおなわきょうた。ナワキはアバター名)は、この時点での説明をほぼ聞き逃している。それどころではなかったからだ。


『ゲームを始めよう! さあ、私を攻略することができるかな?』


 空に浮かぶホログラフディスプレイを呆然を見つめ、ナワキは固まっていた。その後、ホログラフディスプレイが消え、体が震え始めた。まるで大吹雪の中、買い物する飼い主によって屋外に放置された犬のように。


 ゲーム中での死がそのまま現実での死に直結するデスゲームに放り込まれたから――と言うと若干語弊がある。原因の一つではあろう。だがすべてではない。


 この状況とシナジーを起こすと、物凄く危険ながいたからだ。


「……ほう。実際に死ぬ、か」


 相棒その一。いわゆるガチャキャラ、つまりNPC。レアリティは一般的なソシャゲに例えるならSSR。容姿はレアリティ相応、黒い髪と黒いワンピース型のドレスと麗しい。

 少し話が逸れるが、このゲームはリアルの世界では何作も発売され、外伝を含めば十作以上出ている歴史あるゲームだ。


 当然、そんな作品のガチャから排出されるSSRキャラともなれば『シリーズ全体を通して見ても頭一つ抜けた人気』を持っているのが自然だろう。


 彼女の名はラファエラ。得意技は。代名詞も。ファンサイトで彼女のことを語るときに真っ先に出る単語はである。


 ナワキは知っている。にこやかに笑っている後ろ手に安全ピンを隠し持っていることを知っている。用途は当然、主人となっているナワキを刺すためだ。

 安全ピンは本来なにかを留める用途しか持たないのに、誰かを刺すことが当たり前になってしまうのは彼女のキャラクターが成せる業だろう。


「……仮に……今の世迷言が本当だったなら、なあ。俺死ぬぞ。本当に死ぬぞ。助けてくれ慎吾……慎吾?」


 こんなとき心の支えになるとしたら、リアルでの友達だろう。それも付き合い十年以上の幼馴染となれば、その強度たるやダイヤモンドにも劣るまい。

 しかしその親友、法螺貝慎吾ほらがいしんごはと言うと、アスファルトの地面に両膝をついて頭を抱え、まったく微動だにしていない。


 それにしてもこの親友、目のやり場に困る。別にナワキに同性愛の気があるのではなく、親友の姿形が現実とはかけ離れているからだ。


 髪は金髪。瞳は碧。派手なファー付きの白いコートの下は、胸ががっぽり開いた現実ではそこそこありえない造形のカットソー。かなり短く腿がほぼ晒されたラバー生地のパンツ。頭には薄い色の、それでいて本人の顔に比べると大き目のサングラスが乗っかっている。


 そう。胸ががっぽり開いている。そして、微妙に膨らんでいる。男性ではありえない体の造形だが、リアルでは男性である。

 今この状況では違うだけで。


 法螺貝慎吾はネカマである。そして、脱出不可能のデスゲームにおいて、ネカマは精神的な自爆自傷だ。

 法螺貝慎吾、アバター名ツミナはその姿形に相応しい可愛らしい声で嘆く。


「キャラメイクをやり直させてほしい……!」

「それどころじゃない! 俺! 俺の心配して! ラファエラ! ついさっき引き当てたラファエラに殺されるかもしれない瀬戸際だぞ! おい!」

「僕は美女が揃うこの世界においてチンコを既に失ってるんだッ! 命くらいなんだッ! ああもう僕はこの先金髪碧眼の低身長微乳の女の子を見ても一生おっきっきしないのかーーー!」

「おいこらヒゲ面ァ! 金髪碧眼美少女の姿で最低な発言してる場合かコラ! 第一テメェ彼女持ちだろ!」

「その彼女にすら一生エロエロなことができないんだぞぅ! 僕は……僕は……」

「なあ」


 ふと、親友にがなりたてているナワキの背中に柔らかい感触。ラファエラがしなだれかかってきたらしい。

 このゲームの大ファンなら何回も見た手順だ。この後、ラファエラは気に入った人間のことを刺す。手に持った任意の刃物で、だ。

 今回は安全ピンで助かったが、たまたま手に入った凶器が包丁だった場合でも容赦なく刺す。

 至近距離で撃たれたら人体に穴が開く程度では済まず、人体が爆発してしまうような化け物拳銃だったら迷いなく撃つ。


「二人だけでお喋りか? 寂しいな。私も混ぜてくれよ」


 NPCだとは思えない艶めかしさと生々しさで、ラファエラはナワキの背中を刺す。


「痛いいってぇ!」


 痛みもリアル。血が出る感触も限りなくリアル。背中に伝う粘った水っぽい気配も熱も柔らかさも吐息が服を熱する感覚も――!


「……しかし本当不自然だな。本当は中に人が入ってるんじゃないか?」


 NPCだとは思えないほどの、表情に宿る生命力も。ツミナが一瞬で呆れて冷静さを取り戻すほどに。

 不自然なほどに自然だった。


 緑化した新宿区がスタート地点。血の通った人間二人。NPCが一人。合計三人の共同生活が始まる。

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