2 レディ・プレーヤー・キャット
〈2.1〉アンジュが呼んでいる
“日曜学校”とファントムの
が、収穫はゼロ。俺の
気まぐれそうなファントムはともかくとして、雇用主不明の“日曜学校”までもが痕跡を
前回の失敗(生徒の一人が逃げ遅れて逮捕されたらしい)で雇用主が諦めてくれたのならまあいいが、この業界には異常に執念深い奴だっている。二十年前の遺恨を晴らすために、世界の裏側まで追いかける奴も珍しい話じゃない。本当に気味が悪いのは、雪を狙う目的がわからないことだ。
だがまあ、とにかく平和な日常が続いていた。
その日、ガレージハウスに戻るまでは。
「で、さあ、その“コートアーマー”はなんなの? いい加減教えてよ」
学校からの帰り道、何度目かもう数え切れない質問を雪はねだった。その視線は、あの日以来持ち歩いている俺の“パーシヴァル”のアタッシュケースに注がれている。
「“パーシヴァル”、以前に使ってた“コート”だ」
「そういうんじゃなくてさぁ……あんなのありえないじゃん。アタッシュケースからぐわーっ飛び出して、巻きついて“コート”になるとか。雑誌でもネットでも見たことないんだけど」
「この前も言ったけどな、これ以上尋ねる気なら、もう俺のガレージハウスには入れてやらないぞ」
いつもの殺し文句でようやく雪は黙り込む。だが、依然として不服そうに俺を睨みつけていた。
わざと遠回りして、ガレージハウスに向かう。相変わらず尾行の影もなくほっとしていたのだが、その実トラブルの種は俺たちを追いかけていたのではなく、待ち構えていた。
ガレージのシャッターの前で、ライダースーツに身を包んだ長身の女が、これまた巨大なバイクに跨ってエンジンを吹かしていた。肉抜きの目立つ一〇〇〇ccのアメリカンバイクはやたらな改造のせいで肥大化しており、軍艦に跨っているようなものだった。
「え……誰」
フルフェイスのヘルメットで顔の見えないライダー。住宅街に響くぶるるんぶるるんという威圧的なエンジン音。俺たちが戻ってくるまでああして待っていたのだろうか。近所迷惑が過ぎる。
しかし、こいつが来たということはろくでもない用事が待っているはずだった。
「ミツグ、“コート”の修理にはもう少しかかるって言ったはずだ」
俺がそう呼びかけると、
「そんなん知らんしな。アンジュ姉が呼んでるから、ミツグちゃん来たんじゃん」
「なんの用事だ」
「ごちゃごちゃ言うなっつーの。アンジュ姉が呼んでる。だからハガネは一緒に来る。なんか文句ある?」
ミツグはバイクに跨ったまま、ハンドルを握った。脅すように、ぎゅっぎゅっと
俺はアタッシュケースをゆっくりと掲げた。
「お前にここで暴れられると面倒なんだよ。お前ら犯罪者と違って、俺はお日様の下で生きてるんだからな」
「……? 私も地球で暮らしてるよ?」
そうだった。こいつは馬鹿だった。
「わかった。一緒に行く。その前にこいつを自宅に送ってくる」
雪が俺の肩を引っ張って、耳打ちしてきた。
「……今日は“ナイトライダー”の装甲見せてくれるって言ったじゃん。せっかくペイントしてあげようと思ってガンダムマーカー買ってきたのに」
「アンジュ姉が駄目だって言ってた。そっちの可愛い娘も一緒で来いって」
「……ていうか、あなた誰ですか」
ミツグは革の手袋を外して、にっこり雪に手を差し出した。
「すすくちゃんとミツグちゃんはタメだよ」
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