第40話『シスターズ-前編-』

 明日は休日だけれど、出張の疲れがあったので早めに寝ることに。もちろん、エリカさんと一緒に。エリカさん曰く、昨日は俺が家にいなかったことと、愛実ちゃんの告白を傍聴したことで、今夜は絶対に俺と一緒に寝ると心に決めていたとか。


「やっぱり、宏斗さんと一緒に眠るのが一番いいね」

「そうですか。ちなみに、昨日の夜はどうしていたんですか? 2人のお部屋でリサさんと一緒に?」

「ううん、宏斗さんの匂いを感じたいから、このベッドでリサと一緒に寝たの」

「……な、なるほど」


 リサさんはそれをよく許したなと思う。掛け布団を嗅いでみると、リサさんの匂いがするような気がする。


「今日は幸せな気分で眠ることができそうだよ」

「……そうですか。じゃあ、おやすみなさい」

「うん、おやすみなさい」


 エリカさんは俺の頬にキスをして眠り始める。

 やっぱり、自宅のベッドでエリカさんと一緒に寝るのが一番いいな。たまに寝ぼけてケガをする恐れがあるけれど。

 可愛らしい寝顔を見せるエリカさんの額にキスをして、俺も眠りにつくのであった。




 7月20日、土曜日。

 ゆっくりと目を覚ますと、部屋の中がうっすらと明るくなっていた。部屋の時計を見ると午前7時過ぎか。休日として早い目覚めだ。


「うん、宏斗さん……」


 エリカさんは俺の腕をぎゅっと抱きしめており、脚も絡ませている。俺の名前を呟くってことは、彼女の夢に俺が出ているのかな。

 それにしても、エリカさんの寝顔って本当に可愛らしいな。愛実ちゃんに告白されたときに、エリカさんが気になっている存在だって言ったからか、今まで以上に可愛らしく見えて、ドキドキしてくるな。


「うんっ……」


 エリカさんはゆっくりと目を開け、俺と視線が合うと優しい笑みを浮かべる。その瞬間に全身に温もりが走ったような気がした。


「おはよう、宏斗さん」

「おはようございます、エリカさん」

「……目が覚めたときに宏斗さんの姿が見えるっていいね。今日も幸せだ」


 そう言って、エリカさんは俺の頬にキスをした。

 俺も目を覚ましたときにエリカさんがいることに安心できる。お返しをするように彼女の頬に長めのキスをしたのであった。




 今日は美夢と有希と愛実ちゃんが家に泊まりに来ることになっている。

 昨日のうちに、美夢と有希にはエリカさんとリサさんのテレポート魔法で行き来してもらうことを伝えておいた。

 エリカさんは美夢と有希のことを、リサさんは愛実ちゃんのことをここに連れてくることになっている。


「じゃあ、宏斗さん。いってくるね」

「いってきますね、宏斗様」

「2人ともいってらっしゃい。気を付けてくださいね」


 すると、エリカさんとリサさんは一瞬にして姿を消した。さて、どっちが早く連れてくるのかな。

 リビングに戻って、俺は温かいコーヒーを淹れる。夏でも温かいものを飲むと気持ちが落ち着く。


「美夢と有希と最後に会ったのはいつだったかな……」


 特に美夢とはメッセージをやり取りするけれど、確か、今年のゴールデンウィークに帰省したときに会ったのが最後だったか。

 すると、玄関の方から何やら女性達の話し声が聞こえてくる。どちらかが帰ってきたのかな。


「ただいま帰りました、宏斗様」

「おはようございます、宏斗先輩」

「おかえりなさい、リサさん。おはよう、愛実ちゃん」


 リビングに入ってきたのはリサさんと、キュロットスカートに半袖ブラウス姿の愛実ちゃんだった。愛実ちゃんは出張のときと同じ大きめのバッグを持っている。あと、一昨日、俺に告白してフラれるということもあったけど、彼女はいつもと変わらない元気な様子を見せている。


「私達が先のようですね」

「愛実ちゃんだけですからね。美夢と有希はエリカさんと会うのは初めてですし、もしかしたら俺の両親に挨拶をしているのかもしれません」

「ふふっ、そうかもしれませんね。愛実様、お飲み物は何にしますか?」

「冷たい麦茶がいいな」

「では、用意いたしますね」


 愛実ちゃんは俺と向かい合うような形で椅子に座った。


「以前、呑み会などで先輩には妹さん達がいると聞いたことはありますが、どのような方達なんですか?」

「大学2年生の美夢と、高校1年生の有希っていう2人の妹なんだ。写真を見せるね」


 俺はスマートフォンを手にとって、最近撮影した美夢と有希の写真を表示させ、愛実ちゃんに見せる。


「うわあっ、可愛くて美人な妹さん達ですね!」

「そう言ってくれると嬉しいよ。ロングヘアで優しい雰囲気の方が美夢で、ミディアムヘアで真面目そうな子が有希だよ」

「そうなんですね」

「麦茶をお持ちしました。……妹さん達のお写真ですね。何度見ても可愛らしいです」

「可愛いよね、リサちゃん。麦茶ありがとう」


 旅行から帰ってきたときと同じように、愛実ちゃんは麦茶をゴクゴクと飲んでいる。そんな彼女の隣にリサさんが座る。


「お二人は宏斗様に似て、落ち着いて真面目なんですか?」

「俺に落ち着きがあって真面目なのかは分かりませんけど、有希の方は真面目ですね。クールなところもあって」

「有希ちゃんは宏斗先輩にそっくりなんですね」

「確かに、たまにクールそうなところを見せますね、宏斗様は」


 俺って真面目でクールだと思われていたのか? 愛実ちゃんは一緒に仕事をしているから、そういう風に見えるのかな。家ではゆったりと過ごしているつもりなんだけど。


「では、こちらの美夢様の方はどのような女性なのですか?」

「優しくて温厚な性格ですね。のんびりふわふわしているところもあって。あと、俺に凄く甘えてきますね」

「ふふっ、お兄ちゃんっ子なんですね。のんびりふわふわしているところを除けば、美夢ちゃんも宏斗先輩に似ていますね」

「確かに、温厚な性格ですよね、宏斗様は。力を加減せずにエリカ様が抱きしめたり、叩いてしまったりしても怒りませんし。何よりも、ここにやってきた私の否定な態度についても、怒った様子を見せずに落ち着いて接してくださいました」

「そんな話、旅行のときに話してくれたね。宏斗先輩もよく怒りませんでしたね」

「……あのときのリサさんの言うことも理解できたからね。結構堪えたけれど」


 お風呂に入ったり、一緒に寝たり。耳やしっぽを触ったり。そんな話を聞けば、人にとっては俺のことを厭らしい人間だと思うだろうと納得できたから。お腹にパンチを喰らわされたり、胸倉を掴まれたりしたのはまだしも、自分の分だけ夕食がなかったことが一番キツかったかな。

 今まであまり思わなかったけれど、美夢と有希は意外と兄である俺に似ているのかもしれないな。あと、個人的に美夢はエリカさん、有希はリサさんと重なる部分があると思っている。


「それにしても、エリカさんの方は遅いですね」

「とりあえず、透視魔法で様子を見てみましょうか。宏斗さん、目を瞑っていてください」

「分かりました」


 俺はリサさんの言うとおり目を瞑ることに。

 すると、程なくして肩に温かな感触が。リサさんが俺の肩に触っているのだろうか。こうすることで、俺も透視魔法を体験できるのかな。

 それまで、暗闇だった視界がぼんやりと明るくなっていく。映像は段々と鮮明となっていき、


「ここ、俺の実家ですね」

「そうですか。エリカ様がいる場所の様子を見ているのですが、ちゃんと宏斗様のご実家には行かれているのですね」

「ええ。……あっ、リビングから美夢と有希、エリカさんが出てきましたね」


 美夢も有希も元気そうだな。美夢はロングスカートに袖無しの縦セーター、有希は水色のワンピースか。2人とも可愛いな。自慢の妹達だ。あと、泊まりに来るからか大きめの荷物を持っている。

 それにしても、実家の様子をリアルタイムで見ることができるなんて。何だか不思議な気分だ。テレビに出ている方がスタジオから中継の様子を見ているのって、こんな感じなのかな。

 そんなことを考えていると、3人は玄関におり、一瞬にして姿を消した。


「はい、到着だよ」

「うわあっ、本当に一瞬でお兄ちゃんの家に来ちゃった!」

「信じられませんが、間違いなくここは兄さんの家です。凄いですね、魔法って」


 玄関の方からエリカさん、美夢、有希の声が聞こえてきた。


「無事にエリカ様達も到着しましたね」

「そうですね」


 俺は椅子から立ち上がって、ゆっくりとリビングの扉を開ける。

 すると、そこにはエリカさんと美夢、有希が立っていた。2ヶ月ぶりくらいだけれど、2人とも大きくなったような気がする。


「ただいま、宏斗さん。宏斗さんの家に住まわせてもらっているし、将来結婚するかもしれないってことで、宏斗さんのご家族に挨拶をしたら遅くなっちゃった」

「そうだったんですか。今度は3人で実家に遊びに行きましょうか。おかえりなさい、エリカさん。いらっしゃい、美夢、有希」

「確か、ゴールデンウィーク以来だっけ。久しぶりだね、兄さん。今日から高校が夏休みに入ったから遊びに来たよ」

「私はまだ大学はお休みじゃないけど来たよ、お兄ちゃん!」


 美夢はそう言うと、嬉しそうな笑みを浮かべて俺のことをぎゅっと抱きしめてきた。今年で20歳になるのに、美夢は小さい頃と変わらないな。そんな美夢のことをやれやれと言わんばかりの笑みを浮かべている有希も。


「美夢も有希も元気そうで良かったよ。さあ、中に入って」

「はーい!」

「おじゃまします。ほら、美夢姉さん、自分の荷物は自分で持って」

「うん!」


 やっぱり、美夢はエリカさん、有希はリサさんに重なる部分があると思うのであった。

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